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【書評】愛する人を見送るために──『ほどなく、お別れです』(長月天音)
この作品は、簡単にいうと「お葬式小説」ということになりますが、ものすごく温かく、心に寄り添ってくれるような素敵な小説でした。長月天音さん『ほどなく、お別れです』とその続編『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』。
1、内容・あらすじ
主人公は、大学生4年生の清水美空。
美空は、東京スカイツリーの近くにある葬儀場「坂東会館」でアルバイトをしています。
坂東会館には、漆原という男性スタッフがいました。彼が担当する葬儀は「訳あり」のものばかり。若くして病死した人、自殺、事故死……。
漆原は、霊感体質の美空に目をつけ、自分の担当する葬儀を手伝うように命じます。以後、美空は漆原の下で仕事を学びながら、数々の訳有りの葬儀を担当することに。
漆原は、美空をはじめとするスタッフには無愛想で毒舌ですが、亡くなった人と、遺族の思いを繋ごうと心を尽くす葬祭ディレクターでした。
美空はそんな漆原の仕事ぶりと、大切な人に先立たれた家族を見ていくうちに、自分も坂東会館に就職し、遺族の心に寄り添う葬祭ディレクターを目指すことを決意します──。
2、私の感想
私は最近親族を亡くし、その葬儀の担当者が教え子だった、ということもあって、葬儀場の様子などをはっきりイメージしながら読むことができました。
これはまぎれもなく「グリーフケア小説」だな、と思いました。
作品中で出てくるお葬式は、みなかわいそうな「無念の死」ばかりです。当然、残された遺族たちは大いに嘆き悲しみ、途方に暮れます。読んでいても身につまされて、涙が出てきます。
それを美空たち坂東会館のメンバーが懸命に動いて、遺族を助け、故人の思いを汲み取り、「お見送り」の手助けをしてくれます。
愛する人を亡くした遺族の悲しみにも泣けますが、美空たちの働きによって、お別れを決意した様子にもまた泣けます。要するに泣きっぱなしです。
誰にでも平等に訪れる「死」について、深く深く考えさせられる小説です。
「葬儀は、亡くなった人を送るものだ。人ひとりの人生そのものを送るとも言える。故人の積み上げてきたものを、俺はないがしろにしたくはない。だからこそ、故人も遺族も納得のいく式にしたいと常々言っているのさ」
こういうことを言える人に葬儀をやってほしいものです。暗いイメージがある葬儀会社ですが、とてもとても大事な仕事だな、と思いました。
2作まとめて読みました。まだまだ先が出そうな気がします。ずっと読み続けたいです。
3、こんな人にオススメ
・最近、身内を亡くした人
葬儀のことを思い出して、厳粛な、そして温かい気持ちになります。私もそうでした。
・これから、身内を送る人
登場人物たちの言葉に、たくさんたくさん慰められると思います。
・新社会人の人
主人公の美空を通して、「仕事とは何か、働くとは何か」ということも考えさせられます。