コーチングの歴史が面白過ぎた件
ご無沙汰です。
コーチングの講座を開催する機会が今週にあるのだが
その歴史が面白過ぎたので少し紹介させて頂きたい。
コーチングの歴史を一言で表すのであれば
「新自由主義的(自己啓発的)市場を加速させるためのツール
であり援用としての歴史」だと私には感じられた。
もちろんこのコーチングに対する歴史観は
私の個人的主観であり絶対的なものではない事を
最初に付け加えさせていただきたい。
皆さんも疑問に思われていないだろうか?
そもそもコーチングは何故ここまでの流行と
繫栄を極めてきたのか?
カウンセリングよりもコーチングの方が
どちらかと言えば何か自分の新しい可能性を
花開かせてくれるのではないかという
期待を持ってしまうのは私だけなのだろうか?
※もちろんカウンセリングを低く見ているつもり毛頭ない。
コーチングは元々はスポーツの指導者や
ビジネスマンが用いる行動変容技法の
1つであったものが何故
心理学分野に進出し特に「ポジティブ心理学」
がその役割を強く担うようになったのか?
そこに至る壮大な歴史を概観していきたい!
それでは始めよう!
①コーチングの語源
コーチングに精通されている方ならばおそらく
有名であろう語源の背景である。
「コーチ」は、中世ヨーロッパの交通の要所で
馬車の産地だったハンガリーの
「コチ」(Kocs)の町に由来している。
コチの町は活発な貿易中心地であった。
鉄製のサスペンション(路地凹凸の緩和緩衝装置)
を使った快適なコチ産の大型馬車が
「コチの馬車(コチ・セケール)」
と呼ばれるようになりヨーロッパに広がった。
やがて「コチ」という言葉がヨーロッパで
普通名詞化していったそうだ。
16世紀半ばからヨーロッパの言語として
幅広く使われるようになり、
「人を目的地まで連れて行ってくれる」という
類似(アナロジー)から鉄道やバス、
運転手付きの自動者(タクシー)もコーチと
呼ばれるようになっていった。
馬車に替わる乗り物を意味する言葉全般に
「コーチ」という言葉が使用されている。
※「コーチ」物理的なもの全般を指す言葉として
用いられていたことが個人的な驚きだった。
②人に「コーチ」が使用され始めた18世紀
1830年頃、オックスフォード大学の学生間
の特定の階層において試験対策のための
家庭教師を雇っていたそうだ。
家庭教師を雇って楽に試験を合格する学生に対し
楽な乗り物に乗っている事に例えて
揶揄(からかう)言葉として,家庭教師は「コーチ」と
通称されるようになったそうだ。
この歴史的な背景から、コーチという言葉は、
「目標達成を支援」する存在として、
教育やスポーツなどさまざまな
分野で発展してきたとされている。
1885年にボート競技の指導者として「コーチ」
が使われ始め徐々にスポーツの分野の
指導者もコーチと呼ばれるようになる。
③19世紀後半ではビジネスに応用される
1950年代にハーバード大学の助教授で
あったマイルズ・メイス氏が
著書『The Growth and Development of Executives』
で以下にコーチングの重要性を述べている。
④人間性回復運動とコーチングの関連
1960年代以降ベトナム戦争とそれに対する
反戦運動や学生運動が盛んだった時代に
アメリカ西海岸を中心に人間性回復運動が
社会的ムーブメントとなった。
その様な時代の中ヒッピー文化を
はじめ自己啓発法やそれに関した共同体が誕生した。
その中の有名なものに「エサレン研究所」がある。
エサレン研究所では瞑想やヨガやボディワーク等
の東洋思想以外にもロジャーズやマズローや
パールズなどの心理療法家が来談しセミナー
やワークショップを開催したと言われている。
そして何とエサレン研究所ではコーチングのセミナーも
伝えられており、特にロジャーズのカウンセリング技法
の影響は大きいとされている。
⑤コーチングが世に広がるきっかけを作った人物と接点である【EST】について
さてここからが本番である。
少し小難しい話だがついてきて頂きたい。
まず【EST(エスト)】についてだ。
ウェルナー・エアハルドと呼ばれる(いわくつきの)人物が
エスト【Erhard Seminars Traning】と呼ばれる
自己啓発セミナーを開催した。
【EST(エスト)】とは禅の影響が強かった
人間性回復運動をビジネススーツに身を包んだ
トレーナーによって開催される自己成長と
経済的成功のセミナーに変化させた
と指摘がある。(アンダーソン,2004)
しかしその実態は成功哲学に強く傾倒するが
その強引な手法により社会問題となった。
そして何とこの【EST(エスト)】に
コーチングの祖とされる
「トマス・レナード」や「ティモシー・ガルウェイ」
レナードの部下である「ローラ・ウイットワース」が
繋がっているというのだ。
現にレナードとウイットワースは
【EST(エスト)】セミナーに参加しておりその縁で
エアハルドの会社の社員として働いてもいる。
⑤コーチングの教材をめぐる仁義なき戦い
「レナード」と「ウイットワース」は共に
コーチングを世に広めた重要人物とされており
彼らはエアハルドの会社総理部で働いていた事から
「EST(エスト)」について熟知していたはずである。
まずレナードについてだ。
レナードは「EST(エスト)」のセミナーを参加
した事をきっかけに「価値ある人生と仕事をつくる」
事を目的にパーソナルコーチングのコースである
「デザイン・ユア・ライフ」と呼ばれる
カルキュラムを打ち立てる。
なお、ここで会社からセミナーのアイデアを
無断で使用したとしてエアハルドから裁判を
起こされている。
そして1992年にレナードはコーチ養成機関である
「コーチユニバシティ【以下コーチU】」を設立している。
当時のコーチUの特徴は対面できずとも受講者が
どこでも参加できるような(テレフォンクラス的な)
仕組みを作ったとされている。
そして3年後にレナードは脱退し
「国際コーチ連盟【ICF】」を設立している。
面白い事に1992年にレナードが「コーチU」
を設立した同年に部下のウィットワースが
パーソナルコーチ養成機関である
「Coaches Training Instiute【以下CTI】」を設立している。
※同年に同じコーチ養成機関を設立に
両者は何を思ったのだろうか・・・?
ちなみに、レナードのコースを受講した
ウイットワースはレナードのワークショップの
資料の提供を求め一度承諾したが
直前になって返却する様に迫るような
嫌がらせを行っている。
※さらに「知的財産権の侵害」だとウィットワースを脅している。
ちなみに余談だが私が元々所属していた
コーチング団体も自分たちの資料が外部に
漏洩しない様に徹底していたと思う。
団体を離脱してもそこの説明は徹底していた。
(それが普通か・・・?)
ともかくその様な背景には
上記の仁義なき戦いが影響していたかに思われる
がどうだろうか?
ここで興味深いのは、元々自己啓発セミナー
が発端であったコーチングが徐々に
受講者自らがコーチとなる意図を帯び始めた点
にあるだろう。
しかしこの点についても社会的な問題が指摘されている。
そもそもコーチングはピラミッド・スキーム的な
資格商法を通じて広まったとされ、
ビジネスであり専門的職業ではないため、
参入障壁はなくだれでも自称することができた。
アメリカでは子育て中などに最適な在宅ビジネスワークとし
てコーチングの資格を与える詐欺的商法が横行し
連邦取引委員会(FTC)が2013年1月に悪質な
事業者を社名と経営者名をあげて摘発・公表して
注意喚起を促している
以来、連邦取引委員会の消費者保護局が
コーチングは詐欺、虚偽の広告、顧客への
金銭的損害が発生する可能性が高い
として厳しい姿勢で臨む一方、インターネット
だけではなくスマートホン向けにも
コーチング、特に資格取得をともなう
ビジネスモデルへの注意喚起動画
を作成し広報に努めている。
アメリカ連邦取引委員会が消費者に向けて、
コーチング商法に注意して下さいと呼びかけた警告文
は以下を参照にして頂きたい。
ここまでをまとめると
1960年代に東洋思想と人間性心理学者の基で
生まれたコーチングの基となる自己成長の思想は
1970年代に入って個人の成功を目指す自己啓発セミナー
に変容をきたし、レナードがコーチングを商品として
パッケージ化に成功させ広がったと考えると良いだろう。
なお、アメリカプロコーチの「ブロック」という
人物が2005年に1300人を対象にコーチングに
最も影響を与えた人物がだれかという調査を
行った所1位がレナード,2位がエアハルド
5位がウィットワースであったそうだ。
⑥2000年以降の心理学的,科学的な知見に基づくコーチングの大頭について
スポーツ心理学の父である心理学者のグリフィスは
1926年に「コーチングの心理学」という書を
残しており、コーチングと心理学の結びつきは
スポーツ分野を通してあったとされている。
1970年代以降の「商業的コーチング」は
グラント(Grant,2007)によれば心理的問題を強く抱える
クライアントに対応できず悪化させていたという
問題が発生したとされている。
また、北米では自社で雇用するコーチの質の問題
が指摘され大学院レベルの行動科学
(すなわち心理学)の学位の高い資格水準が
求められる様になった。
「エストのプログラム」や「人間性心理学」で用いる
知識だけでは対応できない事がコーチ側でも
問題提起された背景から心理学との結びつきを
強める様になった。
また心理学界隈からもセラピーよりもコーチング
の方がニーズがあった事があり、現にロンドン大学
教授のパーマーが医療職者に認知行動療法
を教えるうちに、コーチング心理学の
プログラムを実践し始めている。
2002年にはグラントとパーマによる
コーチング心理学の定義が記された論文も
発表されている。
そしてアメリカでは1998年にポジティブ心理学
が大頭し、わずか数年の間に世界規模の
大きな組織的ネットワークを形成し
修士課程や博士課程に導入されるほか
大量の書籍やハンドブックが増え続けている。
また、ハッピクラシー,幸せ願望に支配される日常,
エドガー・カバナスによると、
国際コーチ連盟が算出するコーチングビジネス
が生み出す経済規模は年間 23億56万ドルと
推定され,その様な背景がポジティブ心理学と
コーチングをつなぎ合わせたのではないか
と言う指摘が述べられている。
※やや邪推しすぎな面は感じるが・・・
実際、2004年と2005年には
「管理職向けコーチングのポジティブ心理学に向けて」
「ポジティブ心理学とコーチング心理学,統合の視点」といったタイトルが。ポジティブ心理学の論文やその章にみられた。
そして2007年にはセリグマン自身が
「コーチングとポジティブ心理学」
と題した論文を発表。
彼は以下に述べている。
さらに2011年には更に踏み込んで
「ポジティブ心理学はコーチとして充分な
資質資格証明のは発行を担う学問分野になるべきだ」
とも述べている。(Seligman Flourish,P70)
ちなみにコーチング心理学者が行う
心理学的コーチングアプローチ
上位5つを紹介すると(Palmer&Whybrow,2018)
1位:ポジティブ心理学
2位:認知行動アプローチ
3位:マインドフルネス
4位:解決志向アプローチ
5位:ストレングスベースド
だという調査結果が得られポジティブ心理学が
コーチングの分野に積極的に参入している事が
見て取れるであろう。
以上の背景から私はコーチングの歴史を
「新自由主義的市場を加速させるためのツール
であり援用としての歴史」と評したのである。
⑦ここから先のコーチングはどこへ向かうのだろうか?
以上の事から少しまとめると
コーチングの源流を「人間性回復運動の流れ」と
見出した場合、東洋思想の影響は十分に
加味し取り入れるべきではないだろうか?
また、「経済的成功」や「幸せ」に埋没してしまい
返って悲劇的な事になるケースも多いかもしれない。
※現にアメリカでは声明も発表されている。
だからこそ、本来のコーチングの目的を再定義しなければ
ならない時期なのかもしれない。
(多分・・・(笑))
私はコーチングを提供しまだ日が浅いし
ここまで大それたことを述べる資格は
ないのかもしれないが、個人的なモットーがある。
それは「人々の役に立つ知識こそが真の知識である」だ。
故にどこの学派やどの団体で所属しコーチングを
提供しているというのはそこまで重要な問題ではない
と考える。クライアント中心にいかに役に立てる
現場知に基づいた知恵や技法を提供できるかが
あらゆる支援の本質だと個人的に考えている。
その様な意味では、「コンサルティング」や「カウンセリング」
や「普通の相談」も普遍的ではないだろうか?
また、時代や文化的な背景も忘れてはならない。
コーチングはアメリカ発祥であり個人が
自立し強く生きていくための方法であるが
それが今の時代に適しているのか再考する必要もある。
※コーチングの在り方は学派や団体や
働くフィールドにより千差万別である事は
もちろん承知している。
個人が自己責任論というリスクの担い手になった
今の時代において個人のレジリエンス(逆境に打ち勝つ力)
のみにフォーカスして能力を高める介入は果たして良いのか?
独立起業ブームであった時代と今の時代のニーズは
多少違っているしやり方は変えなければいけないのかも
しれない。社会の流れと心の様相は同期しているのだ!
そして社会の暴力によって病んだ
人に対して「個人の努力による働きかけ」は少し
惨い仕打ちだと私は感じてしまうのだ。
また、日本文化において人生意味-目的,幸せの追求
等々のアメリカンな個人主義的な在り方に
親和性があるか否かも考えなければならない。
※個人的には日本は服従(おしとやか)を美徳とする側面が在るため
ここは西洋を見習い取り入れなければならないと考えている。
と言うように自分だけのコーチングを語るための言葉
が現代には求められるかもしれない。それは単なる
所属団体の定義や心理学派の言葉だけでなく
自分の経験,現場知,時代背景も加味した
「語る言葉」である。
独自固有のありふれた形で良くも悪くも乱立する
コーチングが今後は大頭するのではないかと推測する。
とまあ持論を述べてここで打ち切りたいと思う。
ご拝読感謝いたす!
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なお、参考文献は以下の通りである。
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