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第1夜 お酒はぬるめで 採用試験会場に流れた「舟唄」


 人生で大事なことの多くを酒席で学んだ。どこかで読んだような書き出しだけれど、「日本酒王国」と呼ばれる新潟で40年、地元紙記者を務めてきた身としての実感だ。
 入社は1982(昭和57)年。男女雇用機会均等法もセクハラという言葉もまだ存在しておらず、新聞記者は大半が男性だった。新潟日報社で10年ぶりに女性を採用することになったと聞き、面接を受けに行った。同社はロッキード事件報道を巡って地元出身の田中角栄元首相と対峙し、注目されていた。
 1次面接の会場は、新潟市内のビル。集合場所に指定された会議室のドアを開けると、ハスキーな歌声が耳に飛び込んできた。
 ♪お酒は ぬるめの…
 「すみません、間違えました!」。慌ててドアを閉めた。
 資料を確認すると、やはりここだ。向こう側からかすかに聞こえてくるのは、八代亜紀の「舟唄」。ぬる燗の肴は、あぶったイカでいいんだっけ。…いや、問題はそこではない。
 後で聞いた話では、面接のために集まった学生の緊張をほぐすため、ラジオの演歌番組をつけていたのだという。「ヘンな会社だなあ」と親近感が湧いた。
 入社して驚いたのは、何かにつけ、飲み会が始まることだった。新潟の人たちはあまりお上手は言わないけれど、「一緒においしいものを食べよう、飲もう!」という意識は強い。酔って「新聞は男の世界だ。女に事件取材ができるのか」と説教する先輩もいたけれど、多様な職業と人生観を持つ人たちと語り合える酒席は、私の人生を豊かなものにしてくれた。
 日本酒のイメージが強い新潟だが、近年は地ビールやワイン、ウイスキーなどの造り手が増えてきた。日本海の幸をはじめ、美味佳肴は山ほどある。酒や食にまつわる歴史や人間ドラマは分厚い。新潟発のほろ酔いコラム、始めます。
(トップの写真はわが家の「新潟つまみ」。下記では猫おかみ動画も見られます)

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