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台湾映画「本日公休」を観て感じる「ま、それも悪くないか」について

台湾映画の「本日公休 DAYOFF」を観てきました。

老いることについて、人それぞれの考えはあれど
どこか「仕方ないこと」だと感じていると思います。

私はこの映画を観たあと「それも悪くない」と思いました。
そう「歳を重ねることは素晴らしい」とか壮大な感情ではなく
「悪くない」
「別に悪いことじゃないからいいか」
そんな感じで一つの荷物を肩からポンと下ろしてくれるような感覚。

映画冒頭、アールイさんがお得意さまの出張散髪のため出かけるシーンなのですが
縦列駐車した車を前後にぶつけまくりつつ、なんとか出発してスタート。
台北から帰省した娘の一人は母がどこに行ったかわからず途方に暮れる。

音楽の中に自然に入って馴染むハサミの小気味良い音。タイトル。
もうこの時点でワクワクするのと映画全体の雰囲気を感じ取れて最高です。
私は一気に引き込まれました。

全編を通し、主人公のアールイさんのいろんな面がとても丁寧に描かれているのが印象的。
ローカルな理髪店を営む店主として、
子供を心配するお母さんとして、
元嫁のお義母さんとして、
いつも髪を切ってくれる近所のおばちゃんとして、
たまたま出会った理髪師として、
まだまだ現役で働いている同年代の友人として…

人同士の関係性を丁寧に描いているから映画としての美しさと現実味、その塩梅が素晴らしいです。
画面を通した海外の世界なのに自分の身近なところに感じられる。
だから私たち観客はアールイさんやその他の登場人物を他の誰かと重ねたり懐かしむ瞬間がある。

作中でも印象的な登場人物、元娘婿のチュアンは自動車の整備士をやっている心優しい男性。
アールイさんの娘のリンと離婚した後、孫のアンアンを連れて散髪にやってきます。

娘のリンはしっかり者で、自分のことは自分でやる、人に迷惑をかけてはならない。という強い信念があるような感じ。そうして生きてきた自信もある強い女性。
逆に元娘婿のチュアンは困っている人を放っておけない、
たとえ自分が犠牲になったとしても目の前の人を大切にしたいという男性。
仕事場のホワイトボードには払われていないツケがたくさん書かれています。

どちらの考えもとてもよくわかるし、それぞれ大切なものの方向が違うだけでどちらも必要な考えです。
けれど、正しさだけで言えば他人に優しくするというチュアンの善性に敵うものはありません。
リンの台詞に「あなたと居ると自分がわがままに思える、お金第一でそれしかないような。私はそんな人間じゃないのに。」
といった内容があるのですが、すごく良い台詞だなと思いました。
何が正しい、どうすべき、わかってるけど共感出来ない。みたいなものがすごく篭ってる感じがして。

そして実際の親子であるリンとアールイさんよりも、元娘婿のチュアンの方がアールイさんと普段からうまく関われているのもすごくよくわかる。
この辺の関係性の描写が本当に素晴らしい。
アールイさんとチュアンの仕事への向き合い方と共感性。
そして家族だから言えること、他人だから言えること、信頼すること、それぞれ種類が違うんですよね。

もう一人の娘は台北でスタイリストをしています。
「久しぶり!!魔王!!悔悟しろ!!」
「ずるい!俺は!負けるわけにはいかない!!」

と日本語で言いながらデカいフォークを振り回す謎のCM撮影がかなり印象的です。台湾映画に高確率で登場する日本語、すごく好きです。

この娘の彼氏が浮気デート中違反切符を切られてしまい、それがアールイさんのところに届いて娘に会いに台北まで行くのですが
娘の様子を見ると結局言い出せず、実家で作ったドライレモンと台中のチリソースなどをお土産に渡しそのまま帰ります。
ここだけだとお母さんの優しさが垣間見えるシーンなのですが、素晴らしいのがこの娘がアールイさんの出張散髪中に帰省した折
その浮気現場違反切符が散髪台に挟んであるのを見つけて「もう!!」とショックを受けるシーン。

娘の代わりに違反切符の料金を払ってあげたり、会った時に直接言わないで居てくれたけど、
常連さんとアールイさんの間では話題にしちゃうその感じ。オカンみがあり最高です。

どんな話をどんな風にしたんだろう、映画をここまで観た人にはアールイさんと常連さんの会話がうっすら見えてくる感じ。たまりません。
これは映画館で是非味わってほしいところ。

こういったコミカルなシーンとひたむきな瞬間が人生のように織り混ざった映画で観ている最中ずっと暖かいものを感じられます。

無添加だから体に良いという理由で大量に作り続けるドライレモン、
機械に不慣れなお母さんがLINEで送ってくる縁起の良いことがやたら書かれた謎の自作画像、
息子が言った太陽光パネルに関する受け売りを他の誰かに得意げに言ってみる瞬間、
道でたむろするガラの悪い若者集団に「邪魔だから」という理由でクラクションを鳴らしまくるところ、
自分が心配しているはずだった子供たちに逆に心配されすぎて不出来な年寄り扱いされた気がする表情、
長年自分のお店に通ってくれたお得意様との思い出を語る瞬間。
朝早起きしてしっかり準備するのにスマホも水筒も忘れて家を出ちゃうところ。

「そうそう、うちのお母さんもこういうところがあったよな」

「元気にしてるかな」「たまには帰ろうか」

こっちが勝手にノスタルジーに浸った気持ちで帰省。
え?友達と旅行に行ってて居ない?
しかし会ったら会ったでオカンやかましいなと思う時もある。それが実家。

だってお母さんも一人の人として人生を日々生きてるから。
いつか終わりは来るんだろうけど、
こんな風に過ぎていく日々も、家族も、まあ悪くない。

本日公休、おすすめの映画です!


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