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【#全文公開】世界中に、こうやって週末を過ごしている人がいるんだ 『聞き書き 世界のサッカー民』はじめに

スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし

いよいよ、カタール・ワールドカップの開幕も迫ってきておりますね。 
カンゼンのサッカー本11月新刊は

文筆家・イラストレーターの金井真紀さんによる

聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』

11月14日より順次書店に並び始めます。
本日は発売に先駆けて、本書の「はじめに」を全文公開です!発売をお楽しみに~

書影はAmazonへリンクします

『聞き書き 世界のサッカー民
スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし
文と絵:金井真紀
ISBNコード:978-4-86255-668-4
定価:1,870円(本体1,700円+税)
判型:四六判
ページ数:224P
発売日:2022年11月14 日
出版社:カンゼン

はじめに

 スポーツ観戦の場で、「応援する人」の生態を観察するのが好きだ。彼らは自分がプレーするわけじゃないのに、でも選手と同じくらい、もしかしたら選手以上に情熱をたぎらせている。あのユニークな高揚感と様式美。暑苦しい情、押しつけがましい愛。そういうものがわたしの大好物である。人の熱が剥き出しになっていて、ついニコニコ顔で見てしまう。
 もちろんサッカー場では、「えっ」と思うこともある。
 中南米では選手に向かって、それも贔屓のチームの選手に向かって「チビ」とか「デブ」とか「黒いの」などと言うもんだから、それはどうなんだと声の主を振り返ってしまう。タトゥーを愛でるのもサポーター観察のお楽しみのひとつだが、欧州にはネオナチのサインを彫ってオラついている人がいてドン引きだ。アジアのスタジアムでは一糸乱れぬ応援スタイルがあまりにも乱れないので、なんだか窮屈な気持ちになる。そして一部のイギリス男は、なぜ寒い日も半袖でスタジアムにやってくるのだろうか。体温調節機能はどうなっているのだ。立ちションするなら、せめて物陰で頼む。
 と、ツッコミどころは満載なのだけど、それでも大半の「応援する人」はわたしを楽しい気持ちにさせてくれる。世界中に、こうやって週末を過ごしている人がいるんだ。その人たちはみな試合が終わったらそれぞれの持ち場に戻り、がんばったりサボったりよろこんだりあきらめたりしながら日々の営みを続けていくんだ。と想像するとキュンとなる。
 世界のスタジアムをめぐり、サッカー民たちの話を拾い集めたい、という願望はかなり以前から温めていた。問題は取材費と語学力がないことだが、走り出せばどうにかなるだろうと得意の見切り発車で企画をスタートさせたのが2016年だったと思う。ご縁があって雑誌連載が始まったのが20年初頭。
 その直後、まさかのコロナ禍がやってきた。サッカーの試合は開催されず、海外渡航も叶わず。取材は通訳さん込みのリモートインタビューを余儀なくされた。取材費と語学力の不足は思わぬ形でカバーされたが……うーん、やりたかったこととは違うような……。しかし腹をくくった。ならばむしろ、なかなか行けない土地の人の話を聞こう。知りたい出来事から逆算して人を探そう。
 そうしてできたのがこの本である。「ルポ 世界のサッカー民」みたいなかっこいいタイトルにしたかったけど、考えてみたら半分以上がリモート取材で「ルポ」じゃないし。てなわけで「聞き書き」とした。いまこの惑星に生きる人たちのささやかな聞き書き。サッカー好きな人も、そうでもない人も、この世の断片を味わっていただけたらうれしい。

書誌情報

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