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【童話大戦争】① 桃太郎軍VS西洋軍 「蹂躙」
戦場に降り立った西洋童話界の大軍勢を目の当たりにして、日本童話界の三軍は声を失った。
西洋軍は、既に自分達の圧倒的勝利を確信しているのだろう。
防衛上不利であるはずの大平原のど真ん中に堂々と本陣を置いた。
場違いな静寂が戦場を支配する。
呆然と立ち尽くす三軍の兵士たちに対して、西洋軍の戦士たちは余裕の表情で泰然と構える。
空では、箒に跨った数百人の魔女軍団が見事な隊列を組んで悠然と旋回している。
そして、そのさらに上空では数十匹に及ぶドラゴンたちが翼を優雅にはばたかせながら、縦横無尽に飛び回っている。
海上では、いつの間に現れたのか、浮上した竜宮城の周りを百隻にも及ぶ海賊船が取り囲んでいる。
静寂を破ったのはドン・キホーテだった。
「死を見ること生のごとし!!ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、いざ参る!!」
ドン・キホーテが単騎で桃太郎軍団に突っ込んでいく。
それと同時に、西洋童話界の軍勢が大地が揺れんばかりの咆哮を上げ、四方に進軍を始めた。
【西洋軍総大将 アーサー王】
西洋軍の本陣では、アーサー王が威風堂々と仁王立ちし、戦場に睨みを効かせている。何百年間も笑みのひとつ浮かべたことがないその表情は威厳に満ちている。
王の背後には、甲冑に身を包んだランスロットとガウェインの円卓の騎士が護衛に当たっている。
少し離れて、冷徹な目つきをした背の高い男が、各部隊に伝令を飛ばしている。その、長く濃い青い髭が、一層異彩を放っている。
「青ひげ参謀長、戦場の様子を報告せよ。」
アーサー王が、青ひげを一瞥もせずに言った。王は、高価な衣装に身を包み、大きな宝石で飾り立てているこの陰気な男が大嫌いだった。
「金太郎軍はいち早く前線を後に下げ、山中に陣を構えました。クレーバーなやつらです。フック海賊船団と浦島太郎軍は膠着状態になっています。現在、原因を調査中です。ドン・キホーテ軍団、間もなく桃太郎軍と交戦に入ります。」
青ひげの淡々とした報告を受けたアーサー王は、
「ふん。少しは楽しませてくれよ。」
とつまらなそうに吐き捨てると、マントを翻させて指揮所に入っていった。
【桃太郎軍 激突】
ドン・キホーテに続いて、1万匹にもおよぶオオカミの群れが堰を切ったように西洋軍本陣を飛び出した。
続いて、円卓の騎士団とトロールの混成軍団、ガリバーを軍団長とするサイクロプスやゴーレムが進軍を開始した。
前線上空では、魔女の一個小隊が偵察部隊として情報を収集している。
獅子の体に鷲の頭と翼を持つグリフォンと、鳥の翼と女性の上半身を持つハービーの空軍は、上空で待機状態にある。
桃太郎軍組み易しと判断した西洋軍は、力で押し切る戦法に出た。
オオカミの群れは、既にドン・キホーテを追い抜き、疾風怒濤の勢いで桃太郎軍の本陣に迫っていた。
これに対して、桃太郎軍のイヌ軍団の精鋭6千匹が一番槍として迎撃に向かった。
正面から激突した両軍であったが、体躯と数に優れる西洋軍にイヌ軍団はなす術もなかった。飼い犬は跳ね飛ばされ、いち早く尻尾を丸めて遁走した。機動力を生かして二ホンオオカミやドーベルマンなどが健闘したが、結局蹴散らされてしまい、イヌ軍団は早くも壊滅状態に陥った。
勢いを増した西洋軍のオオカミたちは、ほぼ無傷のまま桃太郎軍の本陣に突入した。
サル軍団とキジ軍団、そして犬軍団の残党がこれを迎え撃ち、大乱戦となった。
二ホンザルが集団で敵を攻撃する。ゴリラが単騎で暴れ回る。上空から、ハヤブサが、タカが、ワシが急降下して攻撃する。
しばらくの間、拮抗状態が続いたものの、騎士団とガリバー軍団が悠然と姿を現すにいたり、戦況は悪化するばかりとなった。
ガリバーが叫ぶ。
「このまま本陣まで押し込むぞ!」
戦況を窺っているグリフォンとハービーの空軍も間もなく動きだすだろう。
ドン・キホーテが、長い槍を天空に突き立て、桃太郎軍に高らかに降伏を迫る。
「降伏せよ!生命あるかぎり、希望はあるぞ!」
本陣の奥深くで、桃太郎はしばし瞑目したのち、親衛隊長の温羅に向かって言った。
「わしの守りはもうよい。前線に出て家臣たちを助けてやってくれ。そして、伝えてくれ。必ず生き延びろと。鬼ヶ島で落ち合おう。」
そう言うと、桃太郎は子供を慈しむような笑顔で温羅を見つめた。
「温羅。お前たちもだぞ。死ぬことは許さん。」
温羅は、ほんの一瞬だけ泣き笑いの表情を浮かべると、すぐさま防御の陣形を解き、500匹の鬼たちに進軍の号令を出した。
「総員、前へ!これより全ての敵を我らが引き受ける!仲間を逃がせ!そして、全員で鬼ヶ島に帰るぞ!」
鬼たちが一斉にウオーと雄叫びを上げ、金棒を振り回しながら最前線に躍り出ていった。金棒に吹き飛ばされたオオカミたちが宙を舞う。トロールと鬼が、ゴーレムと鬼が肉弾戦を展開する。上空のグリフォンに牙をむいて威嚇し、ハービーに大岩を投げつける。騎馬の首をむんずと掴んで投げ捨てる。鬼たちの野太い咆哮が桃太郎軍を鼓舞する。
桃太郎もまた、鳳凰の剣を乱舞させながら戦場を駆け抜けていく。
「引け!引け!鬼ヶ島で待て!」
桃太郎は、敵の注意が自分に向くよう大声で叫ぶ。
桃太郎と鬼たちが殿を務め、桃太郎軍はじりじりと海岸に向けて後退していった。
(続く)