【スピンオフ小説】Maybe Tomorrow~ライトブルー・バード〈18.5〉~
⭐コチラは只今連載中の青春&恋愛小説【ライトブルー・バード〈18〉】↓のスピンオフです。
主人公は前回初登場した平塚メイです。一応、読み切りなので、初めての方も是非(*^ー^)ノ💕
登場人物の紹介はコチラ↓
もしも誰かに『今のクラスにおける自分の立ち位置』を問われたら、私…平塚メイは『いいヤツ』ポジションと答えるだろう。
私は基本的に人の世話を焼くのが好きだ。そして言葉にすると少々照れるが、困った人を見ると放ってはおけない。
しかし中学時代、この性格が原因で、私は陰湿なイジメの標的になってしまった。
中1の春、当時イジメられていた女の子を庇ったことで、その矛先が私に向いてしまったのだ。
そして、私が必死で庇った相手は、『あちら側』の圧力に負けてしまい、一緒になって私のことを無視するように…。
イジメから数日後、私はその女子と教室で2人きりになったことがあった。
「平塚さん…そのぉ、なんか…ごめんなさい!!」
すまなそうな声、すまなそうな口元、そしてすまなそうな眼差し…。さすがに己の良心が痛んだのだろうか…。
しかし「もういいから…」という私の返答を聞いた途端、彼女は安堵した表情を見せる…という失態を犯してしまった。
そうか…
この子は私の為に謝ったのではない。自分の為に謝ったのだ。
その後の彼女は、私のことをまるで透明人間のように扱い、このイジメは結局卒業まで続いた。
勧善懲悪なんてファンタジーで、正義は必ずしも勝てるものではない。
それでも、私は私であることをやめないと誓った。それは尊厳を奪われ続けた私が、最後まであの子たちから守り抜いたものだ。
高校で今泉マナカという親友に出会い、井原サトシというイケメン男子の信頼を得ることが出来たのは、そのおかげだと思っている。
2年のクラス替えで初めてマナカを見た時、「あ、この子はきっと、キラキラの『一軍女子』だ」と勝手に思ってしまったっけ…。
しかし、彼女も中学時代にイジメを受け、それでも自分の信念を曲げない強さを持っていることを知った。
同じクラスになった私たちが親友になったのは、当然の流れだろう。
そして井原は…
彼は基本、女子にはそっけない。特に『集団でいることに甘んじている女子』 や『自分を持っていない女子』そして『強いものだけに媚びる女子』には容赦なく冷たい態度を取る。どんなに美人でも、そんなこと井原には関係ないのだ。
☆☆☆☆☆
「まあ、井原が一番嫌いなのは『外見だけに惹かれて自分に告白する女子』だろうね」
2校時と3校時の間の休み時間、私たちのグループは何故か井原の話題で盛り上がっていた。ちなみに彼の数少ない女友達は、ほとんどが私の周りの人間だ。
「井原に告白するオンナってマゾなの? それとも『私なら彼の心を動かせるかも!』なーんて、お花畑の脳内で考えているのかな?」
「…でもさ、ウチらの年齢で外見から入るのは、ごくごく自然なことだと思うんだよね。…ねぇ、マナカも最近は知らない男子たちから告白されているけど、その辺はどうなの?」
仲間の1人が、美少女であるマナカの方を見た。
「…う、う~ん、私は井原くんのような態度をとってはいないけど、今まで知らなかった男子から『付き合って下さい』と言われても…ちょっと…」
マナカは困った表情で答える。
「なんだよ? みんなして俺の悪口か!?」
突然、私とマナカの間に、綺麗な横顔が乱入してきた。こんなことを彼に言えば小突かれるかもしれないが、井原は女の私なんかよりも『美人』だと思う。更に180センチ越えの身長と恵まれた身体能力まで備わった彼が皆の注目を浴びないハズはない。
「そうだよ。アンタがあまりにも告る女子に冷たいから、『井原にはちゃんと赤い血が流れているのかなー』ってみんなで言ってたところ」
私はつっけんどんに言い放つ。
「何色なら納得するの? 青? 緑? それとも無色透明?」
「無色透明じゃないの? 主成分はスポドリ」
「ウケる! そうかもしんねーな」
「ねぇ井原、アンタは相手の存在を知らなかったかもしれないけど、向こうは勇気を出して告白したんだから、その気持ちには『ありがとう』くらい言えないの?」
「オイオイ…礼を言う相手くらい俺に選ばせろや」
「アンタは小学校時代の道徳で居眠りでもしてた?」
「じゃあ平塚、オマエは小学生の時に『知らない人と簡単に口を聞いてはいけません』って教えてもらわなかった? 俺はそれを忠実に守っているだけですが何か?」
「もぉ! 減らず口!」
「何だよ、おせっかい! じゃーな」
井原はニヤリと笑うと颯爽と教室を出て行った。
井原…
数分前まで井原がいた場所…。周りにバレないように私は彼の残像に触れる。
井原…
「行き先は6組かな?」
友人の言葉で私は現実に返った。
☆☆☆☆☆
井原に彼女ができた。
…いや、2人は元々付き合っていたが、周りにはずっと隠していたと聞いた。
2年6組の山田カエデちゃん。彼女は井原の幼なじみだ。一部では『マナカ本命説』が根強く信じられていたこと、そして彼がカエデちゃんを守るために6組でひと暴れしたことで、学校は結構な騒ぎとなった。
カエデちゃんの方にも、星名リュウヘイくんという、もう一人の幼なじみがいて、そちらとの仲を邪推する女子がいたらしい。
マナカとはタイプが違うが、カエデちゃんも整った顔立ちをしている。凛とした花のようなマナカに対して、カエデちゃんはスイートピーのような可憐な花のような女の子だ。
私なんかとは違う…。
そんなカエデちゃんは昼休みになると、私たちのクラスへ来て一緒にお弁当を食べるようになった。
「ねぇ、カエデちゃん、小学生時代の井原ってどんな感じだったの?」
会話のキャッチボールの中に、私はちょくちょく井原の話題を入れる。勿論、不自然にならないように気をつけてはいた。
「あ…うん、私よりも背が低かったよ」
他の話は弾むのに、井原について質問すると、彼女は最低限しか答えない。私は彼氏がいたことがないので分からないが、あんなイケメンと付き合っていれば、ついつい浮かれてしまい、自慢するつもりがなくても、会話の中で惚気てしまうのではないか…? と思ってしまう。
カエデちゃんは自分の主張を持ってはいるが、控えるべきところは上手に控えている。井原は彼女のこういうところに惹かれたに違いない。
多分…なのだが、井原の方が彼女により惚れているような気がした。
『井原サトシの彼女』になった途端、手のひらを返したようにすり寄ってくる女子たちから逃げてきたカエデちゃん。そんな彼女に『避難場所』を提供したのは、他でもない私だ。
繰り返し述べるが、私は困った人を見ると放ってはおけない。イジメられた経験を持つ私が、カエデちゃんを見過ごすワケにはいかないだろう。
本当にそうなの?
もう一人の私が意地悪な口調で問う。
私は井原に『イイトコロ』を見せたかっただけで、根底にあるものは他の女子たちと変わらない『打算』ではないのかと…。
井原はカエデちゃんに『平塚の性格の良さは俺が保証する』と私のことを言ってくれた。
嬉しかった。
そして…
哀しくて泣きたくなった。
☆☆☆☆☆
クリスマスまであと1ヶ月…という時期になると、どの店もきらびやかになり、私の目を楽しませてくれる。
マナカとプレゼント交換をする約束をしているので、今日は休日を利用して一人でモールを訪れた。
アクセサリー売り場でイヤリングを物色していたが、すぐ横にあるピアスコーナーが目に入る。そこには『男性へのプレゼントにも♥️』と手書きのPOPが添えられていた。
あっ…、これ井原に似合いそう。
井原の両耳にはピアスホールがある。「1歳上の姉に脅されるカタチで穴をあけた」と言っていた。学校では禁止なので、ピアス姿の彼を見たことはないし、これからも見ることはないのだが…。
い、いけない!! 脱線するな自分!! 今日はマナカのプレゼントを見に来たんだからっ!!
私は慌ててイヤリングコーナーに視線を戻した。
「あれっ? もしかして平塚さん?」
不意打ちで誰かが私の顔を覗きこむ。
誰?…側に来た女子の名前を思い出すのに5秒ほどかかってしまった。何故なら彼女は思い出す価値のないヤツだから。マナカの言葉を借りるとすれば『許すか許さないかなんてジャッジしている時間が勿体ない人間』だ。
緑川ハルカ!!
そう…、緑川さんは私がイジメられた原因を作った中学時代の同級生だ。彼女は必死で庇った私を簡単に裏切ったにも関わらず、いけしゃあしゃあとした顔で私を見ていた。
☆☆☆☆☆
卒業さえすれば、在籍時代の行いは全てリセットされると思うのは『いじめた側あるある』なのだろうか…? 悪い意味で心から感心する。
緑川さんも例に漏れず、懐かしい表情を見せた。
「平塚さん、元気だった?」
中1の頃、オドオドした印象だった緑川さんは、その後につるんだ友人の影響で性格がだいぶ派手になった。私の目には、かなり無理をしているように映ったが、彼女はそれで満足だったのだろう。
「おかげさまで」
愛想笑いなどしない。卑屈にならない。だからといって恨みごとを表に出さない。毅然とした態度で私は返答する。架空のマナカが私の側にやってきて、寄り添ってくれているような気がした。
「そう、良かった」
「………」
さっさとフェイドアウトして欲しいのに、緑川さんはしつこく私の横を離れない。
「平塚さん、もしかして『彼氏』のプレゼントを物色中?」
「はっ?」
「私もね、彼氏のプレゼントを探しているところなんだ」
「………」
彼女の頭の中は今、付き合っている男子で頭がいっぱいなのかもしれないが、他人の買い物姿を見ただけで、『彼氏へのプレゼント』というワードしか出ない思考回路を、私は到底理解することはできない。
「あっ…、平塚さんごめんなさい。彼氏いるのかどうか、まだ聞いていなかったね」
どうやら『マウント』目的も兼ねていたらしい。緑川さんにとって、私は未だに『何を言ってもいいヤツ』だということだ。流石にイライラしたが、それでも表面は頑張って取り繕った。
しかし、さっきまで見ていた『井原に似合う』ピアスを彼女が手に取った瞬間、私の中で何かがぶっ飛んだ。
「私? 彼氏なら、いますが何か?」
井原の口調を真似て私は対抗する。
「へ、へぇ~、そうなんだ」
「随分驚いているね。意外だった? 私は心外だけど」
緑川さんは、バツが悪そうな顔で、一瞬私から目を逸らしたが、「ねぇ、写真見せて!」と言い出した。
…えっ!?
「なんで緑川さんに見せなければいけないの!?」
例え本当に彼氏がいても、こんな子には見せる写真なんかない。
「私も見せるから」
頼んでもいないのに、緑川さんはスマホ画面を私に見せた。私の『彼氏』の存在に興味があるからなのか、それとも疑っているからなのか判断しかねるが、彼女はかなり食い付いている。
「………」
私は黙ってスマホを彼女に向けた。
緑川さんは驚きで目を丸くなり、次に発するべき言葉が出てこない。
画面の中にいるのは、私と井原。それは学年行事の時にマナカが撮ってくれたツーショット写真だった。
☆☆☆☆☆
私は頭を抱えていた。
冷静になった今、「なんてことをしたんだ!」と後悔している。
時間は元に戻せない。そんな私にできることは『謝罪』という名の事後報告だ。彼は話せば分かってくれるとは思う。けれど彼の容姿を利用した事実に変わりはない。
もしも井原に軽蔑されてしまったら、私はどうなってしまうのだろう…。
そんな葛藤がエンドレスで続き、決断を1日…もう1日とズルズル遅らせていた。遅れれば遅れるほど言いづらくなっていくのに…。
そんな私に想定外の災難が振りかかったのはモールでの出来事から数日後のことだった。
下校中の私は校門前で他校の制服を着ている2人組の女子が目に入った。
「…えっ?」
全身の血が凍りつきそうな感覚を覚えた私は、その場で立ち止まる。だってそこにいるのは緑川さんたちだったのだから…。
えっ? 意味が分からない。だってあの子たちの学校はここから3駅も離れているのに。
「あ、いたいた! ヤッホー平塚さん」
何が『ヤッホー』だ。
動けない私に、彼女たちの方から近づいてきた。
「平塚さん、この間はどーも。モールで会ったことカレンちゃんに話したら、『私も会いたかった』っていうから、来ちゃった。今日ね、ウチらの学校、短縮授業だったんだ」
「………」
バカなの!? ヒマなの!?
緑川さんと一緒にやってきたのは、時田カレン。勿論、中学時代に私のことをイジメていた女子だ。
「平塚さん、久しぶり。ハルカから聞いたよ~。カッコいい彼氏出来たんだってぇ!?」
「そ、そうだけど…」
平常心を保つのが精一杯で、イヤミの一つも出てこない。
「『彼氏』は一緒じゃないの?」
「………」
彼女たちが、こうやって『わざわざ』やって来たことで、興味よりも疑いの気持ちの方が強いことが分かった。
これは推測だが、モールでのことを聞いた時田さんが「絶対に嘘だから、2人で暴きに行かない?」と緑川さんをそそのかした気がする。
まあ、本当に嘘…なんだけど。
井原が部活で良かった。この場は何とかごまかして、彼には明日全てを打ち明けよう。気を悪くしても誠心誠意謝り続けるつもりだ。
『彼は部活で遅くなる』と言おうとしたが、緑川さんの「あっ!! あの人じゃない!?」の声に邪魔されてしまった。
…えっ?
驚いて振り向くと、本物の井原がこちらに向かって来ている。高身長のイケメンは、普通に歩いているだけでも目立つ。
嘘!? 井原…部活は?
帰宅部の私が『今日は月に一度の全職員会議で、運動部も文化部も休部だったこと』を思い出したのは、その直後だった。
井原は私たち3人に気がついて立ち止まる。
「あのぉ…コンニチハ」
2人は愛想笑いを浮かべて井原に近づいた。普段の彼ならば完全無視を貫くのだろうが、今回は私が一緒なので状況の把握を優先しているようだ。
「私たち、『メイちゃん』のトモダチなんです」
はっ?
『メイちゃん』?
トモダチ?
「へぇ~、そうなの?」
井原は怪訝そうな表情で反応した。
「ちょうどこの辺りに用事があったから、メイちゃんに会いに来たんですよ」
「あとメイちゃんの『彼氏』にも会ってみたいなーって。あのぉ、あなたが『彼氏』さんですよね? 写真見せてもらいました」
ニヤニヤする2人。彼女たちは井原が否定するのを今か今か…と待っているように見えた。
そうだよね。私にこんなにカッコいい彼氏がいるなんて、信じる方がどうかしている。
私…、
嘘をついたバチが当たったんだ。
「…あのさ、俺、不愉快なんだけど?」
案の定、井原は不機嫌になった。
「………」
もういいや、どうにでもなれ!!
しかし、それに続く井原の言葉は、私が思ってもみないセリフだった。
「アンタら、何ニヤニヤしてんの? マジで不愉快。ねぇ、そもそも本当にコイツの友達?」
「………」
緑川さんたちも…そして私も、井原の迫力に押されまくっている。
「違うよね? トモダチなんかじゃないんでしょ? そんなヤツに俺とコイツの関係教える義務はないよね?」
「………」
井原の顔に笑みが浮かんだ。前々から思っていたのだが、彼は怒りが一定レベルを越えると逆に口角が上がる。そしてそれが却って恐ろしい印象を与えるのだ。
「ほら、行くぞ」
彼は私の肩をグッと掴むと、呆気にとられている2人を残して、学校をあとにした。
「………」
井原は肯定も否定もしていない。でもあの子たちを黙らせるには充分な立ち回りだった。
☆☆☆☆☆
「バス停まで送る」
そう私に告げ、あとは無言で歩く井原…。私も彼に何から伝えたらいいのか分からず、うつむきながら横に並んだ。
緑川さんたちのことは強引に解決させたが、私たち2人の問題は何一つ片付いていない。
第三者を通じて事実を知られるくらいなら、自分からカミングアウトした方が、ダメージは軽く済んだことだろう。
胸が痛い。数えきれないほどの針が刺さっているようだ。
「なあ平塚…」
井原がようやく口を開いた。
「な、何?」
「アイツらって前に言ってた…中学時代にオマエをいじめてたヤツ?」
「…うん」
「平塚っ!!」
「は、はいっ!?」
私は肩をビクッとさせて、思い切り目を閉じた。
「見栄を張る相手だって、もう少しマシなヤツ選べよ!! アレだろ? 彼氏マウントされて挑発乗ったオマエが、たまたまあった俺の写真使ったんだろ!?」
「う、うん…」
「あんなヤツら相手にすんな。放っとけ!」
「…はい」
「よしっ! 説教終了」
「井原…怒ってないの?」
「オマエには怒っていない」
井原はそう言って、私の半歩先を歩き出す。どうやら私は軽蔑されることなく、事態は一件落着したらしい。
でも…
私の中で何かが込み上げてくる。
「…いはら」
「ん?」
「すき…」
私の口が勝手に動いた。
「えっ?」
「井原が…好き」
「………」
「井原が好き井原が好き井原が好き井原が好き井原が好き井原が好きごめん井原が好き…」
「平塚?」
驚きで目が丸くなり、開いたままの口を元に戻すことができない井原。それでも私は自分の口を止めることが出来ない。
「井原が大好き!!」
私はなんてバカなんだろう。せっかく井原がいい方向へと解釈してくれたというのに…。
私が…自らぶち壊してしまった。
自業自得なのに、涙が溢れだしてくる。
「平塚…」
「………」
「ごめん」
「………」
私は泣きながら頷いた。
「…でも、ありがとうな」
「!!??」
井原のその一言が私の涙を止めた。そのあとで違う温度の涙がはらはらと流れ始める。
「いはら…、わたし…こそ、…あ、…あり…がと」
ありがとう。井原、わたしをキチンと振ってくれて…。
今、頬をつたっている涙の温かさを私は一生忘れない。
〈END〉
《19》↓に続きます
〈いつも読んで頂いている方へ〉
毎度毎度、長い文章読んで頂いてありがとうございますm(__)m💦
予定は5000文字だったんですけどね🤣
〈はじめまして❗の方へ〉
こんな話↓を連載中です。今回は名前のみで登場した『星名リュウヘイ』が主人公🐶 もしよろしければ❤️