雪と思いやり
今日の東京は快晴です。私は黒のダウンコートを羽織っていましたが、暑さでとうとう脱ぎ、片手に抱えるほどです。
先日の雪が嘘のように思えます。丁度4日前までは、東京のどの街でも真っ白な雪がそこかしこに敷き積もっていました。
その時私は丁度仕事を終えて、西通りを通って自宅に向かっていたところでした。仕事場から見えるいつもと違う風景は私を子供のような気分にさせました。
見上げるとひたすらに空から白く柔らかい雪が落ちてきていますから、どの雪に焦点を当てていいのかと、少しくらくらしたものです。
さくさくと新鮮な茄子を踏んでいるような感覚を足裏に感じながら、心地よい雪の香りを楽しみました。
東京に雪が降るなんてとても珍しいことですので、てんやわんやのおおさわぎです。私のように上を見上げながら歩く人、肩を縮こませて早歩きをする人、もうすでに再凍結して土と埃だらけの雪を触る託児所帰りの子ども、それを見て悲鳴を上げる母親、店の前で雪かきを見よう見まねで行う外国人…。雪が降ったというだけで、ここまで人々がいつもの日常とは違った表情を見せるのは非常に興味深く思います。
そんな非日常を見せてくれた天気も、次の日になればまたいつものどんよりとした灰色の天気…とはいかず、恐ろしいほどの快晴に恵まれ、この陽気は成人の日を迎えた今日まで続く勢いです。葉の上に器用に載っていた雪は解け、道路は段々と薄氷が張り始めていました。昨日踏みつぶした雪が私たちの行く手を阻みました。
その牙も午前の内で、午後にはもう、地元や会社の懸命な作業により、ほとんど跡形もなく取り除かれました。恐る恐る歩いていた道が、夜にはスキップしても大丈夫なまでに回復しました。
一つの区間を除いて。その場所は、コンビニエンスストアのある区間と一致していました。お見事なまでに、その部分だけ、雪はそのままになっていました。右隣の花屋も、左の定食屋も、そしてそのコンビニも、何食わぬ顔で営業をしています。東京には東北以北のような道路の凍結を防ぐパイプはありません。住人や所有者が、地道に取り除くしかありません。
思いやりとは、サービスとはなんでしょうか。
もちろん、私にそれをとがめる権利はありません。実際私はその光景をみて除雪作業を始めたわけではないですし、その区間を通って滑って転んだわけでもないです。
ただ私が思ったのは、きっとこの場所は、明日になっても氷は無くならないだろう、という単純な予想のみです。
シンクに山盛りになった同居人が汚し散らかした食器を眺めながら、ふとそのことを思い出しました。
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