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村上春樹を味わえるようになってきた40代。
私は子供のころ銀杏が苦手だった。
正直言って、何が美味しいのか全く分からなかった。
20代の後半ごろ、
とある居酒屋で友人がツマミに焼き銀杏を注文した。
子供の頃に苦手だったという理由を引きずって、それまでほとんど口にしたことがなかったのに、不意に食べてみようという気持ちになって、少しつまんで食べてみた。
旨かった。
何が旨いのか全くわからないけれど、なぜだかすごく美味しく感じて、以降は好きな食べ物の仲間入りを果たしている。
同じようにゴボウや蓮根、その他さまざまな野菜類に対して、
子供時代の苦手意識はことごとく覆り、今では好きになったものが沢山ある。
心身の成長に伴って、味覚が変化していったということなのか。
或いは、
子供の頃よりも、感覚器官が衰えて、苦みやえぐみを感じにくくなったのか。
いずれにしても、好みは変化していく。
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好みの変化というのは、食べ物に関することだけではない。
苦手だった冬の寒さもスノーボードと出会ってからは、楽しみを見出せるものとなったし、
人前に立つと緊張していたのがウソのように、大人数を相手にしても平然と話すことが出来るようになった。
最近の一番の自分の変化として感じるのは、
村上春樹の小説を楽しめるようになってきたことだろうか。
何を今さら、、、と感じる方も多くいるだろう。
村上春樹といえば、新作が出れば大ヒット確定で、ハルキストと呼ばれる多くのファンがついているような、超超超大作家先生である。
村上春樹の作品が面白いのは、今に始まったことではない。
(40年以上も前から、彼の作品は世に生み出され続けている)
最初に私が村上春樹の作品を読んだのは高校生くらいだっただろうか。
読書家の友人から勧められるままに何冊か手にとって読んでみたものの、私は彼の描く“フワフワ”とした現実感があるようでない、それでいてリアルな世界にうまく入り込むことが出来ずにページを閉じてしまった。
そこから数年、世の中でヒットしていることは知りつつも、見て見ないふりというか、ある種の食わず嫌いのような態度と距離感を保っていたように感じる。
ところが、昨年あたりからAudible(本の朗読サービス)で、
ふと「そうだ、村上春樹でも聞いてみるか」と思い立ったのである。
きっかけは、私が勝手に 演技がとてつもなく上手い と思っている俳優さんが朗読の読み手だったところから、どのように読んで聞かせてくれるのだろうと興味を持ったことである。
するとどうだろうか。
昔は苦手だった物語の描写が、スッと自分の中に入ってくる感じがある。
捉えどころがなかった村上春樹の世界が、心地よく設計されたテーマパークのような自然さで”視える”ような気がしたのである。
恐らくは描写の上手さや、設定の練りの深さなどから、「んなわけあるかい」と突っ込む余地を奪われるほどの自然さがあったのだろうと思う。
まぁ、私は演技のことなど何も分からない素人だし、読書についてもごくごく一般的な軽めの読者なので、文学の良し悪しみたいなことは一切わからない。
それでも、少なくとも私にとっては、ずいぶんと親しみやすい作品のように感じられたということは事実である。
初めて村上作品を手にしてから20数年。
やっとこさ、その良さが分かってきた40代。
さぁ、これからの読書の楽しみが増えた。
こうなったら、古い作品からぼちぼち攻めていきますかね。
味わい尽くすには、相当なパワーが必要そうだけれど、それはきっと良いことなのだろうな。
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