【短編】雪うさぎとひねくれた道 テーマ:真っ直ぐ
"曲がったようにしか生きられないのです。
普通を真っ直ぐ押し付ける世界についていけず、僕はこの雪山で独り暮らすことを選びました。
けれど、人は孤独に弱い生き物ですね。
痛いほど冷たい自然の中不安は消えず、自らの存在に誰か気づいて欲しくて、行動の矛盾などおかまいなしに宛もない伝書鳩を飛ばしました。
だから、あなたから返事が来たときは本当に驚いたのですよ。
「じぶんもこどくです。」この一言だけで、僕がどれほど救われたかご存知でしょうか。
たくさん文通をしましたね。英雄の旅、雷鳥観察、芳しい夏の森、大鷲から逃げるのが得意なねずみの話。
待ち合わせ場所に行けずにごめんなさい。
いまいましいうさぎを助けなければ、今頃直接言葉を交わせていたでしょうか。
約束の柊の木のそばで、まだ僕を待ってくださるなら、お返事をくださいませんか。"
「なっがい手紙」
僕はむっとして振り返る。白いうさぎが、水晶のような瞳で書きかけの便箋を読んでいた。
約束の日の朝、木の扉を開けた先で行き倒れになっていたところを助けたのに、恩知らずなやつだ。
こいつは口が悪いくせに、元気になったなら早く帰れと言っても嫌だといい、僕が外出しようとすると引き止める。
全くわがままで寂しがり屋なうさぎだ。
おかげであの日以来、文通相手からの返事はない。
「いっとくけど、お前のせいで彼女に会えなかったんだからな!」
「彼女って、男か女かもわからねえんだろ?おっさんかもしれないぜ?もしくは100歳くらいのばあちゃんかも」
「うるさいな、そんなことどうだっていいんだよ。それに、あの字の下手さはもっと小さい子だよ。
そもそも、なんで普通のうさぎが言葉を喋ってるんだよ。きみ悪いし、おかしいだろ」
すると、うさぎはぴくりと長い耳を動かした。
「わかりたくってわかるわけじゃない。人間の言葉なんか。だから、おれはずっと一人なんだ」
うさぎは「もういい」と呟くとくるりと背を向け、弱々しく扉を押して雪の中を泳ぐように駆けて行った。
胸の奥がちくりと痛んだ。書きかけの手紙を手に取ると、見覚えのある字が記されていた。
"ともだちは ひとつやねのしたに います"
灰色の寒空の下、僕は駆け出した。
無意識のうちに自らを蝕んでいた当たり前を振り切るように。
うさぎよ、うさぎ。
深雪の森の中、約束の場所に彼はいた。
透明な氷のような後ろ姿を捕まえる。
誰とも分かち合えない寂しさを抱えた僕ら。
でも、2人でならその苦しさも少しは甘やかになるだろう?
それが、ひとときのまやかしだとしても。
うさぎが振り向いた。僕はごめんと呟く。うさぎは、僕の頬を伝う温水を赤い舌でそっとなめた。
柊の葉の隙間から太陽の光が細く差し込む。
かたい氷をゆっくりと溶かすように。
fin
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こんにちは!高木梢です。
今回のテーマは、「真っ直ぐ」です!
なんかこう、みんなが知っている言葉を改めて説明するって難しいよなぁって思います。
『舟を編む』に出てくるまじめくんが「右」を「自分から見て東」みたいに答えていたのを思い出しました。(合ってる?)
辞書の編集者って、すごい!
さて、実はこの作品、またまたはがきサイズの短編に収まらなかったものでございまする。
noteにたくさん書かせていただいているおかげで、文字数の感覚が掴めてきて、なんかもう構想の段階で「あ〜これ絶対長くなるや〜つ〜」と思っていたら本当に収まりませんでした。
また超長い文章書いちゃった。
改めて、noteやいつもスキをくださるnoterさんに感謝です!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。素敵な画像をお借りしました。
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