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一日一善ならぬ一年一善の私の今日の良き日
一日一善とは言うけれど、私の場合は一年一善ぐらいだろうか。今日はそのまれな一善を発揮してしまった。というのも、過去のちょっとした嫌な思い出がフラッシュバックし、手助けせずにはいられなかっただけなのだけれど……
今日は久しぶりに良い日だった。
友人と美味しいカフェランチ『さらさ西陣』からの、あぶり餅『かざりや』を平らげ(両親へのお土産も忘れずに購入)、さらには抹茶を目の前で立ててくれるお店『皐盧庵茶舗』まで発見した。
ちなみに抹茶のお店は、1回目はお店の人が点ててくれるのだけれど、2回目からは体験で自分で点てさせてくれる。他の人に見られることなく、友人とワイワイ楽しみにながらお茶席の体験ができるのだ。
本当に満足の一日だった。
(ちなみに食べすぎたので、夜飯は蕎麦しか食べなかった)
友人と別れた後、一人で買い物をしてから家に帰ることにした。一通り買い物を済ませ、いざ帰ろうとその帰り道に、私の目の前でことは起こった。
郵便局の前で一人の小柄な女性(50代ぐらいだろうか)が停めていた自転車を駐輪場から出そうとした。
その瞬間、私は見てしまった。
横の自転車にこつんと当たった瞬間、横の自転車が揺らぎ、必死でその自転車を抑える女性、でも時すでに遅し、ドミノ倒しの要領で次もその次もと順番に自転車が倒れていく。
あーっと思う間にも、私の頭の中には苦い記憶が蘇る。
中学生の頃、もっと大きな駐輪場で同じことをしてしまった。次々に倒れる横の自転車たち。でも自分の自転車が前にも後ろにも、もう動かせる状態ではなく無理やり引っ張ることしかできなかった。倒れた自転車の数は軽く10台を超えていただろう。もう20年も前のことなのに、その瞬間、フラッシュバックというのか、鮮明にその時のことを思いだした。
しかも、当時、ちょっとやんちゃな同級生と一緒だった。私は見栄を張ってしまった。内心、ごめんなさいと、何度も謝ってはいたけれど、友人の前では「他の自転車なんていちいち直していられるかよ」という雰囲気を纏って、そのまま駐輪場を後にした。友人はニタニタしながらその様子を見ていて、満足げに走り出した。
その後を追いかけながらも、どうしても気になって現場を振りむいてしまった。さっき出入り口付近ですれ違ったおじさんが、(おそらく)ため息をつきながら全ての自転車を直してくれていた。見るんじゃなかったと、自分もため息をついて、素知らぬ顔でその場を去ってしまったのだ。
その光景が一瞬にして脳裏に浮かんだ。本当は目をそらしたかった。また、そのまま通り過ぎればいいじゃないかと、言い聞かせようとした。
でも、もう知っていた。ここで目をそらしてしまえばあの中学生だったころの自分と同じなのだと。その後、また光景がふいに脳裏に浮かぶことも。
それにこんなにいい一日だったのに、最後に自分にため息なんてつきたくない。
そう、その女性の為よりも自分の為だった。
女性は自分の自転車と隣の自転車を抑えるのに必死で、右往左往していた。私は何も言わずに顔を伏せて倒れた自転車だけを戻した。その間に女性は自分の自転車を引っ張り出せたようで安心した声で「ありがとう、ホンマ助かりました」と何度もお礼を言ってくれた。なんだか気恥しくてただ「いえ」とまたカッコを付ける目を伏せたまま自分がそこにはいた。
まだ自分の頭の中には中学この頃のあの光景がぐるぐると映写機が故障したかのように何度も何度も流れていて、後味が良い思いをした訳ではなかった。
けれど、見ている人は見ているようだった。
その後すぐに他の人に声をかけられた。
「あのー社会人スポーツのサークルを作ろうと思うんですけど、興味ありませんか?」
ハッキリ言って、超絶怪しい。けれど、まぁ、こんな怪しい感じで近づいて来る人もそうそういないだろう。それに、明からに声をかけることに慣れていない様子で、人をだませるタイプには思えなかった。
後々話を聞いていると、自転車を起こしているところを見られていたそうで、それで話しかけてくれたようだ。
「めっちゃカッコよかったです!」
いや、何だか恥ずかしい。けれど見てる人は見てるもんだなと、何だか妙に感心してしまった。
何だか不思議な一日だった。
けれど、自分の為とは言いつつも、誰か知らない人を助けようと思ったことなんて久しぶりだった。優しくされた記憶はあれど、自分が優しくした記憶なんて、スグには思い出せなかった。
そう思うと、また自己嫌悪に襲われそうにはなるのだけれど、でも、あの時放置していればもっと嫌な自分が増えていたことだろう。
今日の自分はちょっと好きになれそうな気がする。
そんな日があってもいいじゃないか。