拝啓、先生へ
身体が芯から冷える季節になりましたね。先生はあの頃のような熱い心で、またこの冬を乗り越えておられるのでしょうか。
わたしは先日、新年初のカウンセリングに行ってまいりました。
そこで先生のことを、心理士さんにたくさんお話ししてきました。
わたし、先生にお伝えしたいことが、お伝えしなければならないことがあるんです。
中学2年生の夏。わたしは学校に通うことが出来なくなりました。理由は部活内での悪口や無視といった所謂いじめがクラス内に伝播し、クラスメイトの女子ほとんどに無視をされるようになったからです。
先生はその事にお気づきだったのでしょうか。それともわたしが突然来なくなったことに驚かれ、困惑されたのでしょうか。
先生はわたしが学校に通えるようにと、様々なことをしてくださいましたね。
朝、家まで迎えに来てくださったり、放課後に明日は来られるかとお電話をくださったり、来られた日にはクラスのみんなにわたしが来たことを大きな声で知らせたり。
わたしが最初に学校へ通えなくなったきっかけは確かにいじめでした。
しかし途中から通えない理由は、先生、あなたになっていきました。
わたしは家の電話の着信音に震えるようになりました。朝、玄関から先生いらしたわよとわたしを呼ぶ祖母の声に耳を塞ぐようになりました。教室についたら、机に突っ伏して涙を隠すようになりました。
先生はきっとわたしのために、わたしが学校へ通えるように、力を尽くしてくださったのだと思います。そのこともわかっているんです。
それでも、今ならわかります。それらが全て逆効果であり、わたしの心を粉々に砕いたこと。
先生はわたしの自他境界線を軽々と飛び越えてこられましたね。わたしはそれが何よりも怖かったのです。わたしの拒否は先生に伝わらないことが、何よりも悲しかったのです。学校へ行けるように家から無理やりに連れ出すのではなく、学校へ行けない、行きたくない、というわたしの心を尊重してほしかったのです。
先生が今どこで何をしていらっしゃるのか、わたしは存じ上げません。お歳の頃からいって、もう教師は引退してらっしゃるかもしれないな、と思います。そして、わたしのことなど少しも覚えていらっしゃらないだろうな、とも思います。たくさんいた生徒のひとりでしかないでしょうから。でも、たくさんの不登校の生徒が、先生の行動によって、わたしと同じ気持ちになったのではないかと思います。
わたしは今うつ病の診断を受けていて、カウンセリングでそのルーツを探っています。そのルーツのひとつがあなたでした。わたしの自他境界線の薄さや他人への警戒心の強さ、ひとに心を開くことが出来ず、自分の意見よりも他人の意見の方が強く自分の意見は通らないものだという考え。そういったものがあなたのその熱血指導からきていたことを、どうかわかってほしい。どうか知ってほしい。そんな気持ちでわたしは今、この文章を綴っています。互いの素性を明かしていない時点で、先生ご本人に伝わる日はこないこともわかってはおりますが。
もしも今この文章を読んでいる方の中で、教師を生業とされている方がいらしたら、特に不登校児に頭を悩ませている方がいらしたら、どうか参考にしてはいただけないでしょうか。「学校に行こう!学校は楽しいところで、来たら先生が守ってやれる!」といった所謂熱血指導は生徒のこころを壊します。まずはどうして来られないのか、その子のお話を聞いてあげてください。その心にどうか、寄り添ってあげてください。
先生、ごめんなさい。
わたし、先生が何よりも怖かったです。
まだまだ寒い季節は続きます。どうかお体にお気をつけて、わたしも先生も心穏やかな日々を過ごせることを願っております。
9年前、先生の熱血指導により、こころを壊されてしまったひとりの生徒より。
敬具