未来を預けた椅子【アーロンチェア】
我が家には3つの家宝がある。
ひとつはギター、もうひとつはマットレス、そして、椅子だ。
家宝たる理由は、値段が高い順な事もあるが、人生を変えてくれたものベスト3でもある。
ギターは嗜好品、残り2つは健康への投資となる。今回は椅子について書き残したい。
ある日、私はオフィスで鈍い悲鳴をあげ、その場にへたり込んだ。
腰が終わった。
腰痛持ちではあるが、いつものそれではない。直感的に、これは選手生命に関わるものだと悟った。
這いずる様に病院へ行き、レントゲンを受けた結果、医者から告げられたのは。
「腰椎分離症」
ギックリ腰やヘルニアでもなく、聞いたことのない名である。
要は、腰骨を繋いでいる支えのようなものが、疲労骨折しているという。
「幼少期に、激しいスポーツをされていましたか?」と尋ねられる。
おいおい、私の見た目や雰囲気の、どこにスポーツマンシップがあると思ったのだろうか。それよりも、これは治療可能なものかと問う。
「いいえ、うまく付き合って生きていってください」
少し目の前が暗くなったのを覚えている。私は今まで、その後の一生に関わるような、不可逆の身体的な問題に直面したことはなかったからだ。
コルセットを巻き、家に帰る。冷静になろう。歩けなくなったわけではない。原因と対策だ。
まず、今までの生活から腰への負担として思い当たるものを調べた。
当時5.8畳の部屋、ソファも椅子も置くと外観が窮屈そうだからと、私は長年胡坐で過ごしていた。すぐに見つかった。これか。
腰の問題はボディブローのように蓄積されていき、いつかダムのように決壊すると様々な記事から学んだ。私の決断は早かった。
この先の人生、椅子の上で生きよう。
思い立ったら椅子選びである。思いつきではない、一生付き合っていく、替えのきかないこの身体を守るための椅子だ。
しかし、椅子なんて値段もピンキリ、座ってみないとわからない。というか、座ったとしてもわからない。
次の休日、私は当時、赤坂見附にあったWORKAHOLICという、チェアコンシェルジュが常駐するというお店を訪問した。
店内は数々の高機能椅子。どれもしっかりと身体を支えてくれそうな空気を纏っている。
早速要件を伝えた。私は自身が営業畑にも関わらず、対面接客が苦手だ。
売り込まれたどうしようという心配をよそに、紳士的にコンシェルジュの方は話し出した。
「まず、座り方です。座り方が悪ければ、どんな高級な椅子も意味をなしません」
矜持を感じさせる台詞である。こ、これは本物だ。私はまず、正しい座り方の講習をみっちりと受けた。
その後、お待ちかねの椅子選びである。私はファッション重視ではないと思いつつも、実は密かに検討し、候補としていた椅子があった。
ハーマンミラー社の、アーロンチェアである。
1994年に世界で初めてシートクッションを取り除きメッシュを採用した椅子として発売、人間工学に基づいた設計。
画期的なデザインのため、ニューヨーク近代美術館において「永久コレクション」としての地位を獲得しているという。
調べていく中で、世界中の音楽スタジオや、洗練されたIT企業のオフィスに置かれている写真を見た時、この世にはこんなにかっこいい椅子があるのかと目を細めた。
そして値段をみて再度驚くことになる。現在ほどの値段ではないが、当時も私にとっては信じられないほどの高価な椅子だった。
一部では「成功者の椅子」「ドットコムの玉座」と呼ばれているらしい。
築30年以上の5.8畳のワンルーム、若く薄給の飛び込み営業には、身の丈にあわないことは明らかだった。
まずはいくつかの椅子を試座、どれも高機能チェアとして十分に感じる。座り方が大事・・・椅子よりも座り方・・・
そしてアーロンチェアと初対面、私の心は腰の痛みを忘れるほど、ときめいていた。
お洒落な宣伝写真よりも、実物の美しさは勝っているとさえ感じた。
そして着席、浮遊するようなメッシュの上で、私の頭の中では既に答えがでている会議が始まっていた。
「お前、どこに置くんだよ」「家賃払えなくなるんじゃない?」と不安そうな声
「構わない、毎日食パンかじってれば、死にはしない。自身の節約癖を信じろ」
「私は、この先の未来を預ける場所を選びに来たのだ」
配送当日のことを覚えている。私の身体より大きい段ボール、両手でも抱えることができず、玄関前で梱包を解いた。
頑張ろう。この椅子にふさわしい、仕事をしよう。歩くスペースも限られた部屋で、小さく決意した。
後日談。1年後、私の腰痛は完全に治まっていた。誤診を疑ったが、その後のレントゲンで調べたところ、やはり骨自体はないらしい。
アーロンチェアのおかげかはわからない、でもそれはあまり重要ではない。
あの時、胡坐を続けていた未来を見ることもできない。
未だにこの椅子の似合う大人には程遠いところにいるが、引っ越して間取りに多少の余裕ができる程度には、社会の末席を担わせてもらえている。
楽天モバイルで、生活費の節約を
・高速データ無制限で月額980円から利用可能
・アプリ利用で国内通話が無料
・楽天市場の買い物が毎日ポイント5倍
・インターネット手続き最短3分で完了
・新規契約&乗り換えで最大14,000ポイント
毎月の携帯代、楽天モバイルに切り替えるまでは月10,000円。
今は約2,000円程度に抑えることができ、年間にして10万円以上の生活費削減となりました。
ご検討の際は以下のサイトから楽天ログイン後にモバイル紹介ページをご覧いただくことで、契約時の獲得ポイントも少しお得になります。
楽天サービスのご利用、ポイ活をされている方であれば、この機会を是非ご活用いただけると幸いです。