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第11夜 1997年の日本シリーズ 涙の焼きそばとヤクルト「つば九郎米弁当」

 プロ野球セ・リーグの東京ヤクルトスワローズと、ものづくりのまち、新潟県燕市が交流していることは、ご存じだろうか。
 ツバメ(スワロー)の市名が縁となり、燕市では2011年からヤクルトファンを招いた田植えイベントなどを行ってきた。球界屈指の人気マスコット、つば九郎がフリーエージェント宣言をした時には、オファーを出したほどだ。
 ヤクルトスワローズを巡っては、ちょっとした思い出がある。生まれて初めて観戦したプロ野球の試合が、野村克也監督率いるヤクルトが制した1997年の日本シリーズだったからだ。対戦相手は、東尾修監督率いるパ・リーグの西武ライオンズである。
 実を言うと、プロ野球は「おじさんのスポーツ」という印象が強く、あまり興味がなかった。ところが96年4月、勤務していた新聞社で、整理部(見出しやレイアウトを担当する部署)に配属された。半年後には、スポーツ面を組むことに。トップチームの試合は見ておきたい。休みの日に新幹線に乗り、東京・神宮球場に出掛けた。
 私が観戦したのは10月21日の第3戦。さすがに混雑していて、地下鉄駅から球場までずいぶん時間がかかった。道路わきには焼きそばなどの露店が並び、そこも長蛇の列。ジャンパー姿の「ダフ屋」が寄って来て、「いい席あるよー」とささやく。学生時代に大学野球の早慶戦を見に来たことがあったが、もっとわいざつな雰囲気だ。
 たまたまだが、私の座席はヤクルト側だった。「東京音頭」を歌い、ビニール傘を振って応援するのが、ヤクルトファンのスタイル。渦巻く熱気に押され、私もいつの間にか、一緒に声を張り上げていた。試合は5対3でヤクルトの勝利。捕手の古田敦也が8回裏に本塁打を放った時には、歓声で球場がぐわんと鳴った。
 ああ、どんなスポーツも生はいいなあ。興奮して、お腹がすいたので、露店で買ってきたソース焼きそばを食べることにした。…えっ? 箸が止まった。味はひどく塩辛く、麵は油でギトギト。肉が少ないという不満はよく聞くが、キャベツもろくに入っていない。材料費をケチったのだろう。無理にのみ込むと、じわりと涙が出た。球場内の売店で買うべきだった。これまでの人生で一番おいしくない焼きそばの味は、乱舞する傘の光景とともに、記憶に刻まれた。
 時は流れ、神宮球場では「つば九郎米弁当」が売られているという。つば九郎米は、ヤクルトとの交流から生まれた燕市産のお米。農薬や化学肥料を減らして作ったコシヒカリと聞けば、うまそうだ。私は相変わらずプロ野球には詳しくないけれど、いつかこのお弁当とビールをお供に、神宮でヤクルトの試合を観戦したい。応援用の傘も忘れずに。
(写真は燕市内のマンホールのふた。ツバメのデザインがかわいい。♥スキを押していただくと、猫おかみがお礼を言います。下の記事では、レトロな自販機で知られる燕市のドライブイン兼ホテル「公楽園」や純喫茶などを紹介しています)


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