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【挿図・原文付】『三国志演義』「赤壁の戦い」を読む!
↑↑↑ 『三国志演義』の基礎情報は、こちらをご参照ください。
小説全体の「あらすじ」も載せています。
今回は、小説の山場の一つ「赤壁の戦い」に絞って、挿図付で原文と訳文を読んでみたいと思います。
その前に、まず、「赤壁の戦い」の前哨戦です。
【要約】
曹操が南征を開始すると、江東では、劉備と組んで曹操に対抗するため、孫権配下の魯粛が特使として劉備のもとを訪れ、これを受けて、劉備は孔明を江東に派遣し、孫権との同盟を図ります。
曹操が自ら大軍を率いて南下すると、張昭ら江東の群臣たちは恐れをなして降伏を唱えますが、孔明が巧みな弁舌で孫権と周瑜を動かし、抗戦の決意をさせます。
かくして、周瑜を大都督とする数万の孫権軍は、八十余万の曹操軍と赤壁にて長江を挟んで対峙することになります。
周瑜は火攻めを画策し、老将黄蓋と共に「苦肉の計」で敵を欺き、龐統の「連環の計」で曹操軍の船団を鎖で繋ぎ合わせるよう仕向けます。そして、孔明が七星壇を築いて祈禱し、冬のさなかに東南の風を吹かせます。
さて、いよいよ「赤壁の戦い」本番です。
『三国志演義』(全120回)の第49回の中で語られている部分です。
全文省略無しのフルで読みます。
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さて、曹操は陣中にあって諸将と軍議をこらし、ひたすら黄蓋からの知らせを待ちわびていた。その日は東南の風が吹きはじめ、激しさを増してきたので、程昱が入ってきて曹操に進言するには、
「今日は東南の風が吹きはじめましたゆえ、ご用心なされますよう」
曹操は笑い飛ばして、
「冬至は一陽来復の時節、東南の風が吹かぬわけはなかろう。何も怪しむことはない」
卻說曹操在大寨中、與衆將商議、只等黃蓋消息。當日東南風起甚緊、程昱入告曹操曰、「今日東南風起、宜預隄防。」
操笑曰、「冬至一陽生、來復之時、安得無東南風。何足爲怪。」
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そこへ突然兵士がやってきて、江東から一隻の小舟が漕ぎ寄せ、黄蓋の密書を持参したと言っていると報告をした。曹操が急いで呼び入れると、その使者は一通の書面を差し出した。
書面には、「周瑜の警戒が厳しく、逃れ出るすべがなかった。今、鄱陽湖から新たに兵糧が到着し、周瑜が自分に哨戒の役を命じたので、ようやく機会ができた。何としても江東の名高い大将一人を打ち殺し、その首を献じて降参したい。今宵二更の時分、青龍の旗を立てた舟がすなわち兵糧船である」と書かれている。
曹操は大いに喜び、諸将と共に水軍の大船に乗り込み、黄蓋の船が到着するのを待った。
軍士忽報江東一隻小船來到、說有黃蓋密書。操急喚入。其人呈上書。
書中訴說、「周瑜關防得緊、因此無計脫身。今有鄱陽湖新運到糧、周瑜差蓋巡哨、已有方便。好歹殺江東名將、獻首來降。只在今晚二更、船上插青龍牙旗者、即糧船也。」
操大喜、遂與衆將來水寨中大船上、觀望黃蓋船到。
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一方、江東では、日が暮れかかると、周瑜が蔡和を呼びつけ、兵士に命じて縛り上げさせた。
「何もしておらぬ」
と蔡和が叫んだが、周瑜が言うには、
「なんたる奴だ、ぬけぬけとにせの投降などしおって。我が陣中にちょうど出陣のいけにえがなかったところだ。貴様の首を借りるぞ」
蔡和は言い逃れができず、大声を上げて、
「お前たちの闞沢や甘寧も共謀だぞ」
と叫んだが、周瑜が、
「あれはわしの差し金だ」
と明かすと、蔡和は悔やんだが、時すでに遅し。
周瑜は蔡和を岸辺に立てた黒色の軍旗の下へ引っ立てていかせ、酒を注ぎ紙銭を焼いて、一刀のもとに蔡和の首を刎ねさせ、その血で軍旗を祭るや、ただちに出陣の命令を下した。
且說江東、天色向晚、周瑜喚出蔡和、令軍士縛倒。和叫、「無罪。」瑜曰、「汝是何等人、敢來詐降。吾今缺少福物祭旗、願借你首級。」
和抵賴不過、大叫曰、「汝家闞澤・甘寧亦曾與謀。」瑜曰、「此乃吾之所使也。」蔡和悔之無及。
瑜令捉至江邊皂纛旗下、奠酒燒紙、一刀斬了蔡和、用血祭旗畢、便令開船。
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黄蓋は三隻目の火船に乗り込み、胸当てをつけただけで、手には白刃をひっさげ、旗には「先鋒黄蓋」と大書している。黄蓋の船は天空一杯の追い風に乗り、赤壁目指して進んだ。
この時、東の風が激しく吹きつのり、波濤は天高く躍った。
曹操は水上の本陣にあって、長江の彼方を見渡していた。皎々たる月影が川面に照り映え、あたかも無数の金色の蛇が波間に戯れるかの如き光景であった。曹操は風を受けてからからと笑い、我が事成れりとばかりに得意満面であった。
その時、突然一人の兵士が指差して言った。
「南岸より帆船の一団が見え隠れしております。追い風に乗ってこちらに迫ってきております」
曹操が櫓(やぐら)に上って眺めているところへ報告が来た。
「どの船も青龍の旗を立て、その中の大旗には『先鋒黄蓋』と大書してございます」
曹操が笑いながら、「公覆(黄蓋の字)が降ってくるのは、天の助けというものじゃ」と言ううちにも、船はしだいに近づいてくる。
黃蓋在第三隻火船上、獨披掩心、手提利刃、旗上大書「先鋒黃蓋」。蓋乘一天順風、望赤壁進發。
是時東風大作、波浪洶湧。
操在中軍、遙望隔江、看看月色照耀江水、如萬道金蛇、翻波戲浪。操迎風大笑、自以爲得志。
忽一軍指說、「江南隱隱一簇帆幔、使風而來。」
操憑高望之。報稱、「皆插青龍牙旗。内中有大旗、上書先鋒黃蓋名字。」
操笑曰、「公覆來降、此天助我也。」來船漸近。
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この様子をしばらくじっと見ていた程昱が曹操に告げた。
「こちらへやってくる船は敵の罠に間違いござりませぬ。陣へ近づけてはなりませぬ」
「どうしてそれが分かるのじゃ」
「兵糧が積まれているならば、船足は重いはず。ところが、あの船を見まするに、軽々と浮かんでおります。しかも、今夜はこの激しい東南の風。もし敵の企みであったら、どうして防ぐことができましょうぞ」
曹操は、はっと気づいて、
「誰ぞ、あれを止めに行く者はおらぬか」
すると文聘が、
「それがし、水には慣れておりますゆえ、参りとう存じまする」
と言うなり、小船に飛び移った。
そして手を振って指図をすると、見回りの船十数隻が文聘の後に従って漕ぎだした。
程昱觀望良久、謂操曰、「來船必詐。且休教近寨。」操曰、「何以知之。」程昱曰、「糧在船中、船必穩重。今觀來船、輕而且浮。更兼今夜東南風甚緊。倘有詐謀、何以當之。」
操省悟、便問、「誰去止之。」
文聘曰、「某在水上頗熟、願請一往。」言畢、跳下小船。
用手一指、十數隻巡船、隨文聘船出。
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舳先に立った文聘が大声を張り上げる。
「丞相殿の仰せなるぞ。南軍の船、陣に近寄ってはならぬ。江の真ん中に止まれ」
兵士たちも声を揃えて、「早く帆を下ろせ」と怒鳴り立てる。
その声の終わらぬうち、弓絃の音がひとたび響くや、文聘は左の腕に矢を突き立てられて、船中にどっと倒れこんだ。
船上は大騒ぎとなり、みな先を争って逃げ帰った。
聘立於船頭、大叫、「丞相鈞旨。南船且休近寨、就江心拋住。」
衆軍齊喝、「快下了篷。」
言未絕、弓弦響處、文聘被箭射中左臂、倒在船中。
船上大亂、各自奔回。
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南軍の船は曹操の陣の手前わずか二里のところにまで近づいた。
この時黄蓋が刀を一振りすると、前方の船が一斉に火を吹き上げた。
火は風に乗り、風は火の勢いを助け、船は矢の如く突き進み、黒煙と赤い炎が天を覆った。
火船二十隻が水軍の陣へ突入した。曹操軍の船はあっと言う間に火がついた。しかし、鉄の鎖でしっかり繋ぎ止められているので、逃げようにも逃げられない。
そこへ江を隔てて砲の音が響き、四方から火船が押し寄せた。
見れば、長江の川面には炎が風に煽られて渦巻き、天地を余すところなく真っ赤に染め上げていた。
南船距操寨止隔二里水面。
黃蓋用刀一招、前船一齊發火。
火趁風威、風助火勢、船如箭發、煙焰漲天。
二十隻火船、撞入水寨。曹寨中船隻一時盡着、又被鐵環銷住、無處逃避。
隔江砲響、四下火船齊到。
但見三江面上、火逐風飛、一派通紅、漫天徹地。
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こうして、「赤壁の戦い」は、孫権軍が大勝利を収めます。
曹操は命からがら華容道まで敗走しますが、待ち伏せていた関羽が立ちはだかります。
ところが、関羽は、以前に曹操から受けた恩義のゆえに、曹操をわざと逃がしてしまいます。
こうして、命拾いはしたものの、曹操の天下取りの野望は頓挫し、いよいよ三国争覇の時代に突入します。
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