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『ザ・ホエール』人は勝手に救われている

※ネタバレあります


「人は誰かを救うことなどできない」
リズの発した台詞が印象に残った。

エリーは悪意から宣教師トーマスの非行をネットに晒すが、それが回り回ってトーマスを救うことになる。率直に書き散らしただけの『白鯨』の感想が、知らないところでチャーリーを感動させ、彼の心の支えになっていた。

対してトーマスはチャーリーを救おうと近づくが、救うどころか"お前のせいでお前の彼氏は死んだんだ"と余計に彼を傷つけてしまう。悪意なく。
(亡き彼氏アランも、聖書の救いの言葉が呪いの言葉に変わり、それに蝕まれ死に至る)

"救い"をめぐって、エリーとトーマスは対比関係になっている。

私はリズの台詞を元に、この映画からこんなテーゼを読み取ってみた。
「意識的に誰かを救ってあげようと前のめりになっても、それはなかなか上手くいかない。空回りして、逆に追い詰めてしまったり。
人は誰かの発したものに、本人の意図とは関係なく勝手に救われている。人が本当に救われる時って、そういうものだったりするんだ。」

チャーリーは「正直であることがなにより大事だ」と娘や生徒に繰り返し伝えてもいた。
どれだけ刺々しく乱暴な表現であっても、正直な言葉が結局は人の心を打つし、誰かを救えることがあるんだ、と言ってるように私には思えた。

宇多田ヒカルを連想した。
彼女は徹底的に自分と向き合い、自分にとことん正直に、自分を救うために歌を書く。そういう歌が、数百万の人の心を救っている。「百万人を救いたい」なんてまったく思っていないだろうに。

私自身「誰かの助けにもなれば」を動機に発信することがあるので、助け、救いというものについて少し考えてしまう映画だった。

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