読書記録「キノの旅」
川口市出身の自称読書家 川口竜也です!
今回読んだのは、時雨沢恵一さんの「キノの旅 -the Beautiful World-」電撃文庫 (2000) です!
・あらすじ
緑の海の中に、一本の茶色の線が延びていた。その道の真ん中を、一台のモトラド(注:二輪車 空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。
猛スピードでモトラドを操縦する運転手は、二輪車と比べて華奢な身体をしており、見た目は15,6歳ほどに見える人間だった。
旅人は黒のジャケットを着て、ゴーグル付きの飛行帽のようなものを被り、腰には2丁のパースエイダ―(注:銃器 この場合は拳銃)を携えていた。
旅人の名前は「キノ」。相棒であるモトラドの「エルメス」とともに、2人は旅を続けていた。
一体何処へ? それはキノにも分からない。
ただ、自分がどうしようもなく愚かで矮小な人間だと感じたとき、ふとこう思うのだった。
Youtubeのおすすめ動画にアニメ版の「キノの旅」が出てきたのをきっかけに、当時読まなかった自分を思い返したら急に読みたくなり、たまたま神保町は「猫の本棚」で見かけて紐解いた次第。
私が中学生の頃から、一部の読書好き界隈で非常に人気が高かったライトノベル。うちの学校では、図書委員推薦作品にもたびたび紹介していた。
当時なぜ読まなかったのかと聞かれたら、、、何だろう。なんかオタクっぽくて毛嫌いしていたのかも(その後「俺妹」や「はがない」は読むのだが)。
そんなわけで、今回初めて紐解いたのだが、表紙のポップさと裏腹に、なかなかエグイ人間の怖さや国家の恐ろしさを描いている(現在書店に並んでいる新装版は、薄暗さを反映している)。
キノは旅を続けていく中で、様々な国と民と、その顛末と末路を見ていく。
薬によって「人の痛みが分かる」ようになり、些細な不満すらも筒抜けになってしまった挙句、人との交流を絶ってしまった国。
民衆の革命により国王の独裁政治を打倒し、その後は民意という名の「多数決」によって、反逆者をひとり残らず処刑した国。
敵対国同士で血を流す戦争を止める代わりに、両国の間に住む原住民を亡き者にした人数を競う(それを彼らは戦争と呼ぶ)ことで、「平和」を保っている国。
世の中には、一般的には「良い」「正しい」とされる考え方がたくさん存在する。
だがそれが行き過ぎると、極端な考えに陥ってしまう。
それを旅人という、その国に深く干渉することは出来ない立場から、厭世的ではなく、あくまでも客観的に観察する。
ある時、旅人のキノが立ち寄ったのは、「大人の国」。ここでは十二歳になったら手術を受け、我が儘な子供から「ちゃんとした大人」になれるという。
ちゃんとした大人とは何か。それは仕事をするということ。
自分勝手に振る舞うことををせず、やりたくもないこと、間違っていると思うことでも、仕事である以上、絶対にやらねばならないと言う。
そして大人は、自分の仕事を継がせるために、子供を産む。これがこの国の「常識」であると。
一方で、国中を旅しているキノにとっては、その「ちゃんとした大人」というものがよく分からない。
少なくともキノは「ちゃんとした大人」ではないし、かと言って「子供」でもない。それでも、時折行商人のように仕事をしている。
そんなキノを見て、少女は思う。
それって当たり前のように思えるけれども、ふと見回してみると、現実も同じように成り立っていると感じる。
手術は受けないけれども、何歳になったら学校に行き、就職して、社会人という名の大人の仲間入りを果たす。
もっとも、子どもの頃はそれが当たり前だと思うものでね。
小学生や中学生の頃、仕事をしている大人がカッコよく見えたように、自分もその一人になれるのかしらんと、悩むものであった。
だが、今でも自分自身が「ちゃんとした大人」になったのか、定かではない。
むしろ、精神年齢は16歳くらいから変わっていない気がしないでもない。
それでも少なくとも、楽しく生きている。
やりたくない仕事は無理にやらず、楽しいと思うことをやってみる。
それで良いじゃん。大人なんだしさ。
なんと言うか、今読んだからこそ、心に刺さるものがある作品であった。
シリーズものなので、次の巻も気になるけれども、全23巻は流石に長い。まぁ気楽に旅を続けよう。それではまた次回!