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【トランスオリジン】出自に違和感を持つ人々【小江戸フェイクニュース】

トランスオリジン(transorigin):新たな自己認識の波
近年、トランスジェンダーの人々が自身のアイデンティティを堂々と表明し、社会的認知を求める動きが広がっているが、その波に乗じて、新たな自己認識の概念が登場した。「トランスオリジン」と名付けられたこの現象は、出自に対する違和感を持ち、自らの出自を再定義する人々を指す。
東京都内のカフェで開催された記者会見で、30歳の会社員である田中一郎さんが「トランスオリジン」を自認する第一人者として登壇した。彼は、自身の体験を次のように語った。
「私は生まれも育ちも東京ですが、ずっと自分が地方出身であるべきだったと感じていました。東京という大都会の喧騒や冷たさに馴染めず、心の中では常に田舎の温かさやのんびりした生活を夢見ていました。ついにその違和感を認め、『トランスオリジン』として生きることを決意しました。」
この概念に共感する人々は、全国各地から田中さんに支持のメッセージを送っている。ある女性は「私は北海道出身ですが、ずっと沖縄の文化や生活に憧れていました。田中さんの話を聞いて、自分もトランスオリジンとしてのアイデンティティを認めることができました」と語った。
専門家の間では、この現象が新たな社会的認知を得るまでには時間がかかるだろうと予測されているが、その一方で、個々の自己認識を尊重する姿勢が求められている。
精神科医の佐藤健一氏は、「人間のアイデンティティは多様であり、出自に対する違和感もその一つです。トランスジェンダーの人々が自らの性別を認識するのと同様に、トランスオリジンの人々も自身の出自を再定義する権利があります」とコメントしている。
この新たなムーブメントが社会にどのような影響を与えるかはまだ未知数だが、個々のアイデンティティの尊重が進むことで、多様性と包摂が進むことが期待されている。

[小江戸フェイクニュース 2024.07.14]

あたし、前世は江戸のお姫さまだったから

ほんとうは、あたし、東京の裕福な家庭で生まれたかったのよ。優雅なお洋服を着て、庭園を散策し、毎日華やかなパーティで彩芽ちゃんのような、華麗なダンスを披露する夢を見ていた。でも現実はどうだったかって?あたしが生まれたのは、東北の寒村。しかも、百姓の長男として。

あの村は、冬には大雪、家の中まで冷え冷えとして、暖を取るには囲炉裏の火だけ。どこを見ても、田んぼや畑ばかり。隣近所に住んでいるのは、青っ洟あおっぱなたらしたガキどもだけ。泥だらけになって走り回るその姿に、あたしの夢見た世界はどこにもなかった。

おままごとがしたかったあたしは、毎日がさみしかった。周りの子どもたちは、木の枝を振り回して「ちゃんばらごっこ」や「忍者ごっこ」をするのが大好きだった。あたしは、その輪に入ることができず、一人で枯れ葉を集めて、おままごとの道具に見立てることしかできなかった。お姫さまの役をする相手もいないし、仕方なく、自分一人でお姫さまと侍女を兼ねて遊んでいたわ。

ある日、村のお祭りで、初めて都会から来た旅芸人を見たとき、あたしの心は一気に花開いた。彼らの衣装、舞台の華やかさ、音楽。それはまるで、あたしが夢見ていた江戸の世界そのものだった。旅芸人たちは、あたしの目にはまさにお姫さまや侍のように映り、あたしはその夜、彼らの演技を何度も夢に見た。

しかし、現実は厳しい。百姓の長男として、畑仕事や家の手伝いは避けられない。あたしの小さな手は、毎日土や泥で汚れ、夢のような世界からどんどん遠ざかっていった。それでも、心のどこかであたしはいつもお姫さまであり続けた。夜、家族が寝静まった後、月明かりの下でこっそりと、木の枝を髪飾りに見立てて、田んぼのあぜ道を歩きながら、想像の中でお姫さまの優雅な動きを真似ていたのよ。

今思えば、あたしのその時代は、現実と夢の狭間で揺れ動いていたのかもしれない。現実の厳しさに直面しながらも、心の中でお姫さまとして生きることが、あたしを強くしてくれた。だからこそ、今でもあたしは夢を見ることを忘れない。たとえ現実がどれほど厳しくても、心の中でどんな自分にもなれることを知っているから。

あの寒村の田んぼと畑、そして青っ洟をたらしたガキども。すべてがあたしの大切な思い出。だって、そこから始まったのだから。あたしのお姫さまの夢も、現実も、すべてが一つの物語として紡がれているんだもの。


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