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#81 emptyの向こうに見えるもの(語源の旅)。
昨日はvacation/vacanceから、その印欧祖語の*eue-に触れた。で、このvacant系を扱うと、ほぼ同じ意味を持つemptyも気になるところ。emptyも同じく「空の」という意味を持つが、残念ながら(!?)「休み」とは関連づけられなかったようである。
emptyの語源を探る。
さて、vacantと同じくemptyの語源を探ってみる。まずは近いところから、中英語まで遡ると emty, amtyとされている。あれ、"p"はどうした?と当然思うが、そういう疑問が浮かぶときこそ、KDEEこと「英語語源辞典」の出番である。
ME では e- (Kentish, West-Midland 方言)とa-との両形が発達するが、amtiは15世紀までに廃用となり、mと歯音との間に音便 p (cf. Hampton < OE hamtūn) の生じた語中音添加による後者の形が ModE で一般化した.
つまり、ずっとemtyと言っていると自然と発音上、pが入る感がするということかと思われる。実際、発音してみると、pがもともと入っているような不思議な感じになる。
古英語からゲルマン祖語、そして印欧祖語へ
中英語のemty (amty)は、まず古英語のǣmettiġに遡り、さらには、ゲルマン祖語の*uz- (“out”) + *mōtô (“must, obligation, need”)へと辿る(この*mōtôはmustの原形となる古英語mōtanへとつながる語だ)。また、さらにその印欧祖語は *med- "take appropriate measures. 適切な措置を取る"とされている。
印欧祖語 *med- "take appropriate measures"
印欧祖語 *med-は、accommodate, medical, meditate, modern, modify, must, remedyなどをdescendantsに取る言葉だ。accommodateは「適切な措置を取る」→適切に合わせた→人に必要なものを供給する→家具等を備え付けた部屋を用意すると変化していき、最終的に「宿泊させる」などの意味が18世紀にかけて生じたらしい。modernは「適切な措置を取る」→作法を合わせる→時代にあった→現在の、と変化してきた感がある。さらに、medicalやremedyなどは、「適切な措置を取る」→癒す(to heal)などと変化してきたことが推測される。で、最後にmustは「適切な措置を取る」→「義務付けられた」「する能力がある」→「しなくてはならない」と変化している。
emptyに再び思いを馳せる。
emptyについて、最後のmustの意味変化を考慮に入れると、*uz- (“out”) + *mōtô (“must, obligation, need”)なので、「義務などから外れて」ぐらいの意味となる。なので、「何もない」→「空の」と意味ができたのだろう。
通常 empty をみると、"an empty glass"などを思い浮かべるに過ぎないことも多いが、実際にこの語源を探っていくと、eはex-を彷彿とさせ、さらにmtにmustが隠れているのが垣間見えるようになる。そして、"p"。"p"までが愛おしい。語源を学ぶと、suchやladyを見て、様々なことに思いを馳せ、豊かな時間を過ごすことができるが、このemptyもまた、そのような語の仲間だと感じる。
今日はこんなところです。