わたしの心は炭酸リチウム
炭酸リチウム。フルボキサミンマレイン酸塩。ゾルピデム。不安時のクエチアピン。
わたしのいまの処方薬。
鬱病の人間で、「向精神薬って、本当に効果があるのだろうか?」と考えたことのない人間はいないだろう。わたしも例に漏れず、今日も爪先に懐疑を込めて錠剤を押し出した。3錠をまとめて喉に押し流せば、きっとあっという間に胃にたどり着く。辿り着いた彼らは、わたしの脳に、一体何をしてくれているのだろう。
鬱と診断されて薬を飲むようになってから1年くらい。わたしは副作用が出やすい性質らしく、何度も何度も薬を変更している。胃腸にくるとは聞いていたけどこんなにか?と何かに八つ当たりをしたくなるほど嘔吐が続いたり、発汗や焦燥感、動悸でまともにそこに立っていられなくなったり、やっと合う薬が見つかったと思ったら飲み合わせに問題が生じたり、今の組み合わせに落ち着くまで何種の薬を試しただろうか。数えたくもない。
向精神薬というのはよくわからない。薬の何がどうしてくれて心が落ち着くというのだろうか。当然、飲んだ途端に心が明るくなって、死にたい気持ちがなくなる!なんてことが起こるわけではない。ゆっくりと時間をかけて作用すると言われるけれど、ゆっくりと時間をかけていったい何をしてくれているというのだろう。少なくともまだ死んでいないというのが、効果の現れなのかもしれない。
目の前に並ぶ向精神薬のパッケージを見やる。
炭酸リチウム。
ウケる。リチウムて、めっちゃ元素じゃん。元素番号3のLi、ろくに行かなかった中学校の特別室で先生と2人きりで勉強したアレじゃん。知ってるよ、電池とかに使うやつでしょ。リチウムイオンバッテリーとかさ。じゃあさ、わたしってこころを安定させるために、iPhoneとかと同じバッテリー使ってるってことなんじゃない?
くすくすと笑いながら錠剤をつついた。錠剤は白くて、ちょっと大きくて飲みにくくて、なんの味もしない。
やっぱり飲んでもわかんないな。わかんないけど、わたしのこころにリチウムがチャージされたのかもしれない。わたしのこころは炭酸リチウムを電池にして、細々稼働しているのかもなあ。