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佐渡国際トライアスロンでASTROMANになった話

2023年9月2日、佐渡島で開催された第35回佐渡国際トライアスロン大会で、国内最長距離236.2kmのAタイプ (Astro Type)に初挑戦し完走してきた。例年にない酷暑の中、ラスボスと位置付けた難関の大会を丸一日走り続けて何を得たのか。

佐渡トライアスロンまでの道のり

ラスボス「佐渡A」エントリー決意

国内にはロングディスタンスのトライアスロン大会が4つある。宮古島(4月)・長崎五島(6月)・皆生(7月)・佐渡(9月)、このうち最も総距離が長いのが佐渡Aタイプ: Swim 4km, Bike 190km, Run 42.2km である。2011年に日テレ「行列ができる法律相談所」でタレントが挑戦したことで一般にも知られるようになったが、今年で35回目を迎える歴史ある大会。トライアスリートの中では佐渡Aを完走して与えられるASTROMANという称号は憧れの変態さんであり、ラスボスである。

私が2016年にトライアスロンを始めてから今年の宮古島トライアスロンを完走するまでの経緯は、前の記事「宮古島トライアスロンでSTRONGMANになった体験記」に書いた。佐渡Aには憧れつつ、様子見のために距離が半分の佐渡Bタイプに今年参加しようと考えていた。それがいきなり佐渡Aに挑戦することを決めたのは、宮古島トライアスロンを完走したその夜だった。トライアスロン仲間のヒロさんと打ち上げで祝杯を挙げていると、ヒロさんが「カンジさん、せっかく佐渡行くならAで大丈夫ですよ」と背中を押してくれる。宮古島完走して気が大きくなってたし、来年になると還暦を迎える私にとっては先延ばしして体力劣化が進む前に長い距離をやった方がいいか、などと自分に言い聞かせて佐渡Aにエントリーを決意した。

苦手スイム対策

私は3種目の中でスイムが大の苦手。宮古島での3kmでもほぼ最下位で関門時間ギリギリ通過だった。佐渡のスイム4kmへの対策しないと序盤から厳しい戦いとなる。これまでスイム練習は金曜日夜のNAS吉祥寺トライアスロンスクールが中心だったが、練習量を増やすことにした。在宅勤務で夕方の自由度が増えているので近所の武蔵野市営プールに平日1~2回、2500mくらいずつ泳ぐことを増やした。

また、プール練習に加えて海で泳ぐオープンウォータースイムの練習を加えた。宮古島でもそうだったが海でウェットスーツを着て波にもまれ、バトルに巻き込まれながら泳ぐのに不慣れで心拍数あがりすぎたり逆におっかなびっくりのジグザグスイムになったりしていた。そこで、オープンウォーターの練習会をやっているLuminaの湘南海岸でのOWS練習会に6月と8月の2回、その間に練習レースとして伊勢志摩里海トライアスロン(Swim 2km)を入れてオープンウォーター対策した。

酷暑の中のトレーニング

今年の夏は「地球沸騰化」という言葉が生まれるほどの酷暑で、昼間に外を走るのは危険。結果としてバイクは週末の午前中のみ、ランは夕方を中心に5km前後の短めの距離で終わることが多く、佐渡に向けた対策としては不安を残したが、NAS仲間と彩湖でブリック練習(バイクとランを交互に行う練習)を入れたりして暑熱順化だけはしておいた
東京があまりに暑いので、日本アルプスへ2度テント泊登山し、2~3日テント担いで身体を動かし続けて持久力強化もできたと思われる。

レース前

初の佐渡島上陸

佐渡島への移動はレース前日の土曜日朝。自転車を輪行袋に入れ、上越新幹線「とき」で新潟へ。新幹線各車両後方の荷物スペース近くには佐渡へ向かうトライアスリートがたくさん。新潟港からは高速ジェットフォイルに乗り、約1時間で佐渡島へ。11時前に佐渡島着いたときは土砂降りの雨。前日から佐渡に入っている仲間たちからLINEで今朝のスイム試泳の情報が入ってくるが、水温29℃と高く、クラゲが大発生しているという。酷暑で土曜日行われるはずだったジュニアトライアスロンが中止となり、本番の開催がどうなるのか不透明な状況だった。

午後から雨が上がったので両津港近くのホテルから自転車自走で約20km離れた大会会場へ選手受付と自転車預託へ。途中の田んぼに目をやると朱鷺(トキ)がほんとにエサを獲っているところに遭遇。佐渡島ではほんとに朱鷺が野生に復活してきてるのね。

相部屋万歳

2000人の選手に加え関係者が一度に佐渡島に渡るので宿泊施設はいっぱいで、常連トライアスリートは毎年同じ宿を連続で押さえている。初めて行く私は大会スポンサーでもある日本旅行のツアーを利用した。宿は両津港からすぐのところにある「朱鷺伝説と露天風呂の宿 きらく」。加茂湖越しに金北山の稜線が絶景の素晴らしい宿だった。

温泉宿「きらく」から加茂湖越しに金北山方面をのぞむ


温泉宿にトライアスロン選手4人の相部屋でもちろん初対面なのだが、同じ目的を持つもの同士ですぐに打ち解けお互いに情報交換も進み、一人で悶々とするより相部屋の方がよいかもしれない。夕飯は豪華な海鮮料理をいただいて夜8時半には消灯した。レース前日興奮して寝付けないことが多いが、今回は温泉に入って身体もリラックスしたのかしっかりと睡眠がとれた。

温泉宿「きらく」の豪華な夕飯 ズワイガニつき

レース当日朝

ホテルにバスが迎えに来るのが3:45なのでその1時間前の2:45起床。用意してくれたおにぎり弁当を無理やり胃袋に押し込んでから出発。同部屋の他の3人は30代の若手たちだったがお互いの健闘を祈ってそれぞれがトランジションエリアへ。空は満天の星空で今日は晴天猛暑が予想される。午前4時に本日のレース開催内容が判断されるという事だったが、「予定通りの距離で開催します」「クラゲ大発生しているのでウェットスーツ着用を強く推奨します」とのアナウンスを聞きながらスタートの準備を進めた。

相部屋仲間たちと出陣の記念撮影

レース本番

レースプラン

佐渡Aは朝6時スタートして、制限時間15時間半、夜21時半までにゴールしなければタイムオーバー。途中にたくさん関門時間が設定されており関門クリアできなければその場で終了。私の目標はあくまで完走なので、飛ばし過ぎて熱中症になって棄権することは避けたい。最後のランスタートの関門は16:30なのだが、最後のフルマラソンを5時間というのは疲れた後半にほぼ無理なので5時間半は見ておきたい。あわよくば15:30にランスタート、最悪でも16時までにランを始めることを考えると、スイム1:45でトランジションしてバイクスタート8時。バイク7:45以内で16時までにランスタートというのが最低限のプラン。

スイム 4km :苦手克服なるか

スイムコースは1周2km (900m+200m+900m)の三角形のコースを2周する。朝の水温も29℃と高いが、波もなく穏やかな気象条件。水温高いので袖なしウェットスーツだがクラゲ対策でアームカバーをつけた。

6:00 スイムスタート前 後ろにスイムコースのブイが見える


スイムはAタイプに出場する約1000人が一斉にスタートするからスタート直後はバトルに巻き込まれる。宮古島での失敗から学び、今回はアウト側の後ろの方からスタートした。そのおかげでスタート直後のバトルは少な目、飛ばし過ぎないよう注意し、遠くの第1ブイを確認しながら前の集団についてドラフティングして泳ぐ。スイムは水の抵抗を避けるために前の人の斜め後ろについて泳ぐのが最も効率よいので、ペースが似ている人を見つけてついて行った。ブイ周りでは慣れない人が前を見ないで突っ込んできてパンチ食らったり、突如平泳ぎ始めた人にキックを食らったり。集団後方についたままで1周目終わって時計を見ると46分。早くはないが、50分以内ならオッケーというプランだから悪くはない。

2周目もほぼイーブンペースで半分以上泳いでいたところで首元にチクっとクラゲにやられた。クラゲの触手は慌てて触ると被害拡大するというのでクラゲに構わず泳ぎ続ける(首元にミミズ腫れできていたのに気づいたのはレース翌日の朝)。

2周目終わってタイムを見ると1時間34分。スイムアップしてトランジションエリアに戻るとバイクが半分ほど残っている。いつも閑散としたトランジションエリアに取り残されている私にしては上出来と言える。
スイム結果: 1:34:19 Swim順位 716位

スイムアップ、シャワーを浴びてバイクへのトランジションへ

バイク 190km :佐渡の絶景満喫

佐渡Aのバイクコースは佐渡島をほぼ一周する190km。フラット基調ではあるのだが海岸線は細かいアップダウンがあり、有名なZ坂というつづら折りの登りと、大野亀という景勝地の登りが前半大佐渡のお楽しみ。

佐渡トライアスロン バイクコースマップ

ちょうどZ坂に差し掛かったところでNAS吉祥寺仲間のHさんと並び、談笑しながらZ坂から海岸を見下ろす絶景を楽しんだ。レースじゃなければ止まって記念写真を撮りたいところ。

景勝地「大野亀」をバックに登り坂
カメラマン見つけて笑顔作る余裕あり


両津港を過ぎ、小佐渡へ入るとしばらくフラットな海岸線。DHポジションで淡々と進む。今回から新機材エアロバイク投入でDHポジションの直進巡航に必要なパワーが少なくなったのでだいぶ楽。後半は暑くなってきてエイドで氷水をボトルに入れてもらい首筋を冷やしながら熱中症防止
今回のバイクでの補給で気を付けたのは、脚攣り防止の2RUNを早めにとりながら先手先手の脚攣り対策。バイク前半後半で各1包をとった。
160km地点の最後の坂である小木坂で脚がプルプル来たけれど一度も激しく攣ることはなかった。小木坂を越えるとあとはメイン会場まで下って終わりと油断していたら、そこからが海沿いの強烈な向かい風。漕いでも漕いでも進まずメンタル削られた。
バイク結果:7:35:16 Bike順位 416位、通過順 493位にアップ


ラン 42.2km :灼熱の海岸沿い

ランスタートで時間を見ると15時16分くらい。予定より早く、これは1時間以上余裕を持って完走できる楽勝ではないかと気持ちが緩む(大いなる勘違い)。沿道の仲間から声をかけてもらいながら元気よく海岸沿いのランコースへ走り出した。ランコースは海岸沿いを往復してから最後の2kmほど商店街を走る1周10.5kmを4周回。

ランスタート時はとっても元気、トライアスロン仲間に手を振る余裕

快調だったのは走り始めて2kmほどのエイドまで。日陰の無い海岸沿いで西日を正面から浴び、地面から強烈な照り返しを受けているのですぐに体温が上昇してしまう。エイドに着くたびに頭から冷や水を浴びせてもらうことに。宮古島と違ってスポンジの提供がなかったので手や顔と腕のアームカバーをびしょ濡れにした状態で走る。すぐに1km 7分ペースもキープできなくなり、2周目には1km 8分ペースにまで落ちてきた。とぼとぼと歩くようなスピード。周囲には熱中症になって倒れこんでいる選手の姿も目に入る。これ以上速度が落ちるようなら制限時間が気になり始める。
私が着ているLIXILユニフォームはとても目立つので、仲間が見つけて声をかけてくれるし商店街の皆さんが「LIXILがんばれ~、遅かったじゃないの~」みたいに覚えて声かけてくれる。

ようやく日没過ぎた3周目

3周目からようやく日が沈んで涼しくなってきたので若干ペースを7分半ペースまで上げてみたが長続きせず、いよいよラスト4周目は真っ暗で涼しくなったのに足が前に出ない。1km 8分半くらいのとぼとぼペース、ゆるい登り坂は歩くという形で何とかゴール地点に辿り着いた。
ゴールした時間は20時54分。制限時間まで36分しか残ってなかった。
ラン結果:5:37:26 Run順位 521位、トータル 14:54:11 484位
完走者663人。完走率69.5%

感動のゴール。どのレースよりも格別な想いがこみ上げる

トライアスロンは巡礼の旅

15時間も丸一日酷暑の中を走り続ける佐渡トライアスロンは誰が見てもクレイジー。灼熱の海岸沿いを走りながら、「これは宗教だな」という想いを強くした。最近読んだ本「人生後半の戦略書」(アーサー C ブルックス著)に、世界のいろんな宗教が持つ巡礼という習慣のことが書かれていた。聖地を巡ることそのものに実は意味がなく、そのためにいろんな人に出会い、計画し、ひたすら歩き続けることで結果的に心身ともに健康になるのが巡礼だと言うのだ。確かに日本におけるお遍路さんも山岳信仰の修験者もそうだったのだろう。交通の発達した今の時代、トライアスロンや日本百名山巡りなどがそれに置き換わっただけとも言える。私を含めたシニア世代がせっせと取り組むことに意味をもたせるとすればそういう事かもしれない。
佐渡島の皆さんの温かい声援と、エイドのボランティアの皆さんに支えられて大会が無事成立し、満足感を得ることができたことに深く感謝します。
さあ次はどこへ巡礼に行こうかな。もう佐渡Aのことはしばらく考えたくないけど。

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