見出し画像

私と『たけくらべ』:心の奥底を覗き込む

樋口一葉の『たけくらべ』は、美登利と信如がそれぞれの人生を歩む中で、成長や別れ、そして人生の選択が持つ意味を鮮やかに描き出した作品だ。

この物語は、遊郭という閉ざされた世界を舞台に、人々の感情や葛藤、子どもから大人へと成長する過程で経験する複雑な感情を描写している。登場人物たちの背景や性格は細やかに描かれ、その結果、彼らが直面する現実や葛藤が生き生きと伝わってくる。

私が『たけくらべ』と初めて出会ったのは中学生の頃だった。
しかし、当時は、物語の難解さばかりが印象に残り、物語に深く共感することはでき亡かった。

その後、大学で古典文学を専攻し、国語科教員の資格取得を目指す中で、改めてこの作品に触れる機会を得た。特に「変体かな」を学ぶ過程で、平仮名と漢字が織り成す独特のリズムや表現に魅了され、再び『たけくらべ』を手に取ると、登場人物たちの心の機微が胸に深く響いてきた。

高校2年生の頃、私はインターネットを通じて知り合った「バーチャルの友達」との交流を経験した。その後、現実での出会いや関係の進展を通じて、自分の内面と向き合う機会が増えた。大学時代には、精神的な困難を抱えながらも、卒業論文の執筆やボランティア活動に取り組み、自分自身を支えるために必死だった。これらの経験は、『たけくらべ』における美登利や信如の成長や葛藤に、自らを重ねるきっかけとなった。

美登利は遊郭という厳しい環境にいながらも、子どもから大人へと成長する過程で周囲との関係や自分の立場に悩む。

成人式を迎えた自分自身を振り返ると、彼女が髪を結い、他者の視線にさらされる場面が特に心に残る。

そこには、自分自身を見つめ直し、社会の中での役割を模索する姿があった。

同様に私も、成人式を通じて「女性」であることを意識させられ、社会的な期待や自分自身との向き合い方について考えさせられた。

その後、バーチャルの友達との現実での出会いをきっかけに、私の人生は大きく、変わった。

彼との交流は恋愛関係へと進んだが、価値観の違いや人生の選択における葛藤を経て、最終的には別れを選んだ。この別れは『たけくらべ』における美登利と信如の別れと重なる部分がある。

信如が寺に旅立つ場面で、美登利が彼を追いかける姿には、かつての私自身が重なる。

別れを経験しながらも、未来へ進むしかない状況に、私も彼女たちも立たされていた。

その後、私は図書館司書の資格を取得し、さまざまな人との出会いを通じて新しい人生を歩み始めた。

恋愛や人間関係の中で多くの傷を負いながらも、最終的に現在の夫と出会い、結婚に至った。

現在も夫と共に「価値観のすり合わせ」を続けながら、「一緒に生きるためのたけくらべ」を繰り返している。

『たけくらべ』は、成長過程で避けられない別れや、社会の影響力の大きさを深く考えさせてくれる作品だ。

特に、別れが単なる終わりではなく、新たな人生の始まりとなる通過点であることを教えてくれる。この物語を読むたびに、過去の選択や経験が、現在の自分を形作る重要な要素であることを再認識する。

いいなと思ったら応援しよう!