自分とは全く異なる思考回路の上司だから面白い
僕はアメリカの小さな製薬会社で働く日本人研究者です。僕の直属の上司は、メアリー(仮名)というカナダ人女性です。メアリーは、僕が率いる安全性研究部門と、中国人女性のダイアン(仮名)が率いる薬物代謝研究部門を統括しています。メアリーと僕は、真逆の思考回路を持ってます。
真逆の思考回路の上司と自分
メアリーと僕は毎週月曜日の初めに1対1のビデオ会議でその週のアクションアイテムを確認し合います。僕は融通の利かない論理的タイプなので、その週に取り組む重要項目を予め列挙したWordファイルを見せながら、僕の進めようとしていることに異議がないかひとつひとつ確認していきます。自分の頭の中で結論や理由を整理し、整理した後でないと、きちんと話せません。メアリーは、僕とは全く異なる思考回路を持ってます。とにかく話しまくり、話を展開しながら、自分の考えや論理をまとめているようです。
あるトピックについて、僕が自分の考えと今後の予定を整理して説明し終わると、メアリーが話し始めます。彼女の膨大な知識を混じえて、話しまくります。僕は彼女の話を聞きながら、「いろいろ情報をくれるのはありがたいんだけど、結論は一体いつ出てくるんだろう?」と思ってしまうことも多々。聞き終わって、「結局何が言いたかったの? まあ、僕の予定に反対していないのだから、いっか!」と苦笑いで終わってしまうこともあります。しかし、彼女のマシンガントークの中に、自分ひとりでは思いつかなかった画期的アイディアのヒントが紛れていることもあります。また、メアリーは、僕のツッコミをうまく取り入れながら、ある時はビデオを通した僕の微妙な表情を読み取りながら、器用に話を軌道修正して、僕のもともとのアイディアを、よりクォリティの高いものに仕向けてくれることもあります。僕が全く持ち合わせていない彼女の思考展開の才能に圧倒される時です。思考回路が違う上司とタッグを組んで仕事ができるからこそ、そんな相乗効果が得られると実感できます。
話しながら、他人の意見を吸収しながら、最善案を作り出す才能
「英語では、結論を先に行って、その後に理由を説明して、最後にもう一度結論で締める。そうすると相手に伝わりやすい。」とよく聞きます。ただ、実際にミーティングでアメリカ人とディスカッションをすると、全然当てはまらないことも、いっぱいあります。
数人のミーティングでディスカッションする時、笑ってしまうことがあります。例えば、メアリーは、「この件は、Aの方針で進めれば上手くいくわね」と話を始めます。しかし、話の途中で他の人から「BやCのことも考えて進めていかないと」などの違う意見が出ます。すると、メアリーは「そうなのよ。BやCのことも含めて、多面的に考えながら進めなければいかない問題ね」などといとも簡単に、自分の意見を180度変換することも多々です。僕は心の中で(メアリー、1分前まで真逆のこと言ってたじゃないか!)と叫んでます。しかし、このメアリーの変わり身の速さ、誰が何を言ったにこだわらずに、最終的にとにかく最善策を作り上げられればいい、というフレキシブルで軌道修正が簡単にできる思考回路の才能には頭が下がります。
思考パターンが違うからこそ強力なタッグが組めた
最近、メアリーと僕は、タッグを組んで自分たちの意見を、トップマネージメントに説得し、プロジェクトの方針を決定することに成功しました。まず、僕が、予め準備したスライドでプレゼンを行います。しっかり事前準備して理路整然とまとめることは、僕の思考回路とマッチして、僕が得意とすることです。しかし、そこに自分が想定していなかった質問が投げかけられると、僕の思考回路はたいへん脆いです。自分の頭の中で、質問を噛み砕いて理解し、それに対する回答も論理的に整理してからでないと、答えられません。時間がかかって、迅速に臨機応変なレスポンスをするのが苦手なのです。整理できていないうちに話し始めたら、しどろもどろになってしまいます。そんな時、メアリーが助け舟を出してくれます。彼女の頭の中の膨大な知識の引き出しから、瞬時に必要な情報を抜き取り、メアリーのマシンガントークが始まります。トップマネージメントたちは、彼女の膨大な情報には感心しますが、情報量が多すぎて簡単には理解できません。ただ、僕にとっては、体制を整える時間ができました。メアリーのマシンガントークの中から要点をかいつまんで、今度は僕が簡潔に論理的に要約して回答ができます。そして最終的に誰もが納得しました。まさに思考回路が全く違うふたりが、お互いの得意を活かして、強力なタッグが組めた事例になりました。
もし自分と同じ思考回路を持つ上司だったら?
僕は昨年8月に今の会社に転職しました。メアリーはそれより3ヶ月遅れて入社しました。僕は、自分の上司候補をインタビューする機会があったのです。以前に書きましたが、自分の上司候補3名をインタビューした結果、メアリーが選ばれ、実際の上司となったのでした。インタビューの時点から、メアリーは僕とは全く異なる思考回路の持ち主だと分かりました。残りの2名の上司候補は男性でした。思考パターンも、メアリーより、僕に近かったと思います。僕は、メアリーと仕事をすることが、個人的な成長にとっても、会社のプロジェクトにとっても一番よいと思い、メアリーを推薦し、その他のインタビューアーも含めたディスカッションで、メアリーの採用が決まったのでした。
思考回路が異なれば、それだけ理解し合うのは難しいですが、もし自分と同じ思考回路を持つ上司だったら、きっと今のような相乗効果は得られなかったでしょう。意見がぶつかり合うことはいっぱいあるだろうけど、これからもこの思考回路の違いを楽しみながら、ポジティブに刺激刺激しあい成長できるといいなと思ってます。
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