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「特別展 須田悦弘」(渋谷区立松濤美術館)

 本物さながらの木彫の技術もさることながら、インスタレーションとの組み合わせが素晴らしかったです。

 通常のガラスケースに収められた作品ばかりではなく、部屋の隅やガラスケースの下など、ある意味雑草らしくちょこんと作品が生えていて、そのたびに驚かされました。作品リストを持ってなかった自分は疑心暗鬼状態で作品を探すこととなったんですが(最終的に、庭に"雑草"として紛れていた一つを見落としてたみたいです…)、それが結局、白井晟一設計のこの建物をつぶさに一望する形となったのかなと。ある種の視線誘導としても機能していたんだと思います。

 それと同時に、このインスタレーションについても個人的に思うところがありました。須田に補作を依頼した杉本博司が「滅びの美学(ruin aesthetics)」について言及していたことがありましが、「室内に雑草が生えている」という状況は、さながら打ち捨てられた廃墟の姿をも連想させます。もちろんこの建物が長く残ってくれればいい良いとは思うのですが、いつか迎えるかもしれない美術館の、"アフターライフ"をほんの少しだけ垣間見たようにも思いました。
 現在と未来、二つの時間が交錯した展示室。現在という時間は過去を踏まえた存在でもあります。それを感じたとき、妙な高揚感がありました。「残ってくれればいい」と思っているからこそ、滅多に見ることのできない建物の姿です。

 芸術家として面白い方だなと思います。
 木彫はこんなにも日本伝統的・本格的な色彩が強いのに、その技術はまるっきりの独学。多摩美術大学グラフィックデザイン科のご出身で、現在も十六茶のパッケージイラストなんかを手掛けていたりもします。
 題材も宗教的題材や人物像といった、その道の先輩格が喜びそうな「いかにも」な作品ではなく、最初の展覧会では銀座のコインパーキングに移動式ギャラリーを設営するなど、従来の権威・枠組みに囚われない自由さを感じます。
日本でも生人形に代表される写実彫刻の潮流はあって、須田の作品もその中に置くこともできるかとは思います。しかし、インスタレーション面においての発想こそが彼の作品の「コア」であり、彼の存在を特異たらしめているように感じました。

 伝統的な芸術の美しさのみならず、現代芸術的なコンセプチュアルなエッセンスも組み合わさった、非常に満足感の高い展覧会です。


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