【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第6話/全12話)
次に会えたのは、夏休みに入って2日目の午前中だった。
けん玉はまだ練習が必要だったので、今回は読書感想文用の本を読むだけだった。たったそれだけなのに、やっぱり楽しかった。
午後からシオンは部活があったため、それぞれ持ってきた昼ご飯を食べて解散となった。
シオンは天文部に所属している。
もともと、高校では運動部に入るつもりはなく、かといって帰宅部も味気ない。それだけの理由で入部したが、星について知れば知るほど面白い。それに大好きな歴史と天文の歴史がつながってくると、なお楽しい。そういうわけで、意外と熱心な部員である。
七月の後半は長野合宿があった。国立天文台野辺山の見学といったマジメな活動もしつつ、花火やBBQのようなお楽しみ行事も盛りだくさんの内容だった。
シオンとは中学からの付き合いである乾も、天文部だった。合宿でのシオンの様子に、何か変化を感じていた。
「なべしお、最近良いことでもあった?」
「なんだよいきなり。別にないけど」
「そんなに笑うやつだったか?」
すると後ろから部長が割って入ってきた。
「渡辺はいつもニコニコしてるだろう」
「違うんすよ。いつも笑ってないのが、コイツなんすよ」
「笑ってるのに笑ってない?意味わからんな乾。無駄話してないで天体観測の準備しろよ」
話はそこで終わった。乾は普段、適当そうに見える生徒だが、人の中身をよく見ている。シオンのこともよく分かっている。そのことをシオンは知っているからこそ、自分は今、本当に笑っているんだと気づいた。
メインイベントの夜の天体観測。関東の街中に住む部員たちは、自分たちの周りでは見られない満点の夜空と、次々やってくる流星群に感動していた。
シオンは次にキコと会う日のことを考えながら、望遠鏡を覗き込んだ。
最高の夏休みになりますように。
最高の夏休みが始まった。
キコはそんな気分で、シオンとの次に会う日までをウキウキしながら過ごしていた。
その間に、地元の友達、亜由美と夏祭りに行った。地元の商店街主催の夏まつりだ。午前中に郊外の大型ショッピングセンターで浴衣を買い、午後、キコの家でそれに着替える。キコが茶道部で覚えた浴衣の着付けを、亜由美に教えながら着てみようという計画だ。
開店にあわせショッピングセンターにやってきた二人は、まっすぐ浴衣売り場へ向かう。売り場には子供向けのワンピースのような浴衣から、現代的なポップ柄、大人向けの古典柄など、幅広いな年代向けにさまざまな商品が並んでいた。
その中から、亜由美はさわやかな水色の生地に鮮やかな金魚たちが泳ぐ浴衣を、キコは白地に元気よくひまわりが咲き誇る浴衣を選んだ。
「キコちゃんにしては、珍しいものを選びますね」
「そうかな?」
「普段はモノトーンが多いです。無地です」
「浴衣なんだから、目立つ色と柄しかないでしょ」
そうかもしれないが、以前のキコなら、もっとシンプルで渋い、例えば細いストライプのみとか、いっそ柄なしとか、そんな浴衣を選んでいただろうな、と亜由美はメガネの位置を直しながら観察する。
高校で何かあったのだろう。キコは自分のことを話さないので、たまに、亜由美がつっこんで吐き出させる(絶妙に全部は吐かないのだが)。というのが昔からの定番である。
「彼氏さんでもできましたか?それなら会わせてくださいよ」
その質問にドキッとしたが、シオンとはまったくそんな関係ではない。そんな雰囲気もない。
「できてないできてない!できてないけど…男の子も女の子も、良い友達がたくさんできたよ」
嘘ではなさそうだ。いい友達ができたんだ、よかった。亜由美は心からそう思った。
「あゆこそ、彼」
「恐竜に忙しいので」