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#欧州の霧深い森を歩くような
復讐の女神ネフィアル 第1作目『ネフィアルの微笑』 第1話
マガジンにまとめてあります。
暗い灰色ばかりが視界に入る街がある。ジェナーシア共和国の中部に位置する、大きな河川沿いの街だ。
河川には様々な舟が行き交い、人々や物を流れに乗せて運ぶ。大抵は商用だが、単なる楽しみのために旅する者も少ないが全くいないわけではない。
街の名は《暗灰色の町ベイルン》。見た目そのままだ。街の建造物や河に掛かる橋、道の全ての石畳も、暗い灰色だけの街であった。
復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第24話
マガジンにまとめてあります。
魔術師ギルドの者たちの中でも、とりわけ野心的な者たちは言った。
「水をワインに変え、食べ物を何もない空中から取り出し、不浄なる生ける亡者を消滅させ、失われた手足を再生させ、見えない目、聞こえない耳をよみがえらせ、また死者をも生き返らせることが出来たなら、どんなにか素晴らしいことでしょう!」と。
グランシアの友人の女魔術師がそう言うのを、アルトゥールは聞いたこ
【ハイファンタジー小説】復讐の女神ネフィアル 第6作目『ため息の響く丘』 第6話
メイスは神聖なる武器である。他の武器とは異なる。それはみだりに武力を用いぬと決意した者の武器である。
ただし、用いる時には最大限の威力を発揮させるのだ。普段からそうした覚悟を持つようになる。
それゆえに神官となる道を選んだ者は好んでこの武器を使う。他の武器を使う者は、神技の力に陰りを生じる。ゆえにメイスは神聖なる武器である。
「神聖なる武器を用いる者には自制心が生まれる。そう、例えばだ
【ハイファンタジー小説】復讐の女神ネフィアル 第6作目『ため息の響く丘』 第5話
アルトゥールは、近くにあったエメラルドの石柱を、メイスで叩き折った。比較的、細めの石柱であるが、渾身の力でなくては砕けない。
その時、欲は無く、うかつさも無い。ただ集中して無心にメイスを叩きつけたのだ。濃い色の緑の宝石の柱は、砕けて欠片を辺りにばらまいた。その一つ一つが、もしも手に入れられるなら半年は遊んで暮らせるほどのひと財産だ。ここにいる者たちは、全員目もくれない。
砕けた石柱の上部
【ハイファンタジー小説】復讐の女神ネフィアル 第6作目『ため息の響く丘』 第4話
天幕の向こう側に逃げた長の様子は、アルトゥールにもグランシアにも見えはしないが、長はその時《風の魔術師》を呼んでいた。グランシアの《銀光の矢》は長の背に刺さらずに消えた。長のマントにはそれだけの力がある。
もっとみる【ハイファンタジー小説】復讐の女神ネフィアル 第6作目『ため息の響く丘』 第3話
黒葉は丘の頂上で栽培されていた。蔓(つる)草であるのに支えもなく真っ直ぐ上に伸びている。蔓(つる)にびっしりと黒い小さな葉が茂る。蔓の色は、ごく普通の草と同じように緑だ。
もっとみる【ハイファンタジー小説】復讐の女神ネフィアル 第6作目『ため息の響く丘』 第2話
「なんて美しいところなの」
グランシアは感嘆を漏(も)らした。
「そうだ、きれいな場所だな。怪しい薬のような物がここで作られているなんて信じられないくらいだね」
アルトゥールは、紫水晶の色の瞳で、辺りを悠然と見渡して続けた。
「この丘の頂上に、例の黒葉糖が作られている場所がある。情報の出所は確かだよ。ロージェのいる《裏通りの店》だ」
「それなら確かなんでしょうね」
グランシアはロ
【ハイファンタジー小説】復讐の女神ネフィアル 第6作目『ため息の響く丘』 第1話
誰にも伝わらないことがある。誰にも伝わらなければそのままにしておけ。その人は、きっと言っても分かりはしない。いや、分かりたくはないのだ。
君はこれからあらゆる人々を傷付ける。そしてあらゆる人々を慰め、癒やすだろう。その二つは同時に進行する。どちらか片方だけにすることは出来ない。それはどちらも等しく君自身の長所から、為せることを為した結果から現れる。君が誰かを傷付けないなら、君は誰をも助けない
復讐の女神ネフィアル 第5作目『愚かな商人』 第6話(最終話)
再び、ライアスからもらった護符から放たれる水流でキバリノ神官を撃つ。水流はみずみずしい青として空(くう)を流れる。
最深部に来るまでに、護符の力が再充填されていた。無制限に使えるのではないがかなり強力な護符、それも積極的な力を持つタリズマン系の物だ。
キバリノ神官が二体の魔族に《治癒》の神技を掛ける前に撃つ。先に撃つのは、魔族でなくキバリノ神官でなければならない。
キバリノ神官は自らが張
復讐の女神ネフィアル 第5作目『愚かな商人』 第5話
「出してあげてもいいわ。飛び切りよく効くのをね」
キバリノ神官は艶やかに笑う。余裕を見せようと考えてもいるのだろう、とアルトゥールは思う。
「いいや、けっこうだ。それより聞きたいことがある。答えてくれるなら、だが」
羽ばたきは聞こえなくなった。どこに消えたか、潜(ひそ)んでいるかは分からない。
この時アルトゥールは、昔に友人から言われた言葉と、自分が返した言葉を思い出していた。
──君は
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第4話
奥へと進んでいくとやがて、外で見た青銅の見事な両開きの扉と同じ物が見えた。
奥から詠唱が聞こえる。リーシアンは言った。
「ここを去る前に聞いたのと同じだな。まさかずっと続けていたのか」
アルトゥールは答えた。
「あれからまた半日も経ってはいない。それくらいやれるさ」
「お前もか?」
「もちろん。何となれば三日くらいは不眠不休で出来る」
「へえ、そりゃすげえな。で、あの女は何のために?」
「言
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第3話
キバリノ神官の怒りは予測していたので、アルトゥールの《防護》は間に合った。青い光は薄い防護膜となる。アルトゥールの前に立つリーシアンの盾になった。
《衝撃》を受けて青い光の防護膜はたわむ。リーシアンは大斧を構える。巨大な刃の戦斧。
刃を支えるのは、太い頑丈な、樅(もみ)の木の柄(つか)。北の地の樹林の木。いくつもの、呪術の印が刻み込まれていた。
再度キバリノ神官が神技を使う。また弾かれる。
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第2話
「一つだけここで約束してくれ」
北の地の戦士はアルトゥールに言う。
「何だ」
他に漏(も)らせない密約でも結んだか。ネフィアルの若き神官はそう思ったが、返ってきた答えは意外なものだった。
「俺は、ヴィルマが守っているこの店の女主人から依頼を受けている。ただヴィルマに会いに来たわけじゃない。女主人が言うにはな、この街の地下に《法の国》時代の遺跡が残っている。それを探し当てて来てくれと言われたのさ
復讐の女神ネフィアル 第5作目 『愚かな商人』 第1話
アルトゥールは、以前訪れた街に来ていた。アリストの街である。本拠地にしている街からは乗り合い馬車で七日過ぎた場所だ。
アルトゥールはここに依頼を受けて来たのだった。
街の中心を走る大通りから、一本脇にそれるとそこには小規模な商家の並びとなる。瑞々しさと落ち着きのある空気が流れる場所とアルトゥールには思えた。その瑞々しさは流れる空気の『色』であり、匂いでもある。それぞれの店に手の込んだ設(しつ