#99 先生、なぜ庭はyardとgardenがあるのですか?問題(その2)
前回までのあらすじ
yardとgardenは二重語との示唆を得る筆者。しかし、yとgと文字が全然違うのに、yardとgardenがもとは同じ語ってホントですか問題が新たに発生。その問いに立ち向かう。
yardとgardenはどう違うのか
前回では、もともとは同じ語だったが、yardは古英語から使われていて、gardenはフランス語から別の形で入ってきたことを示した。
まずは、yardとgardenの使い分けを簡単に見てみたい。gardenは13世紀後半ぐらい使われ出した。秘密の花園が有名だが、The Secret Gardenとgardenを使う。花や植物が育てられているイメージだ。
一方のyardは、例えば、校庭などで使われる。校庭、いわゆるグラウンドは英語でschool yardだ。花などはメインではなくなる。このschool gatdenとschool yardをGoogleのイメージ検索で比較すると違いがよくわかり、興味深い。
まとめると、school yardだといわゆるplaygroundの意味となり、校庭を指す。school gardenというと、校庭ではなく、学校の花園や菜園などを指し、子供たちが花とか植物を育てているイメージだ。Genius6の類語比較を引用する。
使用率についてはgardenの方が多い。ngramとnetspeakでは以下のように示されている。
yとgの関連に迫る
以上、yardとgardenの使い分けについて触れたが、次に今回のポイントの yとgの関連について書く。まず、図書館で中島文雄(2003)の「英語発達史 改訂版」を借りてきた。第3章が「発音の変化」についてだったので、「g」の読み方について確認した。
ゲルマン祖語から古英語への変化
読み解くと、まず印欧祖語IE /ɡʰ/が、ゲルマン祖語 Gmc /ɡ/に変化したとされている。ではその後、古英語では? Wikipediaの古英語のgの項目を引用してみる。
上記からわかるように、gの発音は古英語では複数あった。例えば、goldは[g]だが、giveのgは[ j ]だった。語頭にあって前母音(iやe)に伴われるとき、また語中語尾で、æ, e, iの後に来る時は、ġで、[ j ]となった。例えば、ġiefan "to give"、dæġ "day"、ġeong "young"などが挙がる。また後母音の後にgが来る時には、[ɣ]となった。(fugol "fowl")。
音の変化と綴り
歴史的に紐解いてみると、文字のgとyが示す音が変化していることがわかる。そもそも古英語には、音韻体系を完全に表す文字がなかったため、[ j ]や[dʒ]を表す文字がなく、gが使われていた。そこに文字yが現れる。
この文字yについては、ここで書くより堀田先生の記事を読んだ方が早い。簡単に言うと、いろいろあって、ユプシロンの流れを汲む文字yは、古英語の前舌の円唇母音[y]や[ʏ]を担っていた。しかし、この母音は英語の歴史上、やがて消滅する。それ故に、文字yは母音については、次第と[i(ː)]の音を担うようになる。堀田先生の下の記事「第9回 なぜ try が tried となり,die が dying となるのか?」は、文字yが担う母音について書いてある。ぜひ一読されたい。
yの表す子音
一方、今回の焦点となるのは、yが表す子音[ j ]である。これについては、ノルマン征服が絡む。フランス語では子音[ j ]を表すために文字として i や y が使われており、その影響が英語に及ぶ。そのため、例えばyearの古英語ġēarまたはġērは、中英語ではyeer, here, yere, ȝereなどと綴られるようになる(中英語のころはインターネットや辞書がなく、標準的な綴りが定まりにくい)。
このように様々な要因が絡み合い、現在では、軟口蓋化したgの音をyで表すようになった。この後も、硬音とか軟口蓋という言葉を使うが、口の上の方(口蓋)を舌で触ると前の方は硬く、後ろは柔らかい。この前の方で音が出ている場合は硬音と書く。例えば現在のgiveのgの音は硬音である(前で音を出している)。このgの音を後ろで出す場合は、「軟口蓋化したgの音」と表現できる。
giveやgetは軟口蓋化したはずじゃ?
しかしながら、この軟口蓋化するgの変化には例外もある。語頭にあって前母音(iやe)に伴われるときはgは軟口蓋化という規則があるため、「give」に相当する古英語の動詞 giefan / gifan は「イェヴァン」のように発音されたはずである。
実際に、giveではなく、giftの例だが、軟口蓋化の影響を受けて、チョーサーのカンタベリ物語におけるバースの女房の一説にはgiftの綴りはyifteとなっている箇所がある。しかし、現在はgiftと綴り、硬音のgを用いている。giveも最初は硬音のgの音だ。これはなぜだろうか。
これについては、古ノルド語および印刷技術と関連があるとされている。ヴァイキングの侵入により、古英語は古ノルド語と混ざり合った。古ノルド語では「g」は常に硬音の[g]で発音されていた。その影響で英語でも硬音化が起こったとされる。また、印刷技術の発達と教育の普及により、綴りと発音の統一が進み、硬音の[g]が一般的になったという側面もある。
このことは、同じようにgetやguardなどにも当てはまる。様々な要因が絡み合って、gが綴りとしてgのままで残るか、yなどに変化するかが分かれたと思われる。
さてさて、yardとgardenをどう説明するか
yardとgardenがもとは同じ語ってホントですか問題については、説明のために、yardとgarden以外の対応関係を、他の語やイギリスの地名などを探して求めたが、明確な例は見つからなかった。
やっと見つけたのは、例えば、ギリシャのGyrosというサンドイッチ(日本語ではギロピタと表記される)だ。日本語のWikipediaの項目でも、Gyのところをギ、ヒ、イ、ジェと発音することが示されていた。説明の際の良い例になるかもしれない。
他の例としては、上に挙げたドイツ語tagと英語dayの組み合わせなどがある。また古英語の、ġēar "year"、ġēse "yes"などを示すことで、通時的あるいは共時的なgとyの関連を高校生にもわかってもらえるかもしれない。
まとめ
今回、この「yardとgardenは二重語なのに、yとgと綴りが異なる問題」について扱った。この問題を解くためには、古英語のgが担っていた音とyの歴史、そして古ノルド語やフランス語、そして活版印刷の影響など様々な英語史関連のことが関係することがわかった。
この問題を、生徒に英語史に関心を持ってもらうための1つの謎として示すのもいいかもしれない。しかし、現在に残る例が少なすぎる面もあり、なかなかに難しい。ちょうどいい塩梅の謎をまた探し求めていきたいと思った。
今日はこんなところです。
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