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夭折の画家、ウィリアム・キーツの話──No.08
ウェールズのバンゴールに住むウィリアム・キーツ少年は、独学で絵を描き始めた。画家になるのが夢だった。本格的に学ぼうとしていた。カーディフ・スクール・オブ・アート&デザインに進学することを決めた矢先、父が亡くなった。天然痘が原因だったと言われている。
一家の大黒柱を失ったことで、カーディフ行きの夢を諦めなければならなくなった。母と弟を養うため、フェリーの発着基地だったガース桟橋の職員として働くことになった。
"Waiting For The Sun(太陽を待ちながら)"はこのころに描かれた作品だ。筆圧強く塗りたくられた黒い壁からはキーツの沈んだ心が伝わってくる。
だが、ここにあるのは完全無欠の絶望感ではない。同じウェールズ生まれの美術評論家マーク・ベルは「穏やかな海はかすかな希望だ。優しく浮かぶ窓は女性器のメタファーであり、光の射すほうへ新たな人生を歩み出したい、というキーツの思いがうかがえる」と記している。
アメリカのロックバンド、ドアーズのジム・モリソンが一時期この作品を所有していたという逸話が残っている。なるほど、彼らには"Waiting For The Sun"という曲がある。
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