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酸っぱいブドウとキツネ

 腹を空かせたキツネが歩いていると、おいしそうなブドウがなっていた。
 よし、食べよう、と思って取ろうとするけど届かない。
 いくら手を伸ばしても届かないので、ついにあきらめた。
 去り際につぶやいた。
「ふん。あのブドウはまだ熟れてなくて酸っぱいさ」

 自分の力不足の結果なのに、何か理由を考えるのは、人間世界でもたくさんある。

 閑話休題それはさておき、ブドウといえば、ワイン用のブドウは収穫しやすいように地面から上に這わせて低い場所に実ができるようにしてある。
 食べるためのブドウは頭上のブドウ棚に這わせる。ブドウ狩りでおなじみの風景だ。
 ブドウはツル植物なので、ほっておけばどんどん高く登ろうとする。


 とても背の高い男がブドウの栽培を始めた。
 ブドウ棚を自分の背の高さに合わせて作った。他の人には手が届かない高さなのだが、一人で全部手入れできるので困ることはなかった。
 背の高い男が亡くなった。
 ブドウは今年も実をつけたけど、他の人には高すぎて手が届かない。
 他の人は、「ふん。あのブドウはまずいに決まっている」と、捨て台詞をはいたとさ。

 えっ、高い場所では脚立でも使えばいいかって。うん、そうだね。
 でもね、ブドウ畑の地面は柔らかくて、脚立を立てにくいんだ。
 この物語を書いている私は、自分の説明不足を他の理由につなげて言い訳をしてしまう。「あのブドウはまずい」と言っているのと同じだ。

 では別の話。
 背の高い男とは反対の、こんな実話がある。

 果樹園を営んでいる夫婦の夫が亡くなった。
 残された妻は、一人で果樹園を続けようと思った。背が低かったので、自分の高さに合わせて、ブドウ棚を低くしてもらった。
 ブドウ棚の高さを変えるって、けっこう手間がかかる。
 それでも作業しやすいように手間暇かけて低く作り直してもらった。
 ブドウの人気も出て、ブドウ棚を少しずつ増やしていった。もちろん自分の背の高さに合わせた低いブドウ棚。
 残された妻が亡くなった。
 ブドウ棚は低いまま、新しいブドウの実をつけた。
 残された息子は、ブドウ棚に入るときは、いつも背を丸め、無理な姿勢をしなければならなかった。

 これはオチのない実話を少しアレンジしたもの。
 イソップの寓話から昔の田舎の風景を思い出した。田舎にはブドウ畑がたくさんあった。
 そういえば田舎ではキツネも時々見かけたなあ。

 店で売っているブドウを見ながら、昔の風景を思い出させるイソップのお話。
 

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