あおい俺と佐藤サン 〜#人生を変えた一冊② 佐藤さとる『だれも知らない小さな国』

 ひと月ほど間が空いたが、note公式が募集しているテーマ「人生を変えた一冊」の第2弾をお届けしようと思う。

前回のポストは上記

 このテーマについてはそれこそ俺の人生の歩みとともに紹介していこうと思っており、前回は就学前に出会った絵本を紹介したが、今回はたぶん小学校3年生だか4年生だかの頃に読み、本当に本っ当にいまだ俺の通奏低音となっているシリーズ——ことにその第1作を取り上げたい。

 かのWikipediaにも「日本初のファンタジー小説」として紹介されている、
『だれも知らない小さな国』

 次回取り上げる予定の第3弾たる作品と併せてだが、〝小学校時代に出会った幾多の文学〟の中でも、こんなにも俺というニンゲンの人格形成に影響を及ぼした作品はない。

 物語は主人公のいわゆる少年時代の〝小さな冒険と稀有な事件〟から始まるのだが、そのことをずっと忘れられなかった主人公が成人してからそれにまつわる古来からの伝説と併せ、ふつうには得がたい一定の経験と到達を得るというのが前半部分。

 さらにそこまででも素晴しいのにそこから先、主人公の少年時代と同じ頃に、同じものを少女として〝見てしまった〟ヒロインとの交歓。

 上記のように物語中では先に主人公が〝秘密〟を得るのだが、その後ヒロインにそれを公開した際に、主人公の事実上の相棒による、
「アノヒトハ ナイテイタヨ。」
 という台詞は極めて感動的だ。

 こんなにも麗しい文芸表現は、古今東西、他にいくつも無い。

 とまれこの佐藤さとる先生のいわゆる「コロボックル」シリーズは、小学校中学年の俺はそれこそ発狂レベルで熱中して読み、村上勉先生の挿絵の模写とともに、夏休みの宿題だったかの読書感想文で、熱く綴ったものだ。

 そして俺が中学だか高校に上がるだったかの頃、作者の佐藤さとる先生が講談社現代新書で『ファンタジーの世界』という本を上梓されておりそちらもまた俺のバイブルとなっている。

 おそらくはこの国において「ファンタジーとは何ぞや」を初めて論じた書籍で、「メルヘンとファンタジーの違い」の解説をはじめ世界の優れたファンタジー文学が多数紹介されており、後年映画化もされた『指輪物語(The Load of The Ring)』や『ナルニア国物語』そして『ゲド戦記』などもこれを通じて知った。

映画やアニメそしてゲーム世界などで〝ファンタジー〟という言葉が一般化する、数年前のこと
おりしも同書で佐藤さとる先生が語るところの「ハイ・ファンタジー」である「スター・ウォーズ」シリーズ公開の直前だったのも、俺の人生のタイミングとして素晴らしかった

 まさしくこの国のファンタジーを切り開いた作品として、あらためて広く読まれたい。

 ついでながら俺は結婚し子を授かってからしばらくのちにいわゆる「里山」に興味を持ち実生活においてもその指向を強め実践したりもしたのだが、諸々あってその最初の生活が破綻し新たな家庭を持ってからも、都下——ことに武蔵野・多摩や相模の——里山を愛してやまない。

 このことについては現在の妻も理解してくれるどころか同様の〝しこう〟(志向・指向・思考)を持ってくれていて、ふたりしてそうしたところに出かけられ、歩き、いちいちに感動的な体験を出来ていることに心から感謝してしてる。

このことは、先の「アノヒトハ ナイテイタヨ。」の台詞にも通じる

 そしてそれもこれも、俺が少年期のちょうど10年を過ごした都下の片田舎の経験と、この「コロボックル」シリーズの舞台が都下であり里山であったことに起因していると確信している。

 佐藤さとる先生は2017年に鬼籍に入られたが、あらためて心からの感謝を捧げたい。

 当時の書籍はいまだ大事に手元にあるのだが、この記事を綴りながらシリーズ全6巻のKindle版をあらためて購入した。

 妙な例えかもしらんがそれこそコロボックルたちのように、いつでも俺のiPhoneという小さなデバイスの中で、彼らを呼び出せばいつでも出会えるようになったと思うと感慨深い。
 それこそ少年の頃の夢が、半世紀以上の時空を超えて現実になったとも言える。

 繰り返しになるが、皆さんにはぜひこの世界最高峰と言っても過言ではないファンタジーと、他の佐藤さとる作品——たとえば「赤んぼ大将」シリーズなど——もお読みいただきたい。

 蛇足ながらこの『だれも知らない小さな国』は、俺はテレビアニメ『赤毛のアン』よりあと、互いに支え合いながらもついに〝共作〟することが無かったスタジオジブリの高畑勲監督と宮﨑駿監督お二人が数十年ぶりにタッグを組んで、老成したお二人にだからこそぜひ映画化してほしいと願っていたのだが、今やかなわぬこととなってしまったことが残念でならない。

 本稿を綴りながら再び胸の奥底に吹き抜けるざわざわとした、草木《そうもく》を揺らす強くも優しい「風」を、ぜひお二人によるアニメーションで観たかったなと思う。

 

 

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