農林水産省お墨付き「二子さといも」の食感に悶える
日本全国各地に存在する多彩な農林水産物。それらの中には地元で愛され続けているローカルなものもあれば、日本全国のこだわりの店で愛され、更には日本を飛び出し海外へも進出しているものもある。
日本或いは世界の農林水産物を相手に渡り合う際に特にその個性と品質で勝負するとなると、その商品ならではの特徴や品質などを保証することは、1つのブランドとして成り立たせるための重要なポイントである。
さて、この保証の中でも2015年から始まったものに地理的表示(GI)保護制度というものがある。
この制度で産地や品質などを保証するのは農林水産省。すなわち日本という国がお墨付きを与えた農林水産物であり、その価値は日本だけではなく国際的にも一定の効力を持つまさにブランド品だ。
因みにGI 登録の対象は食品以外も含まれており、北東北であれば浄法寺漆や岩手木炭、他の地域では伊予生糸などもGI 登録の対象になっている。
また、以前の記事と関わりが深いもので言うと岩手県奥州市にある牛の博物館の記事で紹介した前沢牛もGI認証を受けている。
2024年9月現在、北東北でGI認証の対象となっている農林水産物は青森県単独では小川原湖と十三湖の大和しじみなど7種類、岩手県単独では前沢牛など7種類、秋田県単独ではいぶりがっこなど5種類、そして3県に産地がまたがっている浄法寺漆を加えた計20種類が存在している。
他にも秋田の稲庭うどんや岩手の重茂の焼きウニやワカメなども現在申請中なので、遠からず更に数は増えるかもしれない。
さて、そんなGI認証済みの農林水産物の1つが岩手県北上市を中心に、北上平野で栽培されている伝統野菜二子里芋だ。
二子里芋は一般的な里芋と比べてもっちりとした独特の弾力と強い粘りが特徴の里芋だ。記録によると少なくとも300年前にはすでに北上平野で栽培されていたようだ。
里芋というと一般的にはおかずのイメージがあるが、北上市ではこの特徴的な食感を生かしたお菓子である二子さといもサクサクもっちりタルトが地元の銘菓として愛されている。
また、里芋の茎は一般的には薄い黄緑色であるが、二子里芋は赤茎と呼ばれる赤い茎をしているのも特徴だ。
今回はこの二子里芋を使ってずぼいも風と葱油芋艿、そして芋の子汁を作っていきたいと思う。
ずぼいも風
さて、まずは里芋の育ち方の話になってしまうのだが里芋を栽培するときはじゃがいもなどと同様に種芋を植えて育てる。地面に埋めた種芋はまず大きな親芋を生じさせ、この親芋から子芋が生じ、収穫の時期になると更に小芋から孫芋が生じている。
親芋、小芋、孫芋のどれを食べるかについては里芋の品種によるのだが、一般的に二子里芋として食べられるのは子芋だ。
とはいえ勿論親芋や孫芋も美味しい。
特に孫芋については茹でて皮を剥いたものに醤油などをかけて食べられることが多く、孫芋そのものやこうした料理のことをずぼいもと呼ぶ。
今回購入した二子さといもはサイズ的に子芋だと思われるのであくまでずぼいも風。
孫芋サイズならばそのままでも問題ないが今回はカットする。醤油、それから好みに応じて鰹節や刻み葱、大根おろしなどの薬味を添えて完成だ。醤油と鰹節の代わりにめんつゆをかけてもいいだろう。
あまりにもシンプル。しかし里芋の滑らかさと甘さ、そして大地の香りを最も楽しませてくれる。
その年最初に食べる里芋はこれが良い。里芋は冷めても温かな時とは別種の旨さを感じさせてくれる野菜だが、これは茹でたて熱々をいただきたい。
葱油芋艿
世の中のたいていの美味しい料理は「そりゃこの組み合わせなら美味しくなるよな」と食べる前から確信できるものがほとんどだが、中には本当にこの組み合わせでそんなに美味しくなるのか食べるまで確信が持てないものもある。
正直にいって、自分も実際にこの料理を作って食べるまでは本当にこれが美味しくなるのか不安しかなかったのだが、1度作って以降はこれが自分の中の定番料理の1つとなった。
多めの油で刻んだネギを炒め、香りが出たら蒸すなり茹でるなりして加熱した里芋を1口大に切ったものを塩と砂糖、そして湯と共に加える。加熱しながら混ぜればまもなく里芋のとろみで湯と葱油が乳化し、里芋を引き立てる至上のソースとなる。
シンプルゆえに塩の代わりに鶏がらスープの素を入れる、砂糖は入れない、胡椒を入れてみるなど好みに応じたアレンジもできる料理だが、最初はまずこのままのレシピで作ってみてほしい。そこから自分の好みや合わせる他の料理や酒、そしてその日の気分で好みの味付けを思い思いに楽しもう。美味い里芋を使えば、大きく外れることはないはずだ。
芋の子汁
さて、東北地方で里芋というと全国的には芋煮のイメージが強いだろうが、実は芋煮は山形県を中心とした南東北の文化である。
北東北、というか岩手県と秋田県では近いものを芋の子汁として食べることはあるのだが、芋の子汁については芋煮ほど味付けや具材の地域的なこだわりは強くない印象がある。
一応は「岩手の芋煮 (芋の子汁)は醤油ベースで具材は鶏肉」と書かれることは多いのだが、実際のところは豚肉を入れる家庭もあれば味噌で味付けをする家庭、なんなら味噌と醤油を両方入れる家庭もある。
なお青森県についてはその寒さの為に里芋はほとんど商用には栽培されておらず、昔から栽培されている芋といえば里芋ではなく長芋である。現在も生産量こそ北海道に抜かれているものの、都道府県面積に対する長芋作付面積の割合については依然青森県が1位となっている。
そもそも里芋の原産地は東南アジア。ご存知の方も多いであろうタロイモのうち、寒さに強いものが選抜されていき北上していったものが現在日本人がよく知る里芋になったらしい。稲も同じく元は東南アジア原産の植物と言われているが、つくづく人類の品種改良能力には驚かされる。
話は大きく脱線したが取り掛かろう。今回の芋の子汁は鶏出汁とたっぷりのキノコ (今回はブナシメジとマイタケ)をベースにし、かつ鰹出汁を使うレシピも多く見受けられたので味どうらくの里 (秋田発祥で現在全国に広まりつつあるめんつゆ。カツオの風味が非常に強いのが特徴) 、そしてゴボウなどの根菜とキノコを使った北東北の定番味付けで行こう。
新米の季節ながらも、芋の子汁はこれだけをたらふく食べたいものだ。
部屋中に広がる香りで胃袋をぐうぐう言わせながら、サク、シャキッ、ホロッと多彩な食感の具材をかっこみ、彼らの旨みがないまぜになり里芋のとろみのついた汁を飲む。
そして全ての主役、ゴロゴロと入った里芋。口に運ぶ度にもっちりと程よい抵抗を見せた後に、存分に吸い込んだ旨みをそれ自身の香りでさらに奥深いものとした味わいを楽しませてくれる。そしてホクホクとした食感に「ああ、芋は主食なのだ」と改めて理解する。
舌と胃袋で感じる豊かな秋の実り。長く冷たい冬を前に、北東北では色とりどりの食材が店頭に姿を現している。
二子里芋は勿論のこと、このブログを読んでいる皆さんの地元の食材も旬を迎えつつあることだろう。
今週末はそんな食材を楽しんでみるのも良いかもしれない。