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医師と精神医学: 何科の医師が一番メンタルを病むのか?~海外文献より~

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

少し前の話ですが、医師による立て篭もり事件がありましたね。

ネット記事によると自身が経営する医院に立て篭もったそうですが、その理由の一つに「疲労」があったようです。

このニュースを聞いて皆様の中には、「医師のメンタルって一般的にどうなの?」と疑問を抱いた方も多かったと思います。

結論から言えば...、

他職種より医師はメンタル的にヤバい…!

...ということが以前より知られております(医療業界では常識です😣)!

例えば平成28年に日本医師会が実施したアンケート調査によると、約6.5%の医師が中等度以上の抑うつ状態であり、約3.6%の医師が自殺のことを毎日または毎週考えているそうです…(切実😖)!

(ちなみに医師だけでなく、医療・福祉系は全般的にメンタルヘルスに問題を抱えている割合が高いのです)

今回の記事では、医師のメンタルヘルスに関するレビュー文献を皆様とシェアしたいと思います。

皆様にも"医師だって大いに悩んでいる”ということを知っていただければ幸いです。

尚、今回の文献も情報量が多いため一部のみをご紹介いたします。

(ご興味のある方は、リンク先の原文を是非お読みください)


【研究紹介】

Mental illness and suicide among physicians. Harvey SB et al., Lancet, 2021

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34481571/

<目的>
文献検索により医師のメンタルヘルスの現状を調査する。

<方法>
MEDLINE、Embase、PsycINFO、Google Scholarの検索により参考文献をピックアップした。これらの検索は2019年に行われ、2020年に更新された検索が行われた。データベースの開設から2020年11月3日までに発表された研究を検索した。 “mental disorder”, “burnout”, “substance misuse”, “suicide” の各種検索語句と“physicians” , “doctors”を組み合わせて英語論文を確認した。

<結果>

[うつ病と不安障害について]

・2015年に実施されたシステマティックレビュー(18カ国、17500人以上の研修医が参加した研究)によると、28.8%の医師がうつ病の可能性があることが示唆された(Mata DA et al., JAMA, 2015)。

・医師の不安障害については研究が少ないが、全般性不安障害は24%という研究報告がある(Ruitenburg MM et al., BMC Health Serv Res, 2012)。

・医師が心的外傷後ストレス障害に罹患している割合は4%から16%であることが示唆された(Weiniger CF et al., J Clin Psychiatry, 2006; Wilberforce N et al., Fam Pract, 2010)


[燃え尽き症候群について]

燃え尽き症候群はそれまでひとつのことに没頭してきた人があたかも燃え尽きたかのように意欲をなくし、適応できなくなることを意味する。

・182の研究を対象とした2018年のシステマティックレビューでは、燃え尽き症候群尺度は医師において25%から50%の有病率を報告している(22項目のMaslach Burnout Inventory-Human Services Survey基準などを用いた研究)(Rotenstein LS et al., JAMA, 2018)。


[医師の自殺]

一般的に医師の死亡率自体は他職種よりは低いが、自殺に関しては一貫して他職種よりも高い傾向にある。

・2019年のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、医師の自殺の全体標準化死亡率は1.44と算出されている(つまり他職種よりも1.44倍の自殺リスク)。同レビューによると、とくに女医の自殺率は高い(女性SMR* vs 男性SMR = 1.94 vs 1.24)(Dutheil F et al., PLOSONE, 2019)。

*SMR=standardized mortality ratio 1.0だと比較する集団と一般集団における自殺率は変わらない。1より大きければ一般集団よりも多いと言える。

・また8つの文献における専門別の自殺者の割合を見ると、開業医が32%、精神科は11%、外科4%、インターン2%、その他の専門3%であった(分子は専門別自殺者数、分母は医師全体の自殺者数)。

・おなじ8つの文献における診療科別の自殺者の割合は、内科(16%)、精神科医(11%)が自殺率が高い傾向を示した(Dutheil F et al., PLOSONE, 2019)(表1)。

表1:診療科別自殺者の割合。病理学、皮膚科、循環器内科、救急科、神経科は文献数が少ないため参考値。


[医師の薬物乱用]

高所得国のさまざまな国で医師のアルコール依存の問題がある。

・アメリカの医師7209人のサンプルでは、1100人(15.3%)がアルコール乱用またはアルコール依存を示すスコアを報告した(Oreskovich MR et al., Am J Addict, 2015)。

・デンマークの医師の全国サンプル(専門医、研修生、開業医)では、有害なアルコール使用の有病率は回答者の18.9%であった(Sørensen JK et al., Dan Med J, 2015)

・2012年のオーストラリアの医師のデータでは、5%が違法薬物の使用を報告し、6%がうつ病や不安の症状の治療のために毎日自己処方された薬物を使用していると報告している(BeyondBlue . BeyondBlue; Melbourne: 2013. National Mental Health Survey of Doctors and Medical Students.)。

・麻酔科医の薬物乱用が以前より問題となっている(Lutsky I et al., Can J Anaesth, 1993; Berry CB et al., Anaesthesia, 2000)。

・過去 10 年間の研究では、危険なアルコール消費の有病率は、皮膚科医と整形外科医(Oreskovich MR et al., Am J Addict, 2015)、あるいは内科と救急科の専門医で最も高いという異なるパターンが報告されている(Sørensen JK et al., Dan Med J, 2015)


[医師のメンタルヘルス不調のリスク]

医師のメンタルヘルス不調のリスクとして以下のことが挙げられる。

1.人間の苦しみや死にさらされる。
2.自分自身が重大事件や感染のリスクに晒される(近年ではCOVID-19感染への不安)。
3.過度な要求や矛盾した仕事
4.仕事と家庭生活の不均衡
5.長時間労働
6.対人関係の葛藤
7.過度の労働時間
8.勉強時間(自己研鑽)
9.試験(専門医試験など)
10.インターン期間中(インターン後の6倍の鬱病のリスク)

<結論>

医師は精神疾患と無縁ではなく他のの職業集団よりも自殺のリスクが高い。COVID-19の大流行で世界中の医師が受けた心理的負担は、おそらくこの状況を悪化させたと思われる。
医師、特にキャリアの浅い人々の精神的な健康と幸福をより良く守るための対策が必要である。


【鹿冶の考察】

補足説明をいたします。

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