「新郷村×ムー ミステリーキャンプⅡ」レポ
青森県の南部地方では、夏休み頃から下のような怪しさの塊のポスターが様々な場所に貼られていた。
UFO音頭、UMA、地底人……
一部の人間が心踊る文字が並ぶこのポスターは、新郷村 (しんごうむら) の間木ノ平グリーンパークにて開催されるキャンプイベント「新郷村×ムー ミステリーキャンプⅡ」の告知である。
この「新郷村×ムー ミステリーキャンプ」が行われるのは、昨年に引き続き今回で2回目だ。
前回の様子はムー公式サイトの以下のページにてまとめられている。
会場へのアクセスはお世辞にもいいとは言えないにも関わらず、大盛況だったというのだから相変わらずムーは凄い。
12:00 開場
間木ノ平グリーンパークは八戸駅から車で1時間弱。
タヌキがぽてぽてと道路を横切っていくような山の中の道を通り、新郷村の集落と大石神ピラミッドやキリストの里公園を抜けた先にある。
12時開場とのことだが、その時点では屋台などもほとんどが準備中だったので、とりあえずはグリーンパーク内を散策する。
キャンプ場の他、道の駅しんごうやポニーや山羊のいるふれあい牧場、ゴルフ場やゴーカートなどが併設されており、事前に予約すればソーセージやアイスクリーム作り体験や魚の掴み取りもできる広大な施設だ。
65ヘクタールの敷地はぐるっと回るだけでもそれなりの広さがある。
外観しか確認していないがコテージやバンガローも中々綺麗だった。実は料金が安かったので逆に不安になって予約していなかったのだが、次回はこちらに宿泊するのもありだな……と思った。
1時間ほどして会場に戻ってくると屋台の設営が進み、いくつかの店舗の営業が始まっていた。
どんなものを売っているのか見て回っていると、会場のベンチになんだか見覚えがある人たちが……
なんと今日のトークショーメンバーがプチ飲み会をしていた。
声をかけて本にサインしてもらおうかとも思ったが、せっかく楽んでいるところに水を差すのは申し訳ないしな……と思っているうちによそに行ってしまった。
「心理的にも物理的にも距離が近いイベント」と後にトークショーで望月さんがおっしゃられていたが、参加者のオフの姿が見られるのもこういうイベントの醍醐味なのかもしれない。
14:00 アウトドア体験教室
14:00頃になると店舗の設営はほぼ完了し、まばらだったお客さんも一気に集まってくる。
そしてタイキブッシュさんとBUSH MASAさんによるブッシュクラフト講座が始まる。
今回はこちらで火打石での着火とメタルマッチでの着火、ロープワークの体験をさせていただいた。
まずは火打石。火打金に硬い石 (今回は石英を使用) を打ちつけ、出てきた火花を火口に着火させるという極めてシンプルなものだ。おそらく皆さんも、映画などで一度は見たことがあるであろう。
お手本のタイキブッシュさんがやると綺麗な火花が出るのだが、自分でやってみるとこれが中々に難しい。というのも、石と金属をぶつけ合う瞬間に手を滑らせて挟みそうでビビってしまう。
トライの末になんとかほんの少し火花を出すところまではできたものの、人数も増えてきたのでギブカップ。
そして今度はメタルマッチでチャレンジ。
今度はマグネシウム棒を付属のナイフで削り、火花を出して火種にする方法だ。先ほどの火打石でアレだけ苦戦したのが嘘のように、一瞬かつ簡単に火がつく。そこら辺にありそうな金属片と硬い石を打ち付けて火がつく火打石も魔法のようだが、こちらも見た目はシンプルながら遥かに手軽だ。
ライターよりも水濡れに強く頑丈とは聞いていたが、使いやすさにおいても想像していたよりも遥かに優秀だ。次回の登山までに購入し、リュックの緊急セットに入れておくことにした。
そしてロープワーク。
「これやれると絶対便利だな〜」と前から思いながらもちゃんと理解しきれていなかった、まき結びとその応用を教えていただいた。
テントを張ったりボートを係留したりというアウトドアでの使い方に限らず、宿泊先や車内で洗濯物を干したり、ものを束ねて吊るしたりする際にも使える。
キャンプは勿論のこと、他のアウトドアや日常でも使える知識を学べたのは非常にありがたかった。
お2人は来週末の 9/30 (土) にも同会場で開かれるPheoenix camp 2023など近隣の他のキャンプイベントでもブッシュクラフトのインストラクターとして参加される。
初心者にも非常に丁寧に教えてくれるので、興味のある方は是非イベントに参加しよう。
さて、ここまでは普通のアウトドアイベントだ。
15:00 スプーン曲げチャレンジ
ここからミステリー要素がグッと強くなってくる。
スプーン曲げチャレンジ、開始である。
会場の隅に設営されたテントに大量のスプーンが出され「我こそは!」と思う参加者が次々と曲げていく。
割と有名な話だと思うので言ってしまうが、スプーン曲げは持ち方と力の入れ方にコツがある。
詳細は調べればいくらでも出てくるので省くが、まあやり方を知っていれば割と誰でもやれる……のだが、それを前提としても参加者のほぼ全員がスプーン曲げのやり方を知っているというのは流石ミステリーキャンプだ。
さて「その場にいる殆どの人がやり方を知っているのにわざわざやるスプーン曲げって楽しいの?」と思う方も多いだろうが断言しよう。
めちゃくちゃ楽しい。
なにせ普段、スプーンを曲げる機会などないのだ。
やっている人間も小学生くらいの頃に1度やって親に怒られたのが最初で最後という人も多いだろう。
普段は絶対やれない破壊行動を堂々とやれるというのは、本当に楽しい。
ここ数年はアメリカで流行していた斧投げバーが日本でも浸透し、都内のみならず大阪や名古屋に出店している。面白さの方向性としてはおそらく共通している部分が多いと思う。
サービスでスプーン曲げ放題のバーとかあったら喜ばれるんじゃないだろうか。バーなんて行ったこと片手で数えるくらいしかないけれど。
ウッドクラフトやスプーン曲げを楽しんだり、様々な料理に舌鼓を打ったり、温かな陽気と程よい風の吹く心地よい天気の中で読書 (勿論ここで読まれているのは、ムー関連のいかにも怪しいオカルト書籍ばかりだ) に勤しんだりと会場の人々が各々の形で満喫している。
やがて 15 : 30 頃になるとミステリーツアー (実は早朝から、抽選で選ばれた人が参加できる三上編集長と行く十和田湖ツアーというものが開催されていた) から帰った人々もキャンプ場に戻り始め、芝の広場は埋まり始める。
16:15 スプーン曲げイベント
新郷村出身の大村素子さんと月刊ムー編集部の望月さんを司会に、ステージ上でのイベントが始まる。
最初に行われたのは、希望者による絶対に曲がらないスプーンへの挑戦だ。
絶対曲がらないスプーンとは曲げようとすると曲がる前に折れる、工学的にいうと非常に硬度が高いスプーンのことらしい。
(曲げにくさのイメージとしては普通のスプーンは加熱して少し柔らかくなった飴、絶対に曲がらないスプーンは常温の硬い飴のようなもの。後者の方が硬いが、力を入れて変形させようとすると砕けてしまう)
制作しているのは新郷村の隣町である五戸町 (ごのへまち) の金型加工会社「株式会社サンライズエンジニアリング」だ。
金型加工のノウハウを活かし、制作したスプーンに焼き入れと焼き戻しをした上で1つ1つ手作業で研磨。しかもきちんと破壊検査までしているという非常に手間がかかった逸品だ。
計6人の挑戦者が挑むも、残念ながら達成者は現れず。しかし会場は大盛り上がりだった。
17:30 スペシャルトークショー
いよいよミステリーキャンプの目玉、豪華メンバーによるトークショーだ。
なおトークイベントの様子はYouTubeでライブ配信されており現在も閲覧可能だ。
詳細な内容については上記アーカイブを見ていただきたい。UFO、心霊写真、都市伝説、そして地底人 (?) と、どれもこれもめちゃくちゃ怪しいのに話を聞いていると引き込まれてしまう。1979年の創刊以来「日本一あやしい雑誌」としてひたはしり、1つのブランドまでに上り詰めたセンスはやはり一級品だ。
キャッチーなのに捉えどころがあったりなかったり、ふざけているのにどこか真面目だったり、信じがたいのについ思いを馳せてしまいたくなる。
独特と以外言いがたいムーの世界観は、40年以上の時を経てなお、夜空を駆ける不可解な軌道の光の一筋のように心を惹きつけるものがある。
19:30 新郷UFO音頭
「新郷村にUFOを呼びたいと思います」のアナウンスで爆笑する大人たちに対して「えぇー!!!」と無垢な反応をする子供たち。
新聞などでも取り上げられていた、今回のイベントに際して書き下ろされた楽曲「新郷UFO音頭」のお披露目だ。
八戸市出身の演歌歌手である小西礼子さんうつろ舟で地球にやってきた美しき歌姫のレコちゃんの生歌、そして振り付け監修として参加した地元のナニャドラヤ保存会の方々と共に、歌と踊りで会場は混沌と共に1つになっていった。
最後は19:50より月刊ムーや各種屋台などの景品が当たる抽選を行い、20:30頃に全プログラムが終了。
参加者はそれぞれのテントや車へと帰っていき、2023年のミステリーキャンプは幕を閉じたのだった。
感想
まずは何より、純粋にアウトドアイベントとして非常に楽しかった。
天気に恵まれ、猛暑から一気に気温が下がる時期の間で気温も快適だったことに加え、イベント自体が楽しかったことにもちろん実は今回料理がなかなか美味しかったのも大きい。
今回のイベントではピザーラやゴーゴーカレー、巨大たこ焼きのばくだん焼き本舗と言った定番のメニューは勿論のこと、薬膳カレーのケーコ弁当やVIVA LA VIDAの本格メキシコ料理までと幅広い。お酒だけ見ても全国のクラフトビールや地元の焼酎やビール、カクテルとアブサンを取り扱っているお店まで。食べ物の種類は店舗数以上に多種多様、しかも全体的にかなり美味しかった。
個人的にはVIVA LA VIDAのケサディーヤ (チーズを中心とした具材が入ったタコスのようなもの。チーズや肉の濃厚さと、ハラペーニョやピクルスの酸味と爽やかさがあまりにも絶妙だった) が忘れられず、今度店舗の方にもお邪魔しようと心に決めた。
もちろん屋台のみならず、併設されている道の駅で肉や野菜が販売されているのでそこで買った食材でバーベキューをするのも絶対に楽しいだろう。
そして驚いたのは、参加者の年齢や性別層の多彩さだ。下は未就学児から上は高齢者まで、年齢も性別もバラバラな人たちが集まったのはやはり月刊ムーの影響力の広さと強さだろうか。
550人規模のイベントだったとのことだが、新郷村の人口の1 / 4以上の人数があの会場と周辺に集まっていたと改めて考えるとなかなか凄い。
釣りや登山に興味はあれど、実はキャンプイベントへの参加は今回がはじめてだったが、十二分に楽しむことができた。
一見したところ変なイベント、というか実際「変なイベント」というのが適切だろうが、参加してみるとむしろ普通のキャンプイベント以上に初めてでも敷居が低いとまで感じられた。
豊かな自然に囲まれながら、美食や娯楽と明るい空気感を楽しむ。
星空の下で不思議な話を聞きながら、大人たちが大笑いし、子供たちは目を輝かせる。きっとポールバニヤンも、そしてきっと少なくない数の民話も、こういうところで生まれたのだろう。
会場を出て床につくまでの間、あるいは夜明け前に目覚めてふと見上げた星空に、不可解な光の軌跡を探してみたくなってしまう。そんなものないだろう。あったとしても、きっと火球か人工衛星だ。
けれども私たちが戻っていく日常に適量加えられた「もしかしたら」は、知的好奇心を動かし、世界に少し愉快な色を増やしてくれるだろう。