古川柳つれづれ 来た月を入れてはつはつぐらいなり 柄井川柳の誹風柳多留三篇④
テレビのワイドショーは、少なくなったとはいうものの、どの局もやっている。WBCの影響で、野球のニュースというにはゴシップ的な内容がたくさん流される。今も昔もうわさ話はみんなの興味を引いた。
江戸時代に柄井川柳が選んだ「誹風柳多留三篇」の古川柳作品の紹介。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。
自己流の意訳を載せているものもあり。七七のコメントもつけたりしている。
来た月を入れてはつはつぐらいなり
303 来た月を入れてはつはつぐらい也 たづねこそすれたづねこそすれ
「はつはつ」は、かろうじて。やっと。という意味。何を「尋ねた(たづねこそすれ)」かというと、お嫁さんが妊娠したので日数を数えたという話。嫁に来た月を計算すると、やっと数が合うという句。細かいことを探って、江戸の芸能レポーターだな。
来た月を入れてちょうどくらいかな
新婚夫婦にできた子の年
こうして子ができ、江戸の町は人口百万都市となった(1721年頃)。
今は少子化が問題になっているけど、地球の資源に対して人間はいくらくらいいればいいのだろうか。江戸の町も人口が多くて困ることがたくさんあったようだ。
現在の人口は地球に対して非常に多すぎる。ただ産めよ増やせよだけでいいのだろうか。
食いかけて下女は返事をしてもらい
387 喰かけて下女はへんじをして貰い いわゐこそすれいわゐこそすれ
「祝いこそすれ(いわゐこそすれ)」という前句なので、なにか祝い事の日なのだろう。雇われの下女はてんやわんやで働いて、やっと食事にありついたら、「おーい」と呼ばれた。口の中に食事が入ったままなので、誰か別の人に「はーい」と返事をしてもらった。日常生活の句。
食いかけで呼ばれた返事は人頼み
こっちの事情もみてくれアナタ
居続けに初めて見出す白あばた
465 居つゞけにはじめて見出す白あばた 恋しかりけり恋しかりけり
「居続け」は遊女屋に泊まること。「白あばた」は疱瘡の跡が白く残ったもの。化粧で隠していた白あばたが朝の顔に表われていた。それを「恋しかりけり」といっている。まさに「あばたもえくぼ」。
疱瘡は天然痘のこと。天然痘は1980年に根絶宣言が出された、人類が唯一撲滅できた感染症。死亡率も高く、治っても顔や体に「あばた」が残った。
初めての朝にあなたの素顔見る
マスクなくては誰かわからず
ころび合おふくろさまのやうに見へ
512 ころび合おふくろさまのやうに見へ あぶなかりけりあぶなかりけり
「ころび合」は浮気、密通のこと。「あぶなかりけり」と危ない浮気関係の相手が、おふくろのように年上という句。というより、実際に女房の母親と密通していたので句になったのかもしれない。こっちの方がよっぽど危ない。
浮気する相手母親のような人
男と女はこれまた不思議
好きになってしまったものはしょうがない。家と家の結婚もあれば、許されぬ恋もある。江戸の昔であろうとも現代であろうとも、人と人がいれば恋が生まれる。許されぬ恋であればあるほど思いがつのる。そして歌も生まれる。
川柳だけでなく、万葉の昔から、人は人に恋してきた。