マガジンのカバー画像

書評通信

103
紹介した本の記事をまとめました。
運営しているクリエイター

記事一覧

【書評】謎が残る息子の空白の時間~『あの日、君は何をした』

新聞広告で見かけて以来、ずっと気になっていた本です。ようやく読むことができました。まさきとしかさんの『あの日、君は何をした』。 1、内容・あらすじ北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみ。4人家族で、平凡ながら幸せな生活を送っていました。 ある日、息子の大樹が深夜に自転車で家を抜け出し、警察に職務質問を受けます。 なぜか警察から逃げ出した大樹は追跡され、車に激突して死亡。 絶望のどん底に落とされ、悲しみに暮れていたいづみでしたが、ふと疑問を覚えます。 「大樹はなぜあの

【書評】英傑たちのオールスター内閣〜『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(眞邊明人)

新聞の広告で見かけて気になり、読んでみた本です。『もしも徳川家康が総理大臣になったら』。今の閉塞した気分を一新するには絶好の、痛快な小説でした。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ2020年、政府は新型コロナの初期対応を誤り、首相官邸でクラスターが発生。ついには総理大臣までもが感染し、死亡してしまいます。 国民の政治不信は頂点に達し、日本は大混乱に。 そこで政府はとっておきの秘策を実行に移します。それは、AIとホログラムによって過去の英傑たちを復活させ、最強

【書評】を書いた本が100冊に達しました~アクセス数ランキング~

noteに書評を書き始めて約1年、書評を書いた本が100冊になりました。 以前書いたように、私がnoteに書評を書くのは、読んだ本の内容を忘れないため、図書だよりのネタをストックするため、という二つの理由からです。 したがってアクセス数はそれほど気にしていないのですが、それでもアクセス状況を見ると、どの本が世間で人気なのかがおぼろげながら見えてきます。 今日は100冊到達記念に、アクセス数ランキングトップ5をご紹介します。 第1位『流浪の月』(凪良ゆう)2020年の本

【書評】自由すぎる女子の日常〜『麦本三歩の好きなもの』(住野よる)

『君の膵臓をたべたい』で一世を風靡した、住野よるさんの『麦本三歩の好きなもの』の書評です。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ図書館に務める20代女子・麦本三歩。 布団の誘惑と戦い、先輩に怒られ、先輩に優しくされ、よく噛み、好きなものを食べ、浮いた話は今はなく、友達と出かけ、仕事に行きたくないと思い、仕事をサボり、それを先輩に見つかり……。 そんな三歩の、平凡なようで平凡ではない日常が描かれます。 2、私の感想要約するのがとても難しい小説です。このあらすじ

【書評】恋人や夫や愛人では埋められないもの〜『男ともだち』(千早茜)

千早茜さんの『男ともだち』の書評です。自分の倫理観を試されているような小説でした……。2014年の直木賞候補になった作品です。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじイラストレーターをしている29歳の神名葵は、彰人という恋人と同棲をしています。その一方で、医師の真司と愛人関係にあります。 「自分のしたいことだけを求める」という倫理観で動く神名は、その通りに行動しながらも「いつか報いを受けるのでは」ときどき不安を感じる日々。 そんな時、大学の先輩だったハセオから電

【書評】桜のように散ってしまう難病~『桜のような僕の恋人』(宇山佳佑)

普段、本を読まなさそうな生徒が図書室から借りて行ったので、私も読んでみました。宇山佳佑さんの『桜のような僕の恋人』。映画化もされるそうです。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ朝倉晴人はかつてはカメラマンを目指していましたが挫折し、今はレンタルビデオ店でアルバイトをしているフリーター。 そんな晴人は、偶然入った美容室で出会った美容師の有明美咲に一目惚れをします。 彼女に認めてもらいたい一心で、晴人は一度は諦めたカメラマンの夢を再び目指し始めます。 そんな晴

【書評】犯した過ちの大きさに苦悩する刑事~『慈雨』(柚月裕子)

ずっと読みたいと思っていた、柚月裕子さんの『慈雨』です。評判にたがわぬ傑作でした! ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ刑事を定年退職した神場智則は、妻と共に四国巡礼の旅を始めようとしていました。 目的は、自分が関わった事件の被害者の供養のため。もう一つは、16年前に起きたある事件の捜査で自分が犯した「過ち」の贖罪のため──。 その事件とは、表向きには解決済みの幼女連れ去り殺人事件でした。 巡礼の最中、神場はそれと酷似した事件が起きたことをニュースで知ります

【書評】伝えたいことを伝えられない苦しみ〜『きよしこ』(重松清)

重松清さんの名作『きよしこ』です。『僕は上手にしゃべれない』→『吃音─伝えられないもどかしさ─』という吃音つながりで読みました。 書評は書いていませんが、この間に『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』というマンガも挟まっています。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ幼少期から吃音を抱える重松清さんのもとに、同じく吃音の息子を持つ母親から手紙が届き、そのお返しとして自身をモデルにした少年を主人公に小説を書く──という体裁で始まります。(事実なのかもしれません)

【書評】当事者にしかわからない苦悩〜『吃音─伝えられないもどかしさ─』(近藤雄生)

以前、吃音に悩む少年を描いた小説の書評を書きました。椎野直弥さんの『僕は上手にしゃべれない』という小説です。 この記事にリンクを貼った吃音のノンフィクション『吃音─伝えられないもどかしさ─』をようやく読むことができました。こちらも涙なくしては読めない作品でした。作者は近藤雄生さん。2019年の本屋大賞ノンフィクションにもノミネートされました。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ100人に1人、100万人が抱えているとされる吃音。 それだけの人が悩んでいるのに

【書評】医療界のシャーロック・ホームズ〜『天久鷹央の推理カルテ』(知念実希人)

これは読書好きの生徒に薦められて読んだ本です。非常に面白かったです。人気シリーズになっているのもわかります。知念実希人さん『天久鷹央の推理カルテ』。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ天医会総合病院の副院長を務める天久鷹央は弱冠27歳。 学生にも間違われそうな童顔ですが、頭脳明晰、博覧強記の天才。超人的ともいえる記憶力・計算能力・知能を持っています。 その頭脳を生かした診断能力を買われ、特別に設立された「統括診断部」の部長として活躍しています。 統括診断部

【書評】新社会人に捧げる一冊〜『どうして会社に行くのが嫌なのか』(大美賀直子)

この時期(3月)になると、「4月から社会人になるんですけど、読んでおいた方がいい本はありますか?」とよく聞かれます。私は迷うことなくこの本を一冊目に挙げます。大美賀直子さんの『どうして会社に行くのが嫌なのか』。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容「働く人のストレス対処法」に焦点を当てた本です。 「会社が苦痛な瞬間」 「人間関係がうまくいけば、ストレス激減」 「ストレスを大きくしているのは自分だった」 「傷んだ心と体のメンテナンス術」 の4章から成っていて、メンタル・ジ

【書評】ストーカーの無間地獄~『消えない月』(畑野智美)

『神さまを待っている』『海の見える街』で知られる、畑野智美さんの『消えない月』です。これは怖かった……。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ28歳の誕生日を迎えた河口さくらは「福々堂マッサージ」でマッサージ師として働いています。 そのお客さんの中に、いつも彼女を指名してくれる松原という男性がいました。 松原は大手出版社勤務で、ベストセラー作家を多く担当しているとのこと。 話が上手で背が高く、ルックスもいい松原に、さくらはほのかな好意を抱いていました。 あ

【書評】科学の真実が悩める人を癒す〜『八月の銀の雪』(伊予原新)

こちらも本屋大賞ノミネート作品。直木賞候補にもなりました。伊予原新さんの『八月の銀の雪』。「理系癒し小説」とでもいうべき新ジャンルを開拓した作家さんです。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ就活がうまくいかず、鬱屈した日々を送る理系の大学生、堀川。 彼がいつも立ち寄るコンビニには、「グエン」というベトナム人のアルバイト店員がいました。 グエンは日本語がよくわからず、不愛想で手際が悪い。堀川はいつも彼女にイライラさせられていました。 ところが、ふとしたきっか

【書評】長野の山に潜む恐怖の正体〜『ファントム・ピークス』(北林一光)

これは知る人ぞ知る名作です。作者の北林一光さんは残念ながら2006年にお亡くなりになりました。この『ファントム・ピークス』は宮部みゆきさんが絶賛しています。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ舞台は長野県安曇野。 主人公・三井周平の妻が山で行方不明に。半年後、遠く離れた場所で妻の頭蓋骨が発見されます。 三井は悲しみに暮れながらも、用心深かった妻に一体何があったのかと疑問を抱きます。 数週間後、沢で写真を撮っていた女子大生が行方不明に。捜索を行っていたまさに