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『ダンタリアンの書架 1』の感想

 角川スニーカー文庫から2011年に出版されたライトノベル『ダンタリアンの書架』1巻の感想をお送りします。

 全8巻で謎を残したまま完結し、2010年代にアニメ化もされた作品です。短編連作形式のライトノベルで、主人公たちではない別の人物を中心に据えた『断章』もあります。

 ヒロインの美少女ダリアンは、読姫(よみひめ)と呼ばれる存在で、禁断の知識と魔力を持つ『幻書』なる特別な書物を保管する図書館そのものです。

 主人公ヒューイは、その図書館の鍵を開けて幻書を使いこなせる鍵守であり、本の狂気じみた収集家だった祖父から鍵を受け継いだのでした。

 世に出回った幻書がもたらす様々な怪事件を、ダリアンが保管する幻書の力で解決してゆく物語です。

 現実世界に近いがどこか違う世界を舞台にしたダークファンタジーです。

 この、『現実世界に近いがどこか違う世界』であるのがミソなのです。現実味と幻想的な要素を混ぜて独特の作風を生み出す手法が使われています。これまで述べてきた通り、古典的な名著とされる幻想文学にも共通する演出法なのですね。

 主人公ヒューイとヒロインのダリアンは、近代の英国を思わせる社会制度や文化の国にいます。実在する国名や地名、人名も出てきます。

 が、英国だと明言されてはいませんし、実在する固有名詞が出てきていても、どこか現実離れした世界観を持つ作風でもあります。このあたりのさじ加減が実に見事です。

 主人公ヒューイは、貴族の家柄に生まれましたが、気取った風はなく、落ち着いた物腰の青年です。ヒロインの読姫ダリアンとは、いつも漫才のようなやり取りをしています。

 ダリアンはヒューイに辛らつな物言いをするのですが、ヒューイは受け流したり、ちょっとやり返したり、その掛け合いも非常にセンスが感じられます。

 さて、この物語がダークファンタジーでありダークたるゆえんは、残酷な描写が見られるのもありますが、それだけではないと思います。

 根本的に救い難い人間の有り様が描かれ、問題は幻書よりもむしろ使う人間の側にあると示していることです。そしてヒューイには当然ながら、人間の有り様それ自体を変える力はありません。

 故に、事件が解決しても、すっきりした爽快感ではなく、ダークな雰囲気を漂わせたまま終わるのです。

 ヒューイが鍵守としてダリアンと共に行動する理由も、明確には語られません。

 ダリアンとの仲も恋愛感情というよりは、仲の良い兄妹のような雰囲気です。

 過去に戦場に出た経験があるらしく、そのことが彼の人生にやや影を落としていますが、過去についてはっきりと述べるシーンはありません。

 あまりはっきりさせ過ぎない手法は、ダークなファンタジーでは特に有効です。それが陰影に富んだ作風を演出するからです。

 主人公もヒロインについても、必要な情報は伝えつつも、あまり語り過ぎないさじ加減が良い味わいを出していると思いました。

 幻書と、美少女の姿をした異次元の図書館といったファンタジー要素もさることながら、それが持つ魔力に振り回される人間模様が、実は最大のポイントなのではないかとも受け取れます。

 ちなみに、幻書の存在を快く思わないのか、幻書事件に遭遇するたびに焚書にしている焚書官なるキャラクターも、彼に従う読姫も出てきます。美形の青年と大変な美少女の組み合わせであるのは、主人公たちと同じです。

 ライトノベルを読む人たちは、私もそうですがきっと本が好きでしょう。アニメでもゲームでも漫画でもない、ライトノベルなる媒体を選ぶからには、きっとそんな傾向があるはずです。

 そんな読者に対して、「危険な知識をもたらす幻書を焼くのは、悪だと言い切れるだろうか?」と問い掛けているのだと思います。

 結局、最終巻の8巻でも、最後まで明確な答えは出されません。

 読者一人ひとりが答えを出すのです。

 少なくとも私は、そう受けとめました。

 素晴らしいライトノベル、素晴らしいダークファンタジーです。

 それでは今回はここまでにしますね。読んでくださって、ありがとうございました。

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片桐 秋
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