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源氏物語を読みたい80代母のために 25(源氏物語アカデミーレポ⑥)

 お昼ご飯の後は
「紫ゆかりの館観覧と紫式部公園散策」。
 
今までの密度の濃さと比べたらもう「休憩」といっていいような30分でしたが、個人的にはもう少し園内をゆっくり観たかった。寝殿造庭園というのが如何なるものか知らない不勉強な私も、紫式部像が見つめる先に釣殿と橋、日野山があるのはしっかり確認。
 今年の「紫式部まつり」では釣殿で「千年の調べ」なる舞楽・雅楽が催されたとのこと、さぞかし良い雰囲気だったでしょう。個人的には池に演者を載せたお舟(龍頭のやつ)を浮かべて、八重桜と山吹の花びらが降り敷く中、釣殿から平安お菓子をつまみつつ眺めたい……(企画してくれないかしら真面目に)。
 お天気が良かったのは本当に運がよかったものの、暑かった。暑すぎた。怒涛の午前中を乗り切ったあの時の私たち母娘が所望していたのはソフトクリーム。なのに出店はあったけどソフトクリームは無かった……食べたかったなソフトクリーム。
 それだけではなんなので写真も少し置いておきます。

紫式部像から少し出口寄りから撮影。紅い橋がちょっとだけ見える
遣水ですわよ

 石の大きさや配置・植えてある草木にも拘りが感じられる立派な庭園でした。欲を言えばお花ももっと充実させて、源氏物語ゆかりの場面を演出してほしいな。桜のみならず山吹や撫子、藤の花とか。橘の木などはあったかしら。朝顔や夕顔のまつわる垣根もほしいわね(無茶ブリ)。とにかく大河に向けてガンバレー!期待してる!!!
 などと妄想しつつ「紫ゆかりの館」のベンチでぼんやりしていたらもう出発の時間。バスに乗り込み、ホテルクラウンヒルズ武生に舞い戻る。
 午後の講義は二コマ、どちらも市民公開講座である。
「源氏物語における出家と道心」高田和子
 
レジメ、二段組十ページ来ましたー!(汗)
 えーとこれ、一時間半ですよね。もう見るからに無理な感じ(ご本人も仰っていた)。でも、気持ちはすごくわかる。私のようなニワカのど素人が言うのはおこがましいけど、あれもこれもそれも入れたい、話したい!というお気持ちは手に取るようにわかる。
 ちなみに高田氏の著書、タイトルもズバリ「源氏物語を読む」。

 予習しときましたえっへん(この時点じゃ読み切ってはなかったけど)。
 高木氏は、瀬戸内寂聴源氏の巻末資料のお仕事をなさっていたというお方。
 内容はそのまま、源氏物語五十四帖を要約、重要なエピソードや和歌など盛り込みつつ詳細に解説されている。源氏物語、長すぎて挫折したとか長すぎて躊躇する方がとりあえず全体を掴むには最適かと思われる。勿論読み込んだ人にも新たな発見や知見が得られる、親切設計である。
 レジメは「出家と道心」に関わる箇所を抜粋した形(原文)。こんなに(二段組10ページ)量がある、ということを知っただけでも儲けものかもしれない。
 以下、またまた書き殴ったメモから:
〇光源氏はずっと出家をしたがっている。薫もそう。だがなかなか出来ない/しない。なぜなのか?
→そもそも「物語」とは、出家しない人々の活動を描くものである、という前提。
〇光源氏の「好色」はひとつの顏にすぎず、多くは家の騒動、世俗の人の野心や執着を描いている。
〇特に若い頃の出家願望の理由は「逃避」。
〇当時の、出家に対するイメージは男女で異なる。
 男:生活空間ががらりと変わる(新しく寺を作る・山寺に引っ込む等)
 女:居住空間は不変、部屋のしつらえ・髪形や服装のみ変わる。男の懸想から逃げる唯一の道でもあった。源氏物語においては「密通した女は出家する」というパターンがある。
〇源氏物語は大きく三つに分けられる。
第一部:光源氏の誕生~准太上天皇に昇るまで
第二部:暗転~晩年
第三部:光源氏死後
 なかなか出家できないでいる人の心に寄りそう形で物語が進む。
〇宇治十帖では、冷泉帝(院)が棚上げにしていたことを薫がやらされる形。
〇浮舟の出家について「すっと背が伸びたように、二人の男を置いていく」(寂聴氏言)
〇総じて「源氏物語」では出家に対して厳格である。
〇柏木は源氏に密通を知られたことで「死」を願い、女三宮は「死」から「出家」へと心を変える。一方源氏は、仏道で繋がる父娘の絆に妬ましさを感じている。
〇光源氏と紫上が互いに縛り合って出家できないまま留まる姿が、この物語を高みへと押し上げている。
〇薫は何事にも深入りしない代わりに責任も取らない男であり、出家も勿論できないが、身分低い受領の娘と見くびっていた浮舟は出家を遂げる。
 以上。
 とりとめのなさは私のメモがとっちらかっているせいである。
 薫の人物像は誰に語らせても結構ボロカスなのだが、物語的にはオイシイ。絶対に出家しない(できない)キャラとしていい仕事をしてるよね。
 あと男女で出家に対する考え方が違う、というのが興味深い。源氏のそれは「人里離れた山奥に籠って家族とも基本会わない」であり、紫上は何となくだけど世俗の諸々から引退したい、みたいなニュアンスを感じてたので。「出家するなら一緒に!」と思っていたから踏み切れなかったんだろうな。しかしだからこそ美しく尊いのよね、紫上の死から雲隠に至るまでの日々は。
 著書の文面からも、講義での一言一言からも、半端ない源氏物語愛がひしひしと伝わって来ました。今回も濃かった、ふう。
 さて母は、とみると、持参したチョコを一個二個三個と次々口に放り込んでる。
「甘気(あまけ)が足りんわ!」
 わかる、わかるぞ。
 私も愛媛県産紅まどんなグミを三つまとめてモグモグした。さあ今日はあと一講義。
<つづく>

「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。