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なにかになりたかったわたしへ コーヒーにミルクを入れるような愛 #読書感想文2
今年読んだ本で良かったものを紹介する読書感想文。2冊目は、くどうれいんさんの「コーヒーにミルクを入れるような愛」。
はじめに
これまでの人生、小説にドはまりすることはあれど、新書を読まなければと駆り立てられることはあれど、エッセイを読もうと思ったことはほとんどなかった。他人の日常を覗き見るくらいなら自分の日常を記したい、という考えだったから。でも友人におすすめされてくどうさんの「桃を煮るひと」を読んで、同世代というのもあり共感できるし、エッセイを通して自分の生活にも向き合うことができるなーと思い少し興味を。そして「コーヒーにミルクを入れるような愛」は、図書館で借りられたので読んでみるかーということですっと手に取った1冊。これが、めちゃくちゃ良かった。
23作の短編エッセイで綴られているくどうさんの日常。これがまあなんと刺さること刺さること。なんでもない1文が心の琴線に触れて、泣くような本じゃないのに涙が出そうになる。そんなエッセイ。例によって手元に置いておきたい!と思い、図書館で借りてるうちに自分でも購入した。
好きな話がいくつもあるのだけど、一部ご紹介。ネタバレ含みます。
飛んじゃったサンキャッチャー
大学時代の特別な友人からもらった嬉しいプレゼントのお返しにあげたものとお揃いのサンキャッチャーが飛んで行った話。学生時代くどうさんにとっての蒲田みたいな自分にとって特別な人っていたよなーって思うし、相手を想ったプレゼントのやりとりも、その際の手紙のやりとりも、無くなっても探そうと思わない心情も、素敵だなと思うのと同時に自分にもそういう存在があるよなと思わされた。かつてかけがえのなかったものでも、ふっとどこかへいってしまうよね。モノも、気持ちも。
ほそい稲妻
まず、高校時代の「どうなっちゃうんだろう」という悩みがうんうんと頷ける。なにになりたいかもわからないのに、どうしてもなにかになりたくて、なんにもなれないかもしれないという不安に意味もなく苦しめられて、でも努力できない自分はきっとバチが当たるだろうなんて考えて。それに対してかずこが言ってくれた言葉をずっと覚えているくどうさんの、その心への刻まれ方が良いなあと思う。宝物のシーンとして心の奥にしまってあるんだろうなあ。
泣きながらマラカス
これは、りんちゃんとの関係性が良いなあと思って心に残っている。素敵だと尊敬できる人で、サービス精神が似たもの同士で、好みがすっかり知られていて、考えも見透かされていて。ハンギョドンのマラカスをもらった時に「いらねー」と笑えることも、しゃり・・・という音色の表現も、良いなあと思った。良い友情。
鬼の初恋
おもしろい子だと思われたくてへんな質問をするの、分かる。ユニークな存在としてあなたの心に刻まれたいって思う。そして結びの、「その毎回で、いま、目の前にいるあなたとするこれがほんとうの初恋だと本気でそのつど信じていた。わたしが抱いている好意はいままでのどれともちがう色に光っているのだと伝えたかった。」という文章、aikoの初恋という曲まんまだと思った。
夜のマンション
同じマンションでも、最上階に行くと見える景色が変わる。会社員だったころの自分に縋ってしまい、帰る度にどこか申し訳なく思って、ミドリが高所恐怖症なのを度々忘れて、その理由がこわくって、最後に部屋に戻って鍋をつつくことを「本当のわたし」と思って終わる、のが良い。今の自分を認めてあげる。
夕陽を見せる
何より、一度入るのをやめた温泉にやっぱり入りたいと言った時に「ごめんね、さっき入ろうかってもうすこし背中を押せばよかった」って言えるの優しすぎでは???????このやりとり、マネしたいと思った。こんな風に言えるわたしでありたい。そして裸で夕陽を見る詩的な描写も良い。西洋画の1シーンかと思った。
コーヒーと結婚
わたしもここ1年以内に結婚したので、嗚呼と思いながら読んだ。「飲みたくなったらいつでも飲めるように愛する人にコーヒーを淹れる。おれはそういうのが、結婚だと思うんだよねえ」って日常生活で言える旦那すごくない?キザだと思う人もいるかもしれないけど、わたしはすっごく嬉しい。結婚を自分なりに捉えて言葉にしてくれることが嬉しいし、相手のためにちょっとしたことをやってあげたいと思うこころが、わたしも愛だと思うから。それに対してくどうさんの、「自分のために淹れてもらったコーヒーをコーヒー牛乳にしてふたりで飲む。わたしはそういうのが、結婚だと思うんだよねえ」という返しよ。うわーーーーーって思う。その返し、自分の夫にしてほしい。わたしはいつでも相手のことを思いやっているつもりでいろいろ尽くしてしまうタイプだけど、その行為を決して疎ましく押しつけがましく思わずに、一緒に楽しめる形で返してくれたらどれだけ幸せだろう。このセリフ、夫に布教したいー。
役所に行く過程も、婚姻届が受理されるまでの間も、そのあとのお寿司を食べるところも、かけがえのない結婚記念日をこんな風にエッセイで記しておけたら素晴らしいよなと思いながら読んだ。この瞬間を忘れたくないよな、こんなもの書きになりたいなって思った。
わたしにとって結婚とは、毎日あたたかい味噌汁を作って待っていること、かな。
深く蔵す
著者名の表記を漢字からひらがなに変える経緯が書かれた話。ほかの人からしたらなんでもないようなことでも、当人にとっては本当に一世一代の決断を迫られることってあるよね。その人生の岐路で、恩人たちに相談をする行為が素敵。それに対する各人の返答も素敵。特にMさんの「漢字の玲音ちゃんを覚えている人がたくさんいる」「人生ははずみ」「決断って選ぶことじゃなくて、選んでそれでよかったって思えるようにしていくことだって言うし」という言葉、こんな風に言ってもらえる関係性の人が、わたしにはいるだろうか?くどうさんのこれまでの軌跡が素敵な人間関係を形作ってるんだろうなあと思う。ものすごく、好きな話。
なぜエッセイで泣けるのか
全然絞れず、たくさんの話を紹介してしまった。なんでこんなに、小難しくない飾らないシンプルな文章に心を打たれるんだろうと思いながら振り返ったけど、それは自分も一度は感じたことのある心の奥底の感情を掘り起こされるからだと思う。ありのままの表現に、深く共感するし、そう思っていた昔の戻らない日々を想うと切なくなるし、言語化できなかったしようともしていなかった自分の感情を重ねて人間の普遍的な部分を見せられている気持ちになるからだろうか。一方で自分にはない素敵なものをもっていると感じるくどうさんを、羨ましくて胸にくるものもあるだろう。ああうまく表現できないー。なんでもない日常の切り取りがこんなに尊いものなんて。エッセイって、いいな。