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『トリック』シリーズを再インストール。

今年最も話題となった日本のドラマと言えば『VIVANT』で間違いないと思いますが、なんかあのドラマを見ていたらふつふつと『トリック』をまた見たくなってきてしまい、最近ちょっとずつ再鑑賞してました。私の中の阿部寛のイメージって「上田次郎」がもっとも強く、生徒たちを東大に入れるため奮闘する教師役を見ていても、不器用でなかなか結婚出来ない男を見ていても、バルカ共和国に在中する警視課長を見ていても、「上田がんばってんな~」という気持ちがどこかにあります。それくらい自分の中で『トリック』というドラマの印象は強いのだ。んで、この度映画も含めてシリーズ全部見終わったので全体の感想を書き残しておこうかなと。

まず、基本的に本シリーズはコメディドラマなので肩の力を抜いて気楽に見てられますし、だいたいひとつの話を2話くらいかけて小分けにしながらやるので、さほど集中力も要りません。それはシリーズ第一作の『TRICK』(2000年製作)からずっと変わらないことで、どんなにシリアスな場面でもギャグや小ネタを差し込んでくるのでひたすらゆる〜い雰囲気が漂っており、純粋に楽しい気分で見ていられます。ていうか仲間由紀恵がかわいいです。あのとぼけたところとか、生意気なところとか、おっとりしてるところとか全部いい。自称「天才美人マジシャン」はぜんぜん誇大広告じゃありません。そして阿部寛もかわいい。臆病ですぐ気絶しちゃうし、見栄っ張りでポンコツですがむしろそこが良く、博識なのは間違いないのでいざというとき頼りになります(ならないことも多いけど)。基本的にはこの凸凹コンビが超常現象、霊能力、読唇術など、あらゆる「不思議」に立ち向かい、そこに隠されている「トリック」を解き明かすという流れになります。このコンビの掛け合いや、登場人物の奇天烈さがまあ楽しく、『トリック』シリーズの基本的な面白さはこの第1シリーズに全て詰め込まれていると言っても過言ではないでしょう。「笑い」がベースにあるのも素敵だし、二人の関係性を下手に恋愛へと持って行かなかったのも英断。その上で超常現象を完全に否定することもせず、ほろ苦い終わり方をする話も用意しているという、要は自由で、おおらかなドラマなんです。鬼束ちひろのエンディングや卵オープニングのセンス、そしてやっぱりバカっぽい雰囲気が心を和ませてくれる、私が大好きな日本のドラマ。何度見ても良いもんはいいなあ。

続編の『TRICK2』『TRICK3』においても同様の路線は貫かれていて、インチキ商法やエセ科学に挑むため、山田と上田の凸凹コンビが辺境の地へ赴くという流れは一緒。基本ずーっとふざけてるし、たぶんノリが合う人なら仲間由紀恵と阿部寛がわちゃわちゃしてるのを見てるだけで幸せな気分になるんじゃないかな。それくらい二人のバランスが良いし、そのほかの脇を固める登場人物もいちいちクセが強くて面白い。まあトリックの種明かしをされると「それはちょっと無理あるよな〜」と思うものも中にはありますが、これコメディなので、会話とか小ネタの方を製作者的には気合い入れて作ってそうな気がします。良い意味で「適当」な雰囲気があり、この時代ならではの空気感を感じられるのも素敵。

「劇場版」は全部で4作、「新作スペシャル」というドラマスペシャルは全部で3作作られており、いずれもテレビシリーズのいいとこ取りをして、2時間くらいの話にまとめられています。お決まりの台詞をここぞというタイミングで言ってくれるし、限界集落での神様対決や、『犬神家の一族』的な状況設定などお馴染みの光景で安心感がある場合が多いです。その分新規性には欠けますが、まあギャグの基本は「繰り返し」なので私的にはこれで良し。『トリック』はそんな”マンネリ”を楽しむ作品だとも思うので、「またやってら~」「よっ待ってました」くらいのテンションで見た方がハッピーになれます。よくがあるのはよくありません。ただ、単体で「劇場版」や「新作スペシャル」を観ても、おそらく身内ネタで盛り上がってるだけの作品に映るでしょうから、先ずはテレビシリーズを見ておくことをお薦めします。言葉遊びが多い作品なので、会話のやり取りや、看板や書道教室などあちこちに書かれている「文字」を意識しながら観ると楽しさが広がるかも。

また、2010年と2013年には『トリック』シリーズの名脇役、矢部謙三を主役としたドラマ『警部補 矢部謙三』も製作されており、こちらもしょうもない馬鹿馬鹿しさに溢れたドラマで面白いです。結構規模の大きい事件が起こるところは本編と異なる点で、最終的に「運良く」解決するあたりが良くも悪くも特徴となっています。シーズン1が「矢部を中心としたチームもの」だったのに対して、シーズン2はもっとコンパクトな事件をひとつひとつ追う(というよりも巻き込まれる)作りになっており、個人的には『シーズン2』の方が矢部のずるさとかバカさとか愛嬌が出ていて好き。いま見ると秋葉くんとかを殴ったりするシーンや、暴言を吐いてるシーンは(例えそれがギャグだとしても)あまり良い気分はしないのだけど、これはそういう小っちゃい男が上手いこと捜査をしていくコメディなのでそれを踏まえて見るのが吉です。

2013年には『トリック劇場版 ラストステージ』というシリーズ最終作が映画として公開。作品的には、これまでのシリーズ全ての集大成であり、まんべんなくお約束の要素を取り入れております。そのため、やっぱりトリックそのものや、ストーリー、犯人の動機などに新規性はありません。でもそれでいいんです。それがいいんです。この『ラストステージ』ではシリーズを追いかけてきた人にとってご褒美のような展開、要素がそこら中に配置されていて、「これが最後」なのだと観ている人も、作っている人もわかっているから、そのお約束が愛おしく感じてしまう。それは13年にわたる長い時間で積み上げてきた”信頼”みたいなもので、観ていてほっこりすると同時にさみしさも感じてしまうでしょう。物語は『シーズン1』冒頭の場面をリフレインし、鬼塚ちひろの「月光」が流れる。二人の出会いによって始まり、紡がれてきた物語はここにおいて終わりを迎えます。

以上、『トリック』シリーズの感想でした。地に足が付いてるようでいて不思議なこともまれに起こる絶妙なバランス感、山田と上田の掛け合い、”トリック”という題材、土台にある”笑い”という要素、ありそうでない、このドラマだけの魅力がつまったシリーズです。たぶんドラマシリーズにおける「ついつい見ちゃう」とか「終わってほしくないなあ」という感覚は一番といっても良いくらい高評価の言葉で、私にとってはまさにそんな作品でした。にしても『トリック劇場版 ラストステージ』ではダチョウ倶楽部のネタがあちこちに配置されていて、いま見るとちょっと悲しい気持ちになっちゃうなあ。そういう時事ネタとか時代性をふんだんに取り入れてるのも本ミステリーコメディの特徴ですかね。

あと探していたミヒャエル・ハネケ製作の『カフカの「城」』ですが、相互さんからのアドバイスで図書館を検索してみたら普通に置いてました。あざます~。
感情を抑えた演技、唐突な暗転と場面転換、城にたどり着けない測量士Kを中心とした村での状況設定、いずれも原作のつかみどころのない雰囲気を上手く再現していましたが、反面娯楽性は薄く、原作に興味がない人は眠たくなる可能性が高いと思います。もどかしさを覚えるほど話は一向に前に進まず、何かの教訓を見いだそうとしても、ふわりふわりと靄のように雲散霧消してしまう。語り尽くせない「社会」や「生活」や「思考」を文字として書いた原作を、さらに映像に置き換え、語り尽くせないことを「良し」とした作品。ハネケはきっとそういった「もどかしいこと」に『城』の文学性を見いだしたのでしょう。その思惑通り、映画は全てを語ることはなく、どこか現実感の乏しい風景が現出しています。まるで人生の終わりに見る走馬灯のようにつなぎ目なく断片的に物語は語られ、プツッと暗転、幕を閉じる。それは夢からの目覚めか、死の仮想か。この気だるく微睡むような感覚を幸せに感じるかどうかで評価は大きく分かれることでしょう。私? 私がこの映画を観てどう思ったか、言葉は(暗転)

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