再生を賭けた旅~秘境、網取での神秘体験(3)
「あなたはあなたのままでいいのです」
自分の中から聞こえたのに、空から降りてきたような気もした。
そのままの私で充分だったのだ。
もっと頑張らなければ取り残されるんじゃないかという恐怖も、他人から好かれ評価されなければ無価値なんじゃないかという不安も、消えていた。
足りないものは何もない。私は、ただ、いるだけで百パーセント。
すべてが許されている。こんな自由、初めてだ。
私は心の中に背負っていた重荷を全部放り出した。さえぎるものは何も無くなっていた。
私は身体一つで世界と対峙していた。
ふーっ、と深い息を一つした。そして、強く思った。この時の感覚を忘れずに生きていこう、と。この先、何があってもこの体験に戻ってくればいいのだ、と。
海の向こうに日が落ちてから、みんなで夕げの席についた。
島酒を傾け、海の恵みを食し、静かに一日を振り返る。
新しく生まれ変わった自分を発見する。そして、今日の日の出来事すべてに感謝を捧げる。
すると、私を網取に導いてくれたすべての人たち、すべての事柄に思い至る。もしも、美崎町で熱血の人に会わなかったら、もしも石垣に来ていなかったら、もしもこれまでの人生が無かったら、この日の幸せな気づきはなかっただろう。
そう思えば、この人生に無駄なものは何一つなかったのではないか……。
そうだ、見えてなかったものが、急に見えてきた。
ジグソーパズルのように、たくさんのパーツが組み合わさって出来上がったのが人生。そして、一つ一つのパーツは人生の大切な構成要素だったのだ。
何一つ余計なものはないのだ。あの裏切りも、あの失敗も。
すべて、これで良かったんだ。
過去を手繰り寄せて、繋ぎ合わせてみる。苦痛のあまり見たくなかった過去たち。長い間、忘却の彼方に追いやっていた過去たち。
それらが、かけがえのない愛しい存在に変化する。
祝福の紙吹雪が舞い降りてくる。
急に視野がぱーっと開け、人生が違うものに見えてきた。
ガラクタだと思っていたものは、宝物だったんだ。
私は戦うのを止めて、自分と和解した。
やっと平安が訪れた。
(終わり)
2011年3月執筆