「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介
ホストに貢ぐために体を売ることを厭わない。
そんな女性たちが新宿の大久保公園に、立ちんぼとして集まっているという。
中には、月に百万円以上稼ぐ人もいるという。
日本では、売買春が売春防止法という法律で禁じられているので、捕まれば罰金もあるし懲役もあるし前科も付く。
でも、そういった方面に疎い自分でさえ知ることになったというのだから、もはや公然と売買春が行われているといっても過言ではないと思う。
今回紹介する「マッチ売りの少女」は、その売春を主題とした短編小説。
大阪森の宮に住む主人公の女性は、父に早く死なれ、母が新しい男と暮らすようになる。
その母は淫奔な性質で、中学二年生だった主人公が家に帰って来た時に、他の男と絡んでいたこともあった。
現場を見られた母と男とは身を離すが、翌日にその男がやって来て、今度は主人公の方に手を出す。
そこから主人公の性の転落が始まる。彼女は継父に犯され、母が死ぬと、東京へ出て四十年輩のスケコマシに若い男に紹介され、輪姦される。
正直、ここまでで十分読むのがつらいのだけれど、女性の転落はまだ始まったばかりだった。
彼女はトルコ風呂(今でいうソープランド)に沈められ、毎日客を取らされる。
けれど、ある日警察の手入れが入りそこでは働けなくなった。
するとまた別の男が表れ、大阪に連れられて行き、一瞬だけミシンのセールスマンと所帯を持とうとするも、母の淫奔な血がそうさせるのか、別の男たちと寝てしまう。
やがて性病にかかり、脛に瘢痕が表れるようになると、まともな客を取れなくなり、町角に立って立ちんぼをするようになる。
結末は彼女の死で締め括られるのだけれど、もはやそれが救いなのではないかと思うほどに無残な話だった。
しかも、彼女は自分を抱く男たちの中に「お父さん」を求めていたのがなおのことつらい。
でも、数々の男に「お父さん」の片鱗を感じながら体を重ねることで、女性は安らぎを得ていたのではないか。そう読める節はある。
翻って、大久保公園の女性たちはどうなのだろう。彼女らの安らぎはどこにあるのかと考えてしまう。
きっと彼女らからは、余計なお世話だと思われるのだろうけれど。