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【はがきサイズの短編】うたかたの蝶 テーマ:年上

    閉店したショッピングモールの屋上のベンチに、男女が寄り添って腰掛けている。

  二人の足先には青いイルミネーションが波打つように輝いており、闇に浮かぶ建物はまるで大きな船のようだ。

  少女は、小麦色の冷たい手をぎゅっと握りしめた。男は、少女の短い黒髪を優しく梳く。

  恍惚とした表情を浮かべる二人を見れば誰でも、映画のワンシーンを思い出すだろう。

  そして、少女の鞄には高校の生徒証、男のリュックには、人懐こい顔をした好青年が写っている、スイミングスクールの職員証が入っていることに気づかないのだ。

  少女はコーチ、と呼び、

「もう少しだけ…。」

  とささやいた。
  男は、言葉の代わりに桃色の耳たぶにキスをする。小さな紫の蝶のピアスが、笑うようにチラリと揺れた。
  やがて互いにもたれかかり、静かに発光する青を眺めた。

   風の音にかき消されるくらいの、白く細い息が漏れる。

  「イルミネーション。」

  「うん。」

  「あの中、泳げるかしら。」

  「バタフライで。」

  「右半身が私で、左があなたね。」

   少女は、男に口付けた。腕を互いに絡ませる。くちびるが重なった二人は一頭の蝶のようで、ふっと息をつくと男は泣きそうな表情になった。

  少女は子どもをあやすような口調で、

「わたしの、いい人…。」

  と微笑んだ。彼女は、生徒と先生という泡沫よりも淡い恋の終わりがいつか必ず来ると感じていた。

  しかし、彼に涙をためた目で見つめられると、少女の不安は波音のように打ち消されるのだ。まだ愛していていい、と。

  もう一度、口付けを交わす。

  0時を回り、青い光は一斉に息を止めた。

  暗闇が現れる。

  少女の瞳から涙がこぼれたことを、誰も気付かないまま。

Fin


こんばんは!高木梢です。

今回のテーマは、「年上」です。

お耽美なものって難しいですな(´・ω・`)
森茉莉、中原淳一、室生犀星、高畠華宵、嶽本野ばら、山田詠美とかあの辺の雰囲気好きなんですけどね…。

ちなみに、このお話はバッドエンドではありませぬ。
これから先、彼らは別れるかもしれないし結婚するかもしれません。しかし、どんなふうになっても泣けるほど誰かを好きになれる二人の未来は、さほど悪いことになるとは思えないのです。

好きな相手と誰もいない高台からイルミネーションを見る。

美しい思い出は絶対に消えないし、いくつになっても色あせないのです。

(というか私が、全身を燃やしつくして相手と一体になってしまう恋物語、世界の片隅にひっそりと寄り添う恋人の物語が好きってだけかも・・・。)

(ただ自分の好みを出しただけじゃあ・・・。)

(・・・。)

と、とりあえず!
こういう話が好きな方(いらっしゃるかな)に届いたら嬉しいです!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
素敵な画像をお借りしました。







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