【映画・動画付き】『November』……なるべくネタバレに配慮したい映画感想文
『November』――エストニアの闇と光を映し出すダークファンタジー映画レビュー
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前置き
映画を観る際にネタバレを避けたいのは当然のことです。
「嗚呼もう!悔しい!なんでそれを書いちゃうの!?」そんな経験、誰しも一度はありますよね。
今回は、なるべくネタバレに配慮しながらも、映画『November』の魅力を深く掘り下げてお伝えします。
このレビューはFilmarksに掲載したものをベースにしていますが、あくまで個人的な見解です。
それでも、この映画の美しさと感動を少しでも共有できればと思います。どうぞお楽しみください。
※今回は、なるべくネタバレを避けたかったのですが『理解できない』というレビューを多く見かけたことから、作品の性質上触れざるを得ない箇所があります。前情報なしで観たい方は、また別の記事でお会いしましょう。
『November』
『November』の概要
『November』は、エストニアの寒村を舞台に、フィルムノワールとダークファンタジーを融合させた作品です。物語は、11月1日の『死者の日/万霊節』を迎える貧しい村で展開されます。
私は学生時代に学んだり、外国の方々と接した過去から違和感なく観れましたが、まずここで『死者の日』が日本人に馴染みのない言葉かもしれませんね。
『死者の日』について
日本ではこのような習慣はありませんが、お盆の期間に先祖の霊を迎え入れる風習が似た文化的意味を持っていると言えるでしょう(映画『リメンバー・ミー』も死者の日がテーマですね)。
本作で登場する「クラット」とは、エストニア神話に登場する精霊です。これらの予備知識を持って観ると、より一層楽しめます。
本作の原作は、エストニアの代表的作家アンドルス・キヴィラフクの『レヘパップ・エフク・ノベンバー(Rehepapp ehk November)』です。2000年に発表されたこの作品は、エストニア国内の全図書館で最も貸し出されたカルト的ベストセラーとなっています。この人気作を、ライネル・サルネット監督が映画化しました。
ストーリー
映画の中心には、19世紀のエストニアの寒村が舞台となっており、村人たちは「クラット」と呼ばれる使い魔を利用して互いに家畜や物を盗み合いながら生きています。
村人たちは、古びた衣服をまとい、薄汚れた顔や乱れた髪で貧困を表しています。彼らの行いはその外見に反映され、ブラックユーモアに満ちた会話と滑稽な姿が時折笑いを誘います。古い物語でありながら、リーナの自由な生き方が作品に新鮮さを与えています。
エストニア神話とアニミズム
『November』は、「すべてのものには霊が宿る」というアニミズムの思想を基にしています。村人たちは、悪魔と契約してエストニア神話に登場するクラットという精霊(使い魔)を利用し、日常生活の中で超自然的な力を行使します。
クラットと村人たちの生活
クラットは、村人たちの貧しさや欲望を象徴しています。使い魔として働かせるために作られるクラットは、農具や廃品から作られ、悪魔との契約によって魂を入れられます。
この契約には人間の血液が必要ですが、村人たちは貧しさのために自らの血液すら惜しみ、カシスの実で代用します。これは、彼らがどれほど貧しく、同時にしたたかであるかを示しています。
多くの村人が何かしら悪魔と契約しているように見えます。疫病が目に見える姿で現れたり、夜更けの森の交差点で悪魔と気軽に契約したり、クラットが生意気な口調で主人に対抗して人間と共存する世界です。
リーナとハンスの物語
リーナは、この物語の中で特異な存在です。彼女は他の村人たちとは異なり、自由な生き方を求めています。
死者の日に帰ってきたリーナの亡くなった母が、他の村人とは離れて柳の木の下に一人でいる場面や、リーナの咆哮、狼の姿でハンスを見守る場面など、リーナの家庭は他の村人たちとは異なる因縁が感じられます。リーナの繊細さは、人間とは異なる何かを示しているのかもしれません。
リーナの恋心や、彼女が抱える内面的な葛藤は、物語のテーマに深みをもたらしています。ハンスは、村の貴族である男爵の娘に恋をします。この盲目的な恋心が、物語に悲劇をもたらす要因となります。リーナは、自分の恋心を抑えつつも、ハンスを見守り続けます。
Dieter Laserの遺作
男爵役には『ムカデ人間』で知られるドイツの名優、Dieter Laser(ディーター・ラーザー)がキャスティングされています。彼の演じる男爵は底知れぬ怪しさを持ち、本作が彼の遺作となりました。
視覚的な美しさと対比
『November』の映像は、そのハイコントラストなモノクロ映像が非常に印象的です。映画全編を通じて、黒と白の対比が強調され、物語のテーマやキャラクターの内面を視覚的に表現しています。
例えば、男爵の家を訪れたハンスの黒さと男爵の白さの対比や、雪だるまクラットが溶けて目の代わりに挿した炭が涙のように流れるシーンなどが特に印象的です。
雪だるまクラットとハンスのエピソード
雪だるまクラットが言葉を発した瞬間、驚きました。他のクラットとは違う、シェイクスピアの詩のような口調だったのです。その言葉一つ一つが花の蕾がほころぶようで、物語の美しさを引き立てました。
雪だるまクラットが語る悲恋の昔話に夢中になるハンス。雪だるまクラットが徐々に溶けて、目の代わりに挿していた炭が涙のように流れるシーンは、盲目的な恋に我を忘れたハンスにぴったりのクラットでした。
魔女とハンスの父の対話
ハンスの家でクラットが黙って仕事をしている中、魔女ミナがハンスの父に「リーナを助けてほしい、このままじゃ二人は壊れてしまう」と訴える場面があります。父サンデルが「色恋ごときで壊れるやつがあるか」と返すと、ミナは若かりし頃のお互いの話を持ち出し、サンデルが謝罪します。
仕事を終えたクラットはそっと戸を閉めて出て行きます。いつも生意気な口調のクラットが気を遣うなんて…。クラットの憎めない愛らしさがここにも現れてましたね。
モノクロームのこだわりと白黒の対比
『November』は全編を通して徹底したカラーコントロールがなされています。村人たちの顔は薄汚れ、衣服は汚れ、村人たちと契約する悪魔は黒塗りの顔です。
対照的に、白い雪だるまが黒い炭で涙のように汚れるシーン、男爵の家を訪れたハンスの黒さと男爵の白さ。
帰ってきた死者や男爵の娘の白い衣装、ハンスと契約した悪魔の白塗りの顔、魂を奪われ自宅に帰ったハンスは光に照らされ、暗い水中で光に包まれて再会する2人など、視覚的に非常に美しい対比が描かれています。
総評
私は1回目の視聴が終わるとすぐに2回目の視聴を開始しました。
見返すと、とてもシンプルな物語でした。
『November』は、その映像美と独特の物語構造が際立つ作品です。エストニアの神話とキリスト教を巧みに組み合わせ、ブラックユーモアと人間ドラマが織りなすこの映画は、一度観ただけではそのすべてを理解するのは難しいかもしれません。
しかし、再度観ることで、そのシンプルで古典的な恋物語と、それを彩る美しい映像に気づくことができるでしょう。
ぜひ、多くの人にこの映画の魅力を感じてほしいと思います。
関連タグ
このレビューを通じて、『November』の魅力が少しでも伝われば幸いです。皆さんもぜひ、この美しい物語を体験してみてください。
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