カンヌキ

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『ルックバック』お話に書く、2つのこと

破り捨てた4コマが京本の部屋に入ってからのパラレルワールドな展開、そこから現在の藤野に届く4コマ、そして藤野はまた描き始める。 漫画を読んだ時は、何だかすごいものを見たと心にダイレクトにぶっ刺さる確かな感触はありながらも、この意味、想いは掴みきれずにいた。 アマプラで公開されたアニメ版を観ていたら、以前観に行った演劇の台詞をふと思い出し、それが補助線となり一気に分かった気がした。 坂元裕二脚本『またここか』だ。異母兄弟が父の死をきっかけに出会うお話。終盤、小説家の兄は、弟か

    • "ルッキズム"の濫用が気になる

      "人を外見で判断すること"の何もかもを"ルッキズム"と非難するのは、本来の主張の価値を損なうんじゃないか? 「採用を顔で選ぶな、職業は能力で選べ」など限定的使用に留めておかないと、せっかくの問題提起が無意味化しそう。 ルッキズムの中でも"美人礼賛"に絞って考えてみる。(ここで言う"美人"とはいわゆる"整った顔"のこと) トップ画像のように、複数人の顔写真を重ねると"美人"が出来上がる。重ねれば重ねるほど"美しく"なる。たとえ全員"不細工"であっても、出力されるのは必ず美人

      • 『ザ・ホエール』人は勝手に救われている

        ※ネタバレあります 「人は誰かを救うことなどできない」 リズの発した台詞が印象に残った。 エリーは悪意から宣教師トーマスの非行をネットに晒すが、それが回り回ってトーマスを救うことになる。率直に書き散らしただけの『白鯨』の感想が、知らないところでチャーリーを感動させ、彼の心の支えになっていた。 対してトーマスはチャーリーを救おうと近づくが、救うどころか"お前のせいでお前の彼氏は死んだんだ"と余計に彼を傷つけてしまう。悪意なく。 (亡き彼氏アランも、聖書の救いの言葉が呪いの

        • 『インサイド・ヘッド2』★5 大満足!

          ※ ネタバレあります 前作の教訓は大人なら知っていることだったけど、今作は大人もハッとさせられる、考えさせられる、一段深いお話だった。 ✳︎ 自我が育って自分らしさの花(セルフイメージ)が咲くと、それに合わないダサい行動や失敗は記憶の彼方にすっ飛ばして無理に忘れようとする… 身に覚えがありすぎる。あの装置は花と対になってるなと。 遠くへ飛ばした不都合な記憶が花を作る泉になだれ込み、いろんな想いを発するカラフルな花を咲かせ、心が安定する…ここが圧巻!痺れた! 不安に飲

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          『SCIENCE FICTION』走馬灯とトラルファマドール星人

          (※だんだんポジティブになっていく文章です) 宇多田のベスト『SCIENCE FICTION』の曲順、どうしてこうなった?リリース前から謎だったけど、実際に通して聴いても尚しっくりこなかった。 1から作り直した再録から始まるのは分かる。ディスク1最後が活動休止時の『Goodbye Happiness』2は最新曲『Electricity』なのも分かる。でもその間の並びはというと、音楽性やストーリーのリンクを見い出せる箇所は少なく、展開も不自然に感じられ、全体的にチグハグな印

          『SCIENCE FICTION』走馬灯とトラルファマドール星人

          『哀れなるものたち』カエルの子はカエル

          この作品は絶賛勢が語るフェミニズム、リベラリズム、ビルドゥングスロマン、人間讃歌などのポジティブパワーを確かに受け取れはする。エンパワーメント!ないい話と思って観たらいい話には見えてくる。 しかし自分はどうもそれら絶賛レビューのいくつかに引っ掛かりを覚えた。これ、そんな話なのか? キルトの壁やダンスシーンなど好きな所はたくさんある映画だが、その違和感の方を言語化してみようと思う。結末を重視する為ネタバレあり。 ベラは圧倒的強者 「独善的で差別的な男性達の支配に抗い、主体的

          『哀れなるものたち』カエルの子はカエル

          『セクシー田中さん』原作者自殺で考えたこと

          セクシー田中さんの原作者が自殺してしまった。ドラマが好きだったから、争いが起きたことも、こんな事態になってしまったことも、ただただ悲しい。当初からいくつか思うところがあったので書いてみる。 誰に責任があるのか 自分は当初、制作過程における作家同士の衝突の責任はプロデューサーにあると思った。「原作に忠実ならドラマ化OK」と原作者が厳しく条件付けした企画に対し、作家性の強い脚本家をプロデューサーは連れてきた。こんなプロジェクトが問題なく進むはずがない。 でも、プロデューサー

          『セクシー田中さん』原作者自殺で考えたこと

          過去1!『ゴジラ-1.0』

          今まで観たゴジラ映画で1番だった。特に良かったところを羅列してみる。(※ネタバレあり) 物語に入り込める 過去1で物語にグッと入り込めた。過去作の主人公がゴジラに立ち向かう動機は主に「国家を守る為(利他)」だったけど、本作は「自分の戦争を終わらせる為(利己)」で、これが大きかったと思う。 死闘へ挑む動機が世の為人の為という立派な正義感や義務感だけでは、私には人間ドラマとしては弱く映る。個人のドロドロとした情念が乗っかって初めて"人間の話"になり、心が乗っかる。 人間が

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          ヘルプマークの件を整理しておきたい (3)今後の付き合い方

          私の見解をまとめる。 椎名林檎は"余生モード"に入った気のゆるみから、深く考えず軽率にヘルプマークを模したグッズを作り世に発表してしまう。(本人は関与) 体の弱い人達に不安を与えておきながらダンマリを決め込み、立場の弱い者に罪(過失)を着せて逃げた。 公式発表との辻褄を合わせる為、その後のツアーでは予定していた赤十字などの医療イメージを排し、間に合わせの即席モチーフで穴埋めをした。 ツアー中発表した新曲の中に本件への言及を混ぜ込んだ。それは謝罪や懺悔ではなく自己弁護・

          ヘルプマークの件を整理しておきたい (3)今後の付き合い方

          ヘルプマークの件を整理しておきたい (2)私の反応/新曲を読む/失態の原因

          前回、椎名林檎は『百薬の長』グッズ制作に関わっていたと判断するまでの経緯をまとめた。 「間違ったことをしたけど謝らず、立場の弱い者に罪を着せて逃げた」 簡単に言うとこれが私の結論だ。こうやって書くとほんと最低だ。秘書を身代わりにする政治家と同じ。 今回はヘルプマーク酷似グッズに焦点を絞り、赤十字や大塚製薬、ファイザーへの権利侵害の件は脇に置くことにする。体の弱い人達に強い不安を与えた、生活を脅かした、その点に強い憤りを感じ、その嫌悪感を引きずっているからだ。 ヘルプマーク

          ヘルプマークの件を整理しておきたい (2)私の反応/新曲を読む/失態の原因

          ヘルプマークの件を整理しておきたい (1)本人関与の是非

          私は『無罪モラトリアム』が発売された頃から聴いている長年の椎名林檎ファンだ。すんごい今更ではあるけどヘルプマークの件をあらためて整理しておきたくなった。 あの騒動以降、ファンをやめるほど嫌いにもなれず、気持ちの整理がつかないまま何となく蓋をして、その後の活動も追ってはいた。でも事あるごとにあの嫌なモヤモヤが意識に上がるのだ。 上がらない時は問題ないという訳でもない。「ああそういえば」が増えた。前は即飛びついていた新着情報もだんだんと後回しにするようになった。0時公開の楽曲

          ヘルプマークの件を整理しておきたい (1)本人関与の是非

          なぜか気づかなかった宇多田ヒカルの音楽的特徴

          宇多田ヒカルの音楽性について彼と話していたら、2つの音を交互に繰り返すメロディーが思いのほかたくさんあることに気づいた。ファーストアルバムから順に調べたらなんと54曲も見つかり、これって宇多田音楽の根幹を成す重要な要素では!と興奮した勢いで動画にまとめた。 2.5回の反復(5音)は一般的によく使われるので、3回以上を基準にカウントした。『甘いワナ』や『For You』のサビ頭など印象的で目立つものは2〜2.5でも含めた。(つまり主観的ないい加減なものではある) デビュー当

          なぜか気づかなかった宇多田ヒカルの音楽的特徴

          『鬼滅の刃』ティーセットを落とさないメイド

          刀鍛冶の里編の最終話、見所はたくさんあったけど無惨様に殺されるメイドが地味に印象に残った。運んできたティーセットを最期まで落とさない、というのが。(非難ではなく良かったよって話ですからね) 隣にいた奥様の首が飛んでも、仕えていた坊ちゃんが鬼だったと分かり恐怖で震えても、両手はトレーを持ち続け、食器が倒れることもない。 単に"恐怖のあまり硬直し身動きが取れない"のであれば、"顔も硬直しまともに言葉も発せられない"という表現になるのが普通だ。でもこのメイドは首から上は狼狽をその

          『鬼滅の刃』ティーセットを落とさないメイド

          『怪物』シナリオブックを読む

          怪物のシナリオブック、結末が違うとか映画には無いシーンがあるとか耳にしたので気になって読んでみた。 この本は坂元さんの作品であるのに、読み進めるなかで繰り返し感じたのは是枝さんの凄さだった。ここからの取捨選択や肉付け、すべてが正しく思えた。映画を観た時は坂元さんの巧さ、凄さの方を強く感じ、脚本賞も納得だと興奮した。映画を観て脚本に感嘆し、脚本を読んで演出に同じだけ感嘆した。 こんなテレコ体験は初めて!このお2人だからこそ起きた現象なんだろう。あーおもしろい。 * この決

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          『怪物』 私を救った音を出したのは、私が憎む人かもしれない

          前回悪ふざけが過ぎた気がしたので、しっかりめの感想を書いておきたくなった。総評ではなく特に印象に残った点のみ深堀りし、羅列します。(※ネタバレあり) 1. 遠くにぼやけて映るテレビ、近くでくっきり見えるテレビ早織視点の第1章では、画面奥のリビングのテレビに映る、ドッキリを仕掛けられ驚くぺえの姿は誰か分からない程ぼやけている。それが3章の湊視点ではカメラはテレビに寄り、フォーカスがしっかりと合う。 湊のクラスでは友人の依里がドッキリと称したいじめの標的になっている。 早織

          『怪物』 私を救った音を出したのは、私が憎む人かもしれない

          映画『怪物』 4DX?テーマが立体的に押し寄せる劇場体験

          待ちに待った『怪物』を観に行ったら思わぬ"荒行"を受けてしまったという話を臨場感たっぷりにお届けします。(※軽いネタバレあり) 後方から声。ハズレ席に落胆 「ゴホゴホ、ア‶ア‶、ン‶ン‶、オ‶オ‶ン、ア‶ー、ウン」 上映が始まってすぐに、右斜め後方3メートル先の席に一定の間隔で咳き込み鬱陶しそうに喉を鳴らす中高年の男性がいることに気がついた。 ノイジーなオジボイスが坂本龍一の静かな音楽を気ままに切り裂く。今日の席はハズレか…。 あ、そういえば後ろの席はプレミアムシートだ

          映画『怪物』 4DX?テーマが立体的に押し寄せる劇場体験