雅流慕さん五行歌集『心』(市井社)感想
こんにちは。南野薔子です。
以前(2020年1月13日)栢瑚のアメブロに上げた記事ですが、体裁等変えて、こちらにも再掲しておきたいと思います。
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こんにちは。南野薔子です。
しばらく前になりますが、五行歌の会の同人の雅流慕(がるぼ)さんが、
五行歌集『心』を市井社より上梓されました。ざっくりとですが感想を書かせていただきます。
なんというか、私にとって全体のイメージは、降り積もる雪と、その下にある、熱を帯びた大地、です。
雅流慕さんは秋田の方。雪国ならではの歌が多いです。冬、雪、の凄味と、それを受けとめる地熱にも似た心の熱さを感じさせる歌があります。
また、装丁も、カバーの模様が薄青~薄紫系の、雪の結晶を思わせるような、けれど羽毛のようなやわらかさも感じさせるような美しいもので、冬の厳しさとそれと共にある「心」に呼応していると感じます。
冬の凄味を感じさせる歌があることで、他の季節を歌った歌や、人々の営みを歌った歌がまたひときわみずみずしく感じられ、この歌集がみごとに構成されていることも感じられます。本当に挙げたい歌はきりなくあるのですが、たとえばこんな歌の視点に惹かれました。
色に対する繊細な感覚、そのときの空気の温度まで伝わってくる感じ。このこまやかさも、地熱のような心が器となって支えているのでしょう。
タイトルの「心」のもとになった歌は、先日の五行歌巡回展にも出品され
多くの方が触れておられると思うのでここではとりあげません。「心」「私」といったテーマで、他にもこんな歌に私はとても共感しました。
私も「私」のことが永遠のテーマですが「そうそう、こういうことを書いてみたかった!」と唸らせられた歌です。
そしてある意味対照的とも云えるこの歌。
とても好きです。
「思わないか」と呼びかけられて「はい」と思わずうなずいてしまう。
そして第五回恋の五行歌で秀作に選ばれて『恋の五行歌 300のトクントクン』(市井社)にも収録されているこの歌。
なんて簡潔に、深いことをあらわしているのだろう、とため息をつきました。
この歌そのものが清しく、美しい。
そして、ずっと前から好きだったこの歌が歌集の最初にあることがとても嬉しかったのです。
私はあまり俳句には詳しくないのですが、あるとき教科書に載っていた西東三鬼の次の句は好きで、知らずに憶えてしまっていました。
垂れ髪に雪をちりばめ卒業す
雅流慕さんの歌に対して、この「卒業」した人の後日譚のようなイメージを勝手に抱いていたりします。
どんな物語を抱いているのだろう。
そこに空想をふくらませるふくらみがあるところがとても素敵だと思います。
もっともっと紹介したい歌はたくさんありますが、本当にきりなくなってしまうので。
冬の厳しさに生き、それに負けない、というより、それを受け容れどっしりと熱を保ち、なおかつ繊細でもあるこの歌集の「心」に多くの方が触れることを祈って、拙い感想の結びとしたいと思います。