「読むためのトゥルーイズム」を読み、『浮遊』を読む。第三回
今回は『文學界』2024・4月号掲載の「読むためのトゥルーイズム」から、遠野遥さん『浮遊』を読み進めていく。
ちなみに、前回までの「読むためのトゥルーイズム」は
■本を読むときは、まず自明のこと(トゥルーイズム)から取りかかり、わかる部分からはじめる
■取り組む課題について述べられている箇所に自分で決めた印をつける
■特に目に留まった箇所に自分が決めた別の印をつける
ということだった。
この「当たり前」というのは、本のタイトル、あとはページ数だったり、各章のタイトルや、小説なら登場人物の名前などがあげられるだろう。
うん、本当に当たり前のこと、だ。
『浮遊』は、これが本のタイトル。総ページ数は137(タイトルを含む)。
主な登場人物は
ふうか──女子高生。彼氏と同棲中。
|碧《あお》くん──ふうかの彼氏。アプリ制作会社のCEO。父親ほどの年齢。
|紗季《さき》さん──碧くんの元恋人。展覧会なども開く若手アーティスト。
父親──ふうかの父親。ふうかが彼氏と同棲するようになったため、現在は青児という猫との二人(?)暮らし。
マフラーの少女──ふうかがプレイするホラーゲーム『浮遊』のメインキャラクター。
黒田──同じくホラーゲーム『浮遊』の登場人物。中年男性。ゲーム進行のヒントとなる、サブキャラクター。
それ以外に、すぐにわかることは、『浮遊』には目次やサブタイトルがないが、1から7までのナンバリングがされており、これを章と呼ぶことにする。
全部で7章から構成される中編小説だ。
今回は、ここから別の方向に進むと「読むためのトゥルーイズム」には書いてある。
書店に並ぶ書籍なら、不特定多数の読者を想定し、未知のものを提供しつつ、読めるものを書かなければならない。うわあ、難しいわ。そう考えてしまうと、私なんかは、何を書いていいのか迷ってしまう。
誰でも知っているような知識を並べられても読者は手にもとってくれないだろうし、全ての展開が冒頭ですぐにわかる小説を最後まで読みたいという気は起きない。
読者とは、未知のものを読みたいのだ。
ただし、未知でありながら、読者が読めるものでないと読み進めることを諦めてしまう。なので、作者はもちろんそこを考えて書いているはずだ。それを「読解方針として使える」、と「読むためのトゥルーイズム」には書いてある。
『浮遊』は小説なので、課題があるのかはわからない。では、どうすべきか。
つまりどういうことか。
私に知識があるないは関係なく、まずはその作品にある素材を使って、読者(私)が利用できるか、組み立てられるか、を制作者が示している部分から拾っていくべきなのだろう。もちろん、この拾える量は私の知識に依存することにはなるが、今はできるところまでやるだけなので、随分と気が楽だ。
さて、やるべきことはこれほどわかりやすく示してもらった。では、具体的に何からはじめるべきか。なんと、これも「読むためのトゥルーイズム」は示してくれている。こんな丁寧な読書術連載、他にないだろ。本を読む人だけでなく、何らかの文章(学校のテストや受験、会社の指示書など)を読む必要がある人は、必読、というか読んだ方が絶対自分のためになる。
残念ながら、『浮遊』には目次がない。だが、章はあるのるので、それらの量的構成はみることができる。「読むためのトゥルーイズム」にはわかりやすい棒グラフと円グラフが示されているので、そちらは『文學界2024・4』で確認していただくとして、私が読んでいる『浮遊』には目次がないので、「読むためのトゥルーイズム」とは違うグラフにした。
このグラフは、私の連載第二回に書いたページ数をもとにしたものだ。
さて、ここから見てわかることだけを述べよ、と「読むためのトゥルーイズム」はある。
総ページ数だけ見ると、4章が最も多いが、1、2、3章もそこまで大差ない量だ。ただ、ゲーム『浮遊』に関しては3章が最も量が多く、2、5、7章はまったく書かれていない。
そう考えると、やはり『浮遊』のメインはタイトルこそゲームのものだが、ふうかの世界(現実世界)ということになるだろう。
「読むためのトゥルーイズム」では、この後、各章の目次と、その章のねらい、そして各章の宣言を使って表を作成しているが、『浮遊』は小説なのでねらいなんて書いていない。そこで、各章の冒頭部分、そして宣言は何が起きたかの部分を抜粋していこうと思う。章の中でも、ふうかの箇所とゲーム『浮遊』の箇所はわけて書き、2章に限っては、病院の女性のモノローグとをわけておく。
さて、今回の最後に「読むためのトゥルーイズム」ではこんなことが書いてある。
簡単そうで、かなり難しい課題だ。とりあえず、答え合わせは次回まで待ち、自分の反応と目に留まった箇所を引用してみる。
【1】
高校生のふうかは大人なのか、子供なのか。十六歳に対する恋人(碧くん)の反応に対する、不快感。
【2】
・ふうかちゃんくらいの年齢の子はちゃんと手を洗っているイメージがないと言った。(10P)1章14段
・父親と碧くんのクレジットカードがなかったら、私も西田さんのように働いて、自分のせいではないことで謝ったりしないといけないのだろう。
(34P)2章2節8段
・制服は必ず着替えるように言われる。私服ならなんでもいいわけではなく、子供っぽい服を着ていると別の服のほうが似合うんじゃないかと言われる。でも無理して大人っぽい服を着るとかえって目立つし、服装で年齢をごまかすのは限界がある。(52P)3章1節2段
・「そうか、ふうかちゃんがまだ十六歳なのを忘れていた。」
(113P)6章1段
・自分で淹れると言いかけたが、何かすることがあったほうが碧くんの気が紛れるかもしれない。お願い、と私は言った。(135P)7章10段
・大人になる頃には、もっとたくさんのことがひとりでできるようになっているだろう。(136P)7章12段
ざっと書いてみたのだが、これだけでも『浮遊』で起きている問題や、何が書かれているかがわかる気がする。
ただ、自分が気になることを書いているので、そりゃ当然だろう。
そこで、遠野遥さんの『浮遊』を読まれたかたで、感想をコメントしてくださると嬉しいです。また、『浮遊』は読まれていないけど、この川勢の文章の感想を言ってやろうというかたもいらしたら、ぜひコメントをお願いします。
今回は以上です。また次回、よろしくお願いします。