【イベントレポート】日本で暮らす高校生誰もが、「おもしろい大人」に出会える機会を。
はじめまして、カタリバの柏田と申します。
カタリバRootsプロジェクト(外国ルーツの高校生支援)に業務委託という形で関わっており、民間企業で働きながら、就業後や休日の時間をつかって生徒伴走やイベントの企画・運営をしています。
”外国ルーツの高校生xおもしろい大人交流会”
イベントを企画した背景・想い
私は福岡県北九州市というところで生まれ、学生時代は野球部に所属し、毎日汗水を流しながら青春時代を過ごしました。人生が大きく変化したのは大学2年生の夏。はじめての海外留学がきっかけでした。
九州の片田舎で生まれ育ち不変的な日々を過ごしてきた私にとって、はじめて降り立った異国の地での出来事はすべてが新鮮でとても刺激的でした。中でも国際色豊かな友人と過ごした日々は、生まれ育った場所や環境が違えばそれぞれの当たり前が異なること。そして、その当たり前に優劣がないことを教えてくれました。
こうした海外留学の経験から、私自身、個人のアイデンティティに優劣がない社会づくりを志すようになり、カタリバには昨年の夏頃、「違いが豊かさとなる未来」を目指すというRootsプロジェクトのビジョンに共感し、ジョインしました。
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活動していく中でまず驚いたことは、日本にはこんなにも背景の異なる多様なルーツの子ども若者がいるのかということです。
私が学生時代に出会った、主に「学ぶこと」を目的にしていた友人たちとは異なり、「働くこと」を目的としている(厳密にいうと働くことを目的にした保護者と移動してきた)今目の前にいる生徒たちは、抱えている悩みや困難さも違うのだということが徐々にわかってきました。
異なる文化や価値観・アイデンティティの悩み以前に、どう生活を安定させるのか、どう日本で暮らしていけばいいのか、安心安全な居場所に出会えていない若者の多さに、日本の社会を創っている大人の1人として彼らとどう関わると良いのか、問い続けています。
緊急的に対応すること・中長期的な視点で取り組んでいくこと、1つ1つをチームメンバーと議論しながら提供プログラムを更新する日々ですが、私自身の想いとしては、当事者だけの問題にするのではなく、もっと日本社会のいろいろなアクターを巻き込んでいっしょに考えていきたい、ともに変容していきたいと思っています。
その1つのアクションとして、今回、外国ルーツの高校生と多様な経験をしてきた大人との交流会を企画しました。
1人1人のこれまでが、誰かのこれからの教材に。
抱える悩みや背景は違えども、困難に立ち向かう経験やそこからの学びは共有できるはず。経験を強さにかえ、自己実現にどう繋げていったのか、正解は1つではないからこそいろいろな人と対話することが進路にむかう意欲につながるのではないか。
イベント名、”高校生xおもしろい大人交流会” の「おもしろい大人」には
①自分自身の体験と向き合って「今」を生きているかっこいい大人がたくさんいることを知ってほしい
②集まった大人たちは、高校生の応援者であることを伝えたい
③高校生に「この人たちおもしろい!」と思ってもらえる大人で居続けたい(という自分を含めた大人たちへのメッセージ)
という想いを込めました。
私は、本当に日本社会で自立することができるのでしょうか
(写真はイメージです)
今回の参加生徒の1人であるSさんは、中学生のときに来日しました。中学校では外国ルーツの生徒は自分1人で、周りについていくために、とにかくがむしゃらに勉強したそうです。
高校に入学してからは、クラスの大半が外国ルーツの生徒ということもあり、周りの生徒をサポートする頼られる存在です。アルバイトや家の手伝いと両立して勉強し、この度、希望していた大学への進学も決まりました。
一見すると順調にみえるSさんが、ある日ぽつりとスタッフにつぶやきました。
「先生、私はこれまでとにかくがんばらなくちゃと取り組んできました。親の期待や自分に負けないために。でもふと、いつまでがんばればいいんだろうととても不安になります。今は辛くても、(カタリバの)先生も、学校の先生も、友だちもいます。将来自立して家族を支えたい気持ちはあるけど、とても怖いです。」
参加を希望している他の生徒にもヒアリングをしたところ、Sさん同様に、新しいコミュニティへ旅立つことの不安、日本にきてキャリアを考える上で向き合ってきた壁をこれからは1人で乗り越えなくてはならない(ようにみえる)ことに対する不安を抱えていました。
生徒への事前ヒアリングをうけ、当初は大人のライフストーリーの共有を中心に設計していましたが、高校生からの悩み相談という方向性に変更して実施することにしました。
不安もあるけど、困難もあるけれど、そんな中でも希望をもってキャリアを切り拓いていくヒントを得たいという高校生の熱意にこたえるように、大人の参加者のみなさんも、これまでの経験や自分自身の背景を、惜しみなく開示し対話を重ねてくださいました。
「実は最初の会社ではうまくいかなくて・・・」
「はじめは不安なことも多かったけど、行動してみたらどんどん応援してくれる人に出会うことができたよ」
「今学生に戻れるなら、もっといろんな人と話すことをするかなぁ」
自身の体験をお話いただく合間に、高校生の悩みを引き出し、励ましの声をかけてくださっていたことが印象的でした。
また大人の方々も高校生の話をききながら
「なんでこんなに(高校生の段階で)大人なの?」
と、高校生の大人にならざるを得ない環境に驚きつつ、しかし前向きに取り組んでいる彼らに刺激を受けているようにみえました。
90分のプログラムはあっという間に過ぎ、さいごはそれぞれに今日の学びを共有して場を終えました。
高校生の参加者の声*
・自分が行動したら幸せになる。自分のやりたいこと、結果に関係なく行動することで幸せに近づくということを、対話の中で学ぶことができた。
[ネパールルーツ / 高校2年]
・本当はすごく緊張していたけれど、勇気を出して参加して良かった!同じ趣味について話せたことがうれしかったし、苦手なことにもう一度向き合おうという気持ちになれました。
[フィリピンルーツ / 高校3年]
・みんな(対話をした大人も、参加している他の高校生も)も最初は大変で、頑張った結果今があると思う。前の仕事を辞めてもっと上に行きたいとがんばっているお話をきいてすごいなと思ったし、わたしもがんばろうと思いました。自分のことを伝える練習をして自信をつけたい。
[ネパールルーツ / 高校3年]
(*多言語でのコミュニケーションのため、一部意訳しています。)
社会人の参加者の声
・日本は少子高齢化や人口減少により、外国人の受け入れがもっと加速する中、外国人を受け入れる環境が整っているとは言えないのが実態かと思います。私も中学2年生で日本に移住し、日本語学習や受験、日本社会への適用に苦労しました。是非生徒のみなさんにとって今本当に何が一番必要としているのかの観点で進めていくととてもいい活動になるかと思います。お手伝いができることがあればいつでもお声掛けください。
[マレーシアルーツ/経営者]
・普段は日本生まれの外国ルーツの子どもたちに関わっているのですが、日本に来て数年の方と話すのは新鮮で、日本に来て不安に感じている点などを知れて勉強になりました。
[日本ルーツ/テレビ局勤務]
・本当に高校生が勉強熱心なのと、現状を変えたいという思いが伝わった。
[韓国ルーツ/外資系IT企業]
・(高校生と普段関わらないため不安だったが)スタッフが明るくファシリテーターをしてくださって、とても参加しやすかったです。スタッフと参加した高校生が普段からコミュニケーションをとれていることが伝わってきたことで、初めて参加する自分もスタッフを介して楽しく会話できました。
[日本ルーツ / 顧問弁護士]
イベントを振り返って
外国ルーツの高校生を支援していて感じるむずかしさの1つに「リソースマッチング」があります。
関わる生徒の国籍、生い立ち、現在置かれている状況は様々です。生徒と近しい体験をしている方との対話が大切な場面もあれば、まったく異なる状況の方と話した方が効果的な場面もあります。
今回のイベントでも、正直マッチングのむずかしさ、事前ニーズとのミスマッチがあったことは否めません。
しかしそうしたうまくいかなかった点も含めて、大人の参加者も高校生の参加者も、次回への改善点をあげてくれる関係性であることに心から感謝し、次につなげたいとスタッフで振り返りました。
私たちが目指す「違いから生まれる豊かな学び」では、文化や価値観の違いを理解するだけでなく、いろいろな前提の違いやその前提をすり合わせる過程、スキルを身につけることこそが重要だと考えています。日々このような活動を通じ、1人でも多くの方に”違い”を考えていただくことが、違いから学び合う環境の土台につながると改めて感 じました。
"違い"の先にある豊かな未来を目指して
外国ルーツの高校生は年々増加傾向にありますが、まだ課題が認知されはじめた段階で、支援体制の整備や支援者の育成はこれからの課題です。
私たちが関わっている生徒の多くは、自身の家族・親戚以外に社会との接点が持ちづらく、ロールモデルに出会う機会も限られているため、少ない情報を頼りに将来のキャリア設計を行っているのが現状です。また描いたキャリアに伴走してくれる存在の有無も、彼らの自己実現に大きく影響しています。
冒頭でも触れましたが、当事者だけの問題にするのではなく、いっしょに考えていく、考えて伴走する大人を増やしたいと考えています。
1人の大人が多様な背景をもつ子どもたちに解決策を提示することは困難です。寄り添いを得意とする大人、生徒に合わせて活躍の場へ誘い出してくれる大人、必要とする情報にたどり着くための方略を教えてくれる大人・・・
それぞれの得意を活かして、チームとして子どもたちのキャリアを支える体制を構築していきたいと思います。
分断ではなく対話がうまれる未来へ。
試行錯誤が続くプロジェクトですが、引き続き関心をおよせいただけると幸いです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
ぜひ、次の記事もお楽しみに!
(今回のイベントに参加した高校生が、後輩向けに交流イベントを企画したときの様子。大人と高校生、高校生と次の世代、ナナメの関係の循環もうまれはじめています。)