【トランスオリジン】出自に違和感を持つ人々【小江戸フェイクニュース】
あたし、前世は江戸のお姫さまだったから
ほんとうは、あたし、東京の裕福な家庭で生まれたかったのよ。優雅なお洋服を着て、庭園を散策し、毎日華やかなパーティで彩芽ちゃんのような、華麗なダンスを披露する夢を見ていた。でも現実はどうだったかって?あたしが生まれたのは、東北の寒村。しかも、百姓の長男として。
あの村は、冬には大雪、家の中まで冷え冷えとして、暖を取るには囲炉裏の火だけ。どこを見ても、田んぼや畑ばかり。隣近所に住んでいるのは、青っ洟たらしたガキどもだけ。泥だらけになって走り回るその姿に、あたしの夢見た世界はどこにもなかった。
おままごとがしたかったあたしは、毎日がさみしかった。周りの子どもたちは、木の枝を振り回して「ちゃんばらごっこ」や「忍者ごっこ」をするのが大好きだった。あたしは、その輪に入ることができず、一人で枯れ葉を集めて、おままごとの道具に見立てることしかできなかった。お姫さまの役をする相手もいないし、仕方なく、自分一人でお姫さまと侍女を兼ねて遊んでいたわ。
ある日、村のお祭りで、初めて都会から来た旅芸人を見たとき、あたしの心は一気に花開いた。彼らの衣装、舞台の華やかさ、音楽。それはまるで、あたしが夢見ていた江戸の世界そのものだった。旅芸人たちは、あたしの目にはまさにお姫さまや侍のように映り、あたしはその夜、彼らの演技を何度も夢に見た。
しかし、現実は厳しい。百姓の長男として、畑仕事や家の手伝いは避けられない。あたしの小さな手は、毎日土や泥で汚れ、夢のような世界からどんどん遠ざかっていった。それでも、心のどこかであたしはいつもお姫さまであり続けた。夜、家族が寝静まった後、月明かりの下でこっそりと、木の枝を髪飾りに見立てて、田んぼのあぜ道を歩きながら、想像の中でお姫さまの優雅な動きを真似ていたのよ。
今思えば、あたしのその時代は、現実と夢の狭間で揺れ動いていたのかもしれない。現実の厳しさに直面しながらも、心の中でお姫さまとして生きることが、あたしを強くしてくれた。だからこそ、今でもあたしは夢を見ることを忘れない。たとえ現実がどれほど厳しくても、心の中でどんな自分にもなれることを知っているから。
あの寒村の田んぼと畑、そして青っ洟をたらしたガキども。すべてがあたしの大切な思い出。だって、そこから始まったのだから。あたしのお姫さまの夢も、現実も、すべてが一つの物語として紡がれているんだもの。
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