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石村比抄子さん五行歌集『白つめ草』(市井社)

 こんにちは。南野薔子です。
 今日は石村比抄子さんの五行歌集『白つめ草』(市井社)についてです。入手したのは出版されてまもない頃で、それから感想を書こう書こうと思いつつ、今日になってしまいました。この本にある歌に描かれている、あるいはその背景にある石村さんの数々の経験について、理解できるとは軽々に云えず、どういうふうに感想を書いたらいいのかな、と思ったからというのもあります。

 姉のたましいは
 空に
 とけている
 私が泣くと
 雨をふらせる

 精神崩壊
 飛び散った
 記憶の瓦礫のなかで
 わたしは佇んでいる
 真っ直ぐ佇んでいる

 もっと直接的に経験を歌った歌もあるのですがここではこの二首にとどめておきます。
 ただ、壮絶な経験をしつつも、石村さんの心は、細やかに、深く、まわりのものごとを見つめてきたのだなとしみじみ感じます。それには、この歌集に描かれているご両親との関係、愛する伴侶の方との関係が支えになったことも大きいのかと思います。

 母の日に
 スニーカーをあげた
 父の日は
 銘酒を贈ったのに
 なぜかひがむ父

 あなたと生きて
 互いを癒し
 互いを豊かにします
 これは
 わたしの愛の誓いです

 自分を、世界を、しみじみと見つめる目が生み出した歌に惹かれます。

 人々の心に映る
 私は
 それと同じ数だけ
 面をもつ
 多面体

 深く深く
 心底を
 旅するような
 思いが
 私を象ってゆく

 かがんでみても
 まだ
 きみの目線に
 とどかない
 白つめ草よ

 歌集タイトルのもとにもなった歌は、表紙の白つめ草のうつくしい絵ともみごとに響き合っています。

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 今回読み返して、あらためてはっとしたのは、次の歌でした。

 病んだ記憶に
 赤線をひいて
 さみどりでえがきなおす
 さぁここから
 私の第二章がはじまる

 三行目の「さみどりでえがきなおす」に特に惹かれます。さみどりという色「えがきなおす」のひらがな、どちらも清新で丁寧な気持ちのあらわれだと感じます。過去の事実は変えられなくても、自分がその後どう生きてゆくかによって、その解釈は変えられる、といったようなことが世の中でも時に云われますが、この歌もそういうことを述べているのだと思います。過去をいたずらに抑え込むのではなく、あらためて大切に捉え直そうというやわらかな決意みたいなものを感じます。

 この身体ごと    (身体=からだ)
 うたおう
 あなたの空に
 ひびかせる
 うたを

 多くの人の空に、この歌集の歌がひびきますように。

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