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かすみを食べて生きる94:デルマトームをとりたい

脳梗塞 発症2か月と31日目:リハビリ病院3か月目⑩

・食事:脳梗塞(ワレンベルグ症候群)の後遺症のため、嚥下ができなくなり訓練中。食事形態はミキサー食からみじん食を経て先々週、3食常食(普通食)にたどり着いた。首を左に向けると飲める。
・状態:歩けるようになってきた。終日、館内フリー歩行自立。きょろきょろすると少しめまいがする。

いろいろなことが最後だった。
最後に無茶ぶりをしたりした。
退院前日。

『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症2か月と30日目:リハビリ病院3か月目⑨
 
発症3か月と1日目:リハビリ病院3か月目⑪>


最後のリハビリ

リハビリ予定のボード、連絡板のようだった

明日朝退院なので、今日がリハビリ最終回。
今日はどのリハビリも担当の方が入っている。
毎日その日のリハビリ時間が書かれるホワイトボード。
今日は空欄にお礼のメッセージを書いた。
昨日書いた手紙もリハビリの最後に渡そう。

朝ごはん#37

お!ロールパンふたつ!

ロールパンふたつ

献立はこちら。

  • 豆腐ハンバーグ野菜あんかけ

  • ジョア

  • ロールパン

  • ジャム&マーガリン

  • オレンジとりんご

  • アイソカル100

朝はしっかり食べたいので、豆腐ハンバーグはありがたい。
豆腐寄りのハンバーグで食べやすい。
所要時間は50分。
上々の滑り出し。

自宅自主練も容赦なし:言語聴覚士下浦さん(仮)最終回

嚥下については課題を残しての退院となるので、家でも引き続き自主練を行い、一か月後嚥下外来にて、3度目の嚥下造影検査を行うことになっている。
今日は家での自主練メニューの確認。
首のストレッチから始まる①~⑥までの嚥下にまつわるトレーニングに、最後余裕があればと⑦頭部挙上訓練10秒×5セットが入っている。
すごい。最後の最後まで容赦がない(褒めてる)。

嚥下の訓練は、理学療法や作業療法と比べると、リハビリ時間内でできることのバリエーションは多くはないように感じた。
首周りの筋肉をほぐし、口、舌、のどの周りの筋トレをして、巻き笛で大きく息を吸って吐く練習といった関節訓練をして、あとは実際に水を飲みこむ直接訓練。
変化もわかりにくい中、淡々と積み上げていくタイプのリハビリ。

ともすれば単調になりがちなリハビリを、下浦さん(仮)はいつも落ち着いた物腰で、少しずつ着実に負荷を上げていってくれた。
食上げも毎回、笑顔で力強く背中を押してくれた。
食事が始まるとミキサー食から毎回の感想報告を聞いてもらった。
はじめはほんわか系だった下浦さん(仮)のイメージは、だんだん頼もしい系に変わっていった。
おかげで何とか3食常食までたどり着いた。

下浦さん(仮)、私に食べる喜びを取り戻させてくれて、ありがとうございました!

お昼ごはん#50

がっつり丼。明日朝退院なので、最後のランチ。
献立はこちら。

丼、どーんといっぱい!
  • 鶏の照り焼き丼

  • 小松菜の煮びたし

  • 清汁

  • パイナップル

鶏の照り焼き丼、鶏肉もごはんも大丈夫だけど、間に敷いてある海苔が曲者。
噛んでもねばつくし、そのまま飲んでものどに張り付く。
他の具材と一緒によく噛む。
小松菜の煮びたしはミキサー食では食べやすかった。
油揚げが入っていたのね。
油揚げも小松菜もあわせてよく噛む。
清汁の三つ葉は要注意。うっかり流し込むと葉は喉に張り付き茎はひっかかる。
所要時間は48分。
よしよし。

デルマトームをとりたい:作業療法士花井さん(仮)最終回

後遺症の一つに、右半身の温度感覚が鈍くなっているというものがある。
全くなくなっているわけでなく、わかるところとわかりにくいところがあるように感じている。
どこがわかってどこがわかりにくくなっているのか、気になっている。

そんな時に温度感覚のリハビリに関する論文で見かけたのがデルマトームだった。
デルマトームは『脊髄神経が支配している皮膚感覚の領域を模式図化したもの』とのことで、首からお尻まで、脊椎の間から多数の脊髄神経が左右対に出ていて、それらがそれぞれの箇所の皮膚感覚を支配しているらしい。
それを図にしたのがデルマトーム。
皮膚のどの部分に痛みやしびれ、麻痺があるか確認していくことで、神経のどの部分に障害が起きているかを検討するのに使うらしい。

個人的には神経のどの部分まではいいので、どの箇所がどの程度感覚が生きているかを知りたい。
温度感覚が生きている場所がわかればそこを基準に、まわりの感覚が鈍いところに教えていけると思う。
そこで、花井さん(仮)にお願いをして、簡易的にデルマトームを取ってもらった。

取ってもらったデルマトーム

温度感覚は2種類。熱いのと冷たいの。
熱いのはあたたかいおしぼり。
冷たいのは小さな保冷剤。
デルマトームで図示されたそれぞれの箇所に当てていってもらい、どの程度感じるか私の主観で0~5段階評価で伝えてそれを記録してもらった。

温かい方はお風呂で感じていた感覚と大きな差はなかった。
腕は比較的暖かさを感じていると思っていたけれど、それは腕の親指側で、小指側はほとんど感じていなかったのは意外だった。
問題は冷たい方。
温かい方はおしぼりだったので、体温との差があまりなかったけど、冷たい保冷材は体温との差が大きい。
タオルに包んでもらっていたけど、全体的に「冷たい」ということがわかりにくく、一部の部位では冷たさはわからないけどぞわぞわした不快感が強く出ることがわかった。

「冷たい」はわかりにくい。
体が冷えていることもわかりにくいのかもしれない。
いつの間にか冷えていて動けなくなることもありそう。
冷やさないようには気をつけたい。
「温かい」は冷たいほど不快感はなかったけど、手先、足先は感じる力が弱い。
脚のうしろ側は不快感もあった。
低温やけどには気をつけたい。
手足なら感覚異常のない左を基準に保冷剤で感覚を入れていくのは家でもできそう。

花井さん(仮)、リハビリ最終回にこんな面倒なお願いを聞いてくれてありがとうございました。
いいお土産になりました。

レジェンド再び:理学療法士田中さん(仮)最終回

理学療法士田中さん(仮)との最後のリハビリはいつも通り。
首周りのストレッチ、体幹と腹筋のトレーニング、自転車こぎ。

最後なので、田中さん(仮)が理学療法士を目指したきっかけを聞いた。
田中さん(仮)は高校生の頃やっていたスポーツでけがをしてしまって、お医者さんから3年生の引退試合は無理だと言われたが、そこで出会った理学療法士さんのサポートで、なんとか最後の試合に出れたとのことだった。
田中さん(仮)「医学的に難しい状態でも、その人にとって今大切なものをちゃんと尊重してくれたことに救われて、その人のような理学療法士になりたいと思ったんです」
確かに、田中さん(仮)はいつでも私の気持ちを汲んでくれた。
早い段階でウクレレを弾きに一人で中庭に行けるようにしてくれた。
屋外歩行訓練も子どもの通園を眺められるように時間を合わせてくれた。
踊りたいと言ったらつきあってくれた。
入院中の私のメンタル面を支えてくれていた。

田中さん(仮)「吉山さん(仮)がいた急性期病院で私もお世話になってその理学療法士さんに出会ったんです。今その方はそこにはいないですけどね」
ん?待って。その話どこかで似た話を聞いた。
私が発症直後にいた急性期病院でお世話になった理学療法士九里さん(仮)も、高校生の頃に野球でけがをして、その病院にいた理学療法士さんにお世話になったと話していた
九里さん(仮)と田中さん(仮)の年齢は近く見える。
もしかすると私は急性期病院にかつていたレジェンド理学療法士さんのお弟子さん2人に、リハビリを受けたのかもしれない。
技術だけでなく、その精神が脈々といい仕事に受け継がれている。
すごい仕事だなぁ。
田中さん(仮)、ありがとうございました。
いつかお会いできることがあれば、そのレジェンド理学療法士さんにもお礼を言いたい。

最後の晩餐:夕ごはん#30

夕食をここでいただくのも最後。

さわらの塩焼き、皮の色がつややか

献立はこちら。

  • さわらの塩焼き、三度豆・にんじん添え

  • 白菜の磯香和え

  • ごぼうの甘唐揚げ

  • 軟飯

さわらの塩焼き、白身魚は食べやすい。
入院中はお魚をたくさんいただけたことはうれしかった。
家だと買い物に行けていい魚に会えた時になるから、週に一回が精いっぱい。
ごぼうの甘唐揚げ
食物繊維が取れるからか、ここではよく食べた。
嚥下障害があるとちょっと難敵。
よくよく噛んで食べる
家だと土を洗ってささがきしてあく抜きしてからの調理。
ごぼう、次食べるのはいつになるかな。
所要時間は55分。
記録を見ると、昨日も「ごぼう、がんばった」と書いてある。
今日もごぼう、がんばった。

最後の夜

私も今や病室で最古参。
今日昼間、隣のベッドに新しい人が入ってきた。
その方がテレビをイヤホンなしで見ていて、消灯後も消す様子がない。
病室のメンバーは私の入院中も何度か入れ替わり、いろいろあったけど、入院最終日にして、これまで同室の方に恵まれ続けていたことに気づいた。
楠本さん(仮)の寝歌が懐かしい。


ーー振り返って

リハビリ病院でのリハビリを支えてくれた、3人の担当の方とのお別れでした。
さみしい。明日からお三方に会えないなんて、どうやって生きていけばいいんだろうなどと思っていました。
この時はまだ、明日の昼過ぎには嵐の中に戻っていることは想像できていませんでした。

デルマトームって必殺技とか、特殊能力の名前みたいだなと思ってました。
とってもらうと、思いがけない部位の温度感覚が弱くなっていたりして興味深かったです。
もっと早く取ってもらえばよかったなと思いました。

入院中、病室のメンバーは入れ替わり、環境も変わっていきました。
最後の最後に、これまで比較的穏やかな環境にいたことがわかりました。
おかげで心置きなく明日退院できそうです。


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