「人は癖無かるべからず」~袁宏道評『癖顛小史』に見る明末の人間論
一 「癖」について(一)「癖」の字義
「癖(へき)」字は、字書『玉篇』に「癖、食不消、留肚中也」とあり、『廣韻』『集韻』ではいずれも「癖、腹病」とある。食物が消化せず、腹中に溜まる疾病の一種をいう。
医書類では、例えば、隋・巢元方撰『巢氏諸病源候總論』巻二十、「癖病諸候」(凡十一論)の第一論「癖候」の項に、
とある。「三焦」(腹部の総称)が「痞隔」(塊ができて詰まること)して胃腸の流れが滞ったうえに寒気を受けて次第に凝固する状態を「癖」といい、左右の脇腹に偏って生